軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記 1

 平成17年11月15日、小雨模様の東京都内から始発電車で成田に向かった。AIR CHINA(中国国際航空)CA422便で北京に向かうためである。
 
 岡崎研究所の特別研究員として、平成12年(2000年)に上海、桂林、西安、北京を周回し、上海と北京で「日中安保対話」を実施したのだが、北京の社会科学院日本研究所では「激論?」となり、5年間お声がかからなかった。しかし、国際化が進んでいる上海国際問題研究所(国問研)では、我々と意見が一致し、以後毎年対話を継続することになったのだが、これは当時岡崎研の主任研究員であった小川彰氏の尽力が大きかった。
 以後毎年、上海と東京で、場所を変えつつ「対話」が継続されてきたが、その後極めて残念なことに中心人物であった小川氏が癌で急逝した。
 しかし彼の遺志を受け継いで、上海との間では毎年対話が継続されてきていたが、北京との対話は今回5年ぶりに復活したのである。
 そこで今回は、今後の発展を考慮して、我々「老兵」に加えて気鋭の若手を参加させることにし、日本側は団長・川村純彦副理事長(元海将補)を団長に、私、金田秀昭理事(元海将)、阿久津博康主任研究員の他に、潮匡人日本戦略フォーラム政策提言委員、吉崎達彦理事(双日総合研究所副所長)、鈴木邦子東大先端科学技術センター特任助教授、王雅丹東南アジア文化交流財団評議員の8名で会議に臨んだが、特に私には、北京の中国社会科学院日本研究所との5年間のブランクがどのような形で表れるのか大いに興味があった。
 中国側は蒋立峰所長以下20名が待ち構えている。参加者はそれぞれ事前に簡単なペーパーを提出したが、私には「中国の対外政策に関する疑問」という命題が与えられたので、大意、次のようなレジュメに添って発言した。

前言
 *戦争は政治家の独断、誤判断、軍人の「能力見積もりミス」によって起こることが多い。
* 軍人は指導者が「軍事的判断ミス」をしないように助言すべき。
1、 中国の「反日デモ」は日本人に対中嫌悪感を生む失策であった。
* 4月の中国各地で起きた「反日デモ」は、日本国内で詳細に報道された。
* 日本人は、反日愛国教育を奨励した江沢民氏が1998年11月に来日して、宮中晩餐会でとった態度を思い出した。
* 在外公館の被害状況と外務省の弱腰に国民の大多数が激怒した。
西安での日本人学生の“寸劇”や、珠海での“買春事件”は恥ずべき行為だと多くの日本人は認識していたが、8月のサッカー大会の「反日行動」で、中国人に対する大きな疑問が生じた。
* 更に、日本国内での中国人の凶悪犯罪がこれに輪を掛けた。
* 私にはこんな拙劣な行動を許した「貴国政府の真意」が未だに理解できない。

2、 上海協力機構の危機について
中国共産党が国民党に抵抗して自立したように、「民族自決運動」は今後ますます盛んになるだろう。
* 「パワーゲームと民族自決運動」は力で押さえつけようとすると、天安門広場事件のように混乱が生じやすい。
中央アジア諸国の政治体制の変化は米国の介入を招いた。
* 敢えて内政干渉するが、西進を強調する貴国の戦略がアジアの「不安定要因」にならない様な配慮が望ましい。

3、 急展開する中露関係と不透明な人民解放軍の掌握について
* 軍の近代化を推進することは、各国の自由意志である。
シビリアンコントロールが徹底している日本から見ると、貴国の高級軍人たちの「反日アピール」や、「対米核攻撃論」に見られる「政軍関係」の不透明さが気にかかる。
* 米国と周辺諸国に不信感を抱かせる解放軍の「指揮統制権」と「軍事費増強」の不透明さを除去することを期待したい。
* 貴国の核論議を聞いていると、日本国内での「核武装論」はますます高まるだろう。

結び
* 私は日支事変の原因と経緯について調べているが、今日の日中関係を見ると1930年代の「侮日」「反日」政策を想起する。 日中ともに「メディア」に扇動されてはならない。
* 貴国が、日本人の「眠れる愛国心」を覚ましてくれたことは評価するが、「歴史の真実」に学ぶ謙虚な姿勢が望まれるのは貴国の方ではないか?
* アジアの騒乱を喜ぶのはどこか?を銘記し、アジアの“大国”らしく振舞うべきである。


 CA422便は、20分遅れて0915に成田空港を離陸した。機内サービスは余り期待していなかったから気にならなかったが、入国カードが配布されず、北京に到着後余計な時間がかかったことが不愉快だった。「入国カード」の数量が少なく「切れてしまったのか」それとも最初から持ってきていないのかは分からない。
 ロシアなど共産国に共通するのは「サービス」という概念が欠落していることである。サハリン(樺太)は懸命に努力中だったから、5年後にはある程度普及するだろう。
 その上中国語の「発音」はかなり強弱が激しいので、日常会話そのものが 日本人にとっては何か「怒られている?」様に感じられるのだが、そんなことも中国人に対する一般的なマイナスイメージなのかもしれない。
 ついでだが、帰国時には日本人アテンダントが一人乗っていたが、サービスの物腰は全く違っていた。降りるときに私は彼女に「入国時にカードがなかった」事を告げて改善を要求したが、彼女も驚いていたから、きっと422便だけが「たまたま」不足したのだろう、と善意に解釈することにした。                    (続く)