軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

日中安保対話で感じたこと

 先月の30,31日の二日間、中国社会科学院日本研究所から来日したメンバーと、岡崎研究所で「第3回日中安保対話」を行ったが、色々考えさせられた。
 第1回目の対話は、2000年9月に北京で行ったのだが、我々は元自衛官3名と主任研究員の計4人で、北京側はスタッフを入れると10名以上、同時通訳つきで侃々諤々の討論だった。特に北京側の若手研究者が「日本帝国主義」「侵略」「南京大虐殺・・・」などなど、『硬直した宣伝文句』しか発言しないので、私は日中間の、特に1930年代の例を勉強するように諭したのだが、彼らは「そんなことは我々は教科書で習っていない!」と叫んだものであった。「それなら日本に来ればよい。日本では学術書から“エロ雑誌”まで、自由に手に入る」と切り替えしたのだが、勿論彼らは殆どその実態を知っているのである。その証拠に日本に留学する正規の留学生を含めて、在日中国人は、在日韓国人を抜いて、やがて60万人に達することが挙げられる。勿論、不法滞在者を入れると、自衛隊と警察の“戦力”約50万をはるかに超える。
その場では、あまりにもしつこいので、「そんな不勉強な発言をするなら、日本青年の中にもう一度戦争して決着をつけるか!という空気が生じるぞ」と警告したのであったが、そのため?か、その後上海国際問題研究所との間では順調に例年会議が続けられたものの、北京との間は開かれなかった。
 しかし、突如昨年11月に再開されたとたん、まだ一年もたたないのに先月10月に第3回目が開かれたのである。
 
 今回は、安倍首相の訪中で首脳会談が開かれた事、及び北朝鮮の核実験直後だったこともあって、二日間の討議は実に有意義であった。
 一昨日、岡崎研究所で我々参加者による総括討議を終了したのだが、メンバー各自、それぞれ専門分野での成果を披露し、有意義だったことを確認した。

 今回、私は個人的に次のような点に注目した。
1、「靖国問題」は、実は胡錦濤主席にとっては以前から「どうでもいい日本の内政問題」なのであって、一日も早く「解決」したがっていたのではないか?と思っていたのだが、今回それを確認できた。
 あの問題は、中国側としては、反日の塊のような江沢民前主席が作り出した外交カードに過ぎず、それに所謂媚中派といわれる日本側のメディア、政治家、経済人たちが呼応した“ヤラセ問題”に過ぎなかったといえる。
 しかし、中国側としても“面子上”小泉首相時代には解決せず、次期総理になって早い段階で解決しようとしていたと思われる。そしてそのとうりになった。
 まだ予断は許さないが、今後我々日本人が注目すべき点は、今まで「親中・媚中派」であった日本人自身の豹変振りであろう。
その意味では、核武装論を封殺しようとした政治家などは、まだまだ中国側の意図を受けて「頑張っている」少数派の例だと思われる。しかし、銅像を立ててまで、崇め様とした前主席は、権力闘争に敗れつつある。そこで上海派を見限って、今度は北京派に媚を売ろうとしているのであれば、したたかなものである。

2、次は「軍の掌握」についてである。夕食会の会話の中で、最近中国軍人の給与が将官から一兵卒に至るまで、一斉に2倍になったことが明らかになった。
 私は過去の各種会合で、軍事費増大を懸念する質問をすると、彼らは奥歯にものが挟まったような回答しかしなかったのだが、3年前、上海である研究者に次のような質問をしたとき、給与の増大がかなり深刻になっていると感じたことがある。
 私は中国軍の新兵の月給が「100元」だと聞いていた。100元といえば、地方出身兵にとっては見たこともない「高額」だったものの、教育を終わって外出した新兵が、北京や上海の繁華街で見たものは、100元紙幣を惜しげもなく乱発する、同世代の若者たちの姿であり、相当な不満がたまっていると聞いていたのである。
 そこでその問題を問うと研究者は「そうです。しかし党は確か200〜300元に上げた筈です」という答が返ってきた。私は軍部の相当な不満が、この問題を押し上げているのでは?と見ていたのだが、今回その裏づけが取れた。
 当時から上級軍人(大佐、少将クラス)の平均的月給は3000元前後だと聞いていたので、参加した軍人に「では今回、6000元に昇給したわけだ」というと、「私は7600元になりました」と頬を緩めた。
 今度はむしろ一般研究職のほうが、基本給以外は諸手当でまかなわれているようで、若干不平?があるように見受けられた。
 その上、江前主席は“えこひいき”で将軍に昇任させることが多かったようだが、それも士気に大きく響いていたようである。しかし、今回の大刷新で、胡錦濤主席は軍を“確実に掌握”したと見ることが出来るのではないか?

3、次に「台湾情勢」である。私の「中国は大国らしく、台湾への武力攻撃を控えよ」というプレゼンテーションに蒋所長以下激しく反論してきたが、「台湾は中国の領土であり、台湾人も中国人民である」という、以前と少しも変わらない硬直した反論だった。そして「空母を装備し、近くロシアからその艦載機を50機以上購入する計画だが、これは一に台湾に対するものである」という。
彼らは「この問題は中国の『核心問題』であり、絶対に譲ることは出来ない」と強調したから、「岡崎所長がそれじゃ戦争ですね。国に絶対譲れない一線があるとき、必ず戦争が起きることは歴史的事実です」と言ったから結論は出た。
 彼らは“台湾が独立を宣言したら必ず軍事攻撃をする”と公の場で言ったのである。しかし驚いたことに、脇から軍人が「まだ猶予はある。解決の道は残されている」と言ったのには驚いた。
 多分察するところ、彼らは迷いに迷っているように思える。私の勝手な想像だが、万一台湾が「独立宣言」すると、ウイグルチベット、モンゴル、その上東北部の朝鮮・満州族の間にも「分裂」状態がおき、国家騒乱になることを警戒しているに違いない。しかも今や、北朝鮮は「核保有」を自称し、東北部の緊張は高まっているから、そこへ南で紛争が起きれば、中国軍は極めて困難な作戦を強要されることになる。この問題は、台湾の政情とも大きく絡んでいるのだが、我が国にとっては極めて憂慮すべきことであろう。

4、最後に、核問題である。北朝鮮の核が、ミサイルと結びついて「本当の核兵器」を保有したとなれば、中国の戦略も修正が必要になる。中でも最大の懸念は、日本が核武装するという悪夢である。今回、彼らは「日本核武装阻止」のために全力を挙げていると感じた。そういう観点では、中川政調会長の「核問題討議発言」はタイミング抜群で、極めて効果的であったと言える。
 まず、早速ライス米国務長官が来日して「米国の核の傘の信用性を強調した」事が挙げられる。その意味では、中川氏は偉大な功績を挙げたといっても過言ではなかろう。昨日の産経新聞に、岡本氏がこの点を取り上げ、また今朝の産経には岡崎所長も書いているが、その是非を含めて大いに討議することは必要である。
 ところがその言論を封殺しようとした政治家たちがいる。彼らこそ日中安保対話で中国側が最も懸念している「日本の核武装論」を封殺しようとしたのだから、「新・媚中派?」だと私は思った。
 国内に困難な多くの問題を抱えている中国は、それを解消して21世紀に向け大きく発展したいと考えている。そのためには日本からの協力が欠かせない。「過去にこだわらず前進すべし!」とする、今回の彼らの総合意見は、十分に傾聴に値する、と感じた会議であった。

 ところで蛇足だが、中国の「“反日で尚且つ反政府”活動家」たちのサイトでは、岡崎研究所の「4人組」は中国本土で大変“有名”だそうである。その一人に私が入っていることは蒋所長自ら教えてくれた。しかも前回の私の「中国漫遊記」に書いた所見などが非常に参考になったので、今回も是非所見をブログに書いて欲しい、と要望された。本音を書いている私のブログを褒めてくれるなど、さすが!だが、情報網の現実を知る上では大変参考になる。来年の訪中が楽しみである!