軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

暗礁に乗り上げた普天間基地問題

とうとう恐れていた事態になった。今朝の産経新聞トップに、在日米軍再編問題が「決裂」し、仕切り直しになったという記事が出た。「日米外務・防衛当局の審議官級協議が決裂、再編協議は事実上仕切り直しになった」というのである。原因は「普天間基地移設問題で意見の隔たりが大きい上、協議の長期化に不満を募らせていた米側が、首相官邸を中心にした協議態勢を再構築するよう日本側に強く迫ってきたとみられる」という。『失われた10年』を考えればあまりにも当然の事ではないか。
昨日私が書いたように、この移設問題は橋本・クリントン間で唐突に決まったものであり、現地米軍も大きな不満を抱えていた問題であった。クリントンは軍の反対を押し切って賛成したといわれている。現地米軍が予想した通り、返還が決まった後、米軍側は普天間基地を使用する事は出来たが、一切新規施設の建築は出来なかった。不便をしのんで我慢しつづけてきたのだが、責任ある日本側政府関係者は、一度でも現地を訪れて、米軍側の実情を聞いた事があるか? 他の基地内にテロ対策の為の「実弾射撃場」を建設して訓練すると、周辺住民に危険だから中止せよといい、ヘリコプター事故が起きると基地撤去運動を黙認し、ことごとく米軍の訓練を「阻害」しつづけてきただけであって、何ら問題解決に進展は無かった。兵士達は『日本もまるで韓国と同じだ』と感じているに違いない。そんな非協力的な国になんで命をかけることが出来ようか!
この10年間で、何人の大臣が交代し、何人の官僚が交代したか? この問題に火をつけた首相が責任を持って打開に動いたとは聞いた事は無い。現長官は防衛施設庁長官を更迭して進展を図ったと新聞は伝えたが、その逆になったではないか。一体真面目に我国の「安全保障態勢確保」と、その為の日米関係の強固な維持を考えているのだろうか?
周辺海域ではガス田を巡って日中が対立していて、中国海軍軍艦が周回したのは、つい先日であった。その上、尖閣領有を巡る対立には、なんと台湾までが参入しつつある。当事者である沖縄県は、ただ騒ぐだけで、自らをも含めた安全確保なんぞ考えていないように見える。騒いでODAを狙うどこかの国のようではないか。
残念ながら、我国は「自らの手で自らを守ろうという意識」に欠けていて、あたかも敵国のお先棒を担いでいるように米海兵隊員達の目には写っているであろう。米国が日本に駐留するのは、勿論米国自身の「国益優先」であるのは論を待たないが、それによって我国が自国の安定と繁栄を享受しているのは火を見るよりも明らかではないか。
何時までもだらだらと先の見えない「約束」を弄んでいると、いくらお人よしのアングロアメリカンでもいい加減腹が立つのは当然だろう。それにしても何故今ごろになって急にキャンプシュワブ基地内に1500メートルの滑走路を設けるというお茶を濁すような案を提案したのか、全く理解に苦しむ。
これでは再び米国内に「安保ただ乗り論」が復活するだろう。
「日本政府筋は『決裂だ。米側は審議官級協議をこれ以上繰り返しても結論は出ないと判断しており、当面、協議は開かれない』と語った」というが当たり前だろう。「日本政府が一向に地元調整に入らない事に不満を募らせている」とも言うが、既に10年経つのである。
以前「沖縄県が代替基地建設後使用期間を15年としその後返還する」といってもめていた時、ある通信社の取材を受けたが、私は「15年という期間の問題は凍結して速やかに工事を始めるべきだ。完成後15年たって、日米間で再検討会議を開いても遅くは無い」と答えた事がある。
どうだろう、本当に決裂したらいっそ普天間基地返還宣言を『白紙撤回』し、航空管制は現状のまま、事故対策上基地内及び周辺を整備し、騒音問題には対策費『大幅アップ』で対応したら…
2008年にブッシュ大統領は確実に交代する。勿論その前に小泉首相は『元老』になっている。ロシアのプーチンはどうなるか?北京オリンピック問題で中国は国内騒乱か?
いずれにせよ南西方面は穏やかに過ごせるとは思えない。唯一の安定剤は在沖縄米軍なのである。
将来に禍根を残すような『日米協議』であってはならない。この問題に対する小泉首相の『強力なリーダーシップ』を心から期待する。