軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記 2

CA422便は北京空港への着陸態勢に入った。上空から見る大地は実に埃っぽく、相当に濃いスモッグに覆われている。しかしながら、5年前とは打って変わって、眼下に一面に広がる平野はよく区画整理されていて、その中を高速道路が走り、未だに建設中のところも見える。まさか我国からのODAで造っているのではなかろうが・・・。
12時50分に無事着陸、空港はオリンピックを控えているためか、拡張に継ぐ拡張でいたるところ工事中である。パスポート審査も荷物手渡しも以前より随分手際良くなっていたが、我々だけが聊か時間がかかったのは「入国票」や「検疫票」をいちいち書いたためだが、それでも20分ほどで待合室に出ることが出来た。
先行した王さんと、東大に在籍するR教授が出迎えてくれてマイクロバスに向かったが、一歩空港を出るといつものように車のクラクションのオンパレードである。とにかく車が多い上、交通ルールは殆ど守られない。車は北京市内だけでも300万台を越えるというから、やがて排気ガス規制をしないと大問題になるだろう。車もぴかぴか、8年前、5年前に比べて、車種もメーカーも大幅に拡大している。以前はフォルクスワーゲンの「サンタナ」が主流であったが、今や日本車はもとより、欧米の新型車が目立つ。
13時45分に宿舎である「和敬府賓館」に到着し、午後は近くの「雍和宮」を見学した。この寺はチベットラマ教の仏閣である。門を入ると出店が並んでいて客引きが始まる。
R氏が入場券を購入している間に出店に立ち寄ると、人民軍の帽子の中に「毛沢東語録」が並んでいる。日本語版は一冊85元(一元約14円)、吉崎氏が購入希望だと知ったおばさんが懸命に勧めるが、「一冊10元なら購入する」と彼が言うと冷たい反応。王さんが交渉したが交渉は成立しなかった。帰り際に再度王さんが交渉したが20元までしか値引きしなかったので結局吉崎氏は購入を諦めた。さすがは「経済学者」だけの事はある!
寺の内部に入ると、日本の若者とさほど変わらない服装をした若者達が大勢いて、一生懸命に参拝している。中国の線香は長くて量が多いのだが、その線香の束に火をつけ、大きく3度拝んでから線香を供える。参拝する「本堂」は4箇所で、それぞれ一箇所で三体の仏像に線香を一束づつ立てるのだが、一束10元だから合計120元になるから一般庶民には馬鹿にはならない金額である。それでも彼女達は熱心に何事かをお願いしているのである。
中には人民解放軍兵士と茶髪の若い女性のアベックもいて、共産主義と宗教という「許されない関係」をR氏に質問すると、どうやら宗教も「改革開放」され黙認状態というから、今後の展開が楽しみである。つまり、このような若者達が増えれば増えるほど、宗教心というか、日本人と共通の「心」が芽生えてくる可能性があるからである。
現在の「靖国問題」は、日中間の政治上の取引問題だと私は理解していて、その大部分が実は日本の国内問題だと思っているのだが、以前、中国人には「宗教心」が欠落しているから、日本人の「供養」という行動が理解できないのだ、と中国人自身から聞いたことがあるので、参拝する彼らの姿から将来に望みがないわけではないと思ったのである。
4時半にホテルに戻り会議の準備をする。中国社会科学院日本研究所の方は、事前打ち合わせとリハーサルまで入念にやっているらしいが、我が方には言論の自由があり、中でも岡崎研は全く個人に責任が任されていて打ち合わせなど一切ないから、各自の論文よりも自分の発表内容を如何に通訳つきで15分間にまとめるか、が主題になる。
私は前述のレジュメを点検し、後は会議場の雰囲気に合わせるだけだから、その分テレビをつけて夕食まで時間をつぶすことにしたところ、CCTV6で「日本鬼子=大野芳子」と言う劇映画をやっていた。実在したという「川島芳子」をモデルにしたものらしく、台詞はわからないが、ドラマの内容は概ね理解できた。
つまり、日本軍に味方する大島芳子と、彼女に対抗する共産軍の中の女子遊撃隊長・雪梅同志の戦いらしい。大野芳子が村を襲うと、人道的な共産軍が百姓を救う。(大野芳子を装って?雪梅隊が百姓を殺すシーンもあったが)
日本軍の「近藤少佐」は、芳子の活躍で「中佐」に進級、しかし近藤中佐以外の日本軍人の階級章がでたらめなのがご愛嬌。何となく、東中野教授が「虐殺展示写真の誤りを指摘した」著書を思い出す。「大和屋」という和風料亭も劇中に出てくるが、これもなんとなく奇妙。もっともこの当時の大陸の料亭は「こうだった」のかもしれないし、我々が中国人を演ずるとこうなるのだろうから、余り厳しくは問えないだろう・・・
当然のことながら、あくまで共産軍の隊長は良心的で善人だったし、俳優も顔つきが良い役者が演じていたが、日本人である私から見ると変な映画だった。

午後6時半から夕食会が開かれた。湘鄂村という湖北料理屋で、揚子江の川魚がおいしかった。蒋所長以下関係者が同席したが、日本研究所らしく日本語が通用するから便利である。私の右手に座ったO女史は、東大法学部に一年在籍した経験があり、人民日報記者時代に防衛大学で校長にインタビューしたという。
夕食会での私と出席者間の談話を総合すると、
(1) 中国は発展した。ここ5年で大変化した。今後5年は継続するだろう。
(2) 政治は悪いが、特に軍人のアドヴァイスは良くない(5年前に私が今回のレジュメ同様の発言をした事を知っている研究者が直接私に)
暗に「劉発言」と「朱発言」を指している、と私は見た。
(3) 人民は「利益」を身に着け始めた。
(4) 胡錦濤主席は、蛇行しながらも前進していて、落し所(発展)を目指している。
(5) 古い体制は改めるべきだが、人口が多すぎて小回りが効かないから時間がかかる。
(6) 日中が戦えば、益するのは米国である。
 
なかなか有益な夕食会であったが、ホテルに戻り風呂に御湯を入れると、紅茶の出がらしのような色がついている。配管のさびだと思われたが、待っていても仕方がないからそのまま浴びた。石鹸も良く泡立たない。大陸は「硬水」が主体ではないか?と思った。
飲料水だけはミネラルウォーター(1本3元。缶ビール=350mlも同じ3元)でなければ衛生上安心できないが、ネッスル製のこの水も「硬水」のような味がした。
確かに今中国では、「水」と「電力」は相当に厳しい状況にあるのだろう。余計な御世話かもしれないが、こんな状況ではオリンピックが心配である。
聊か疲労気味、9時半に就寝し、明日の会議に備えることにした。      (続く)

 

≪御案内≫
修学院NPO法人格取得記念 特別シンポジウム 「闘論・倒論・討論2005」公開録画
 日時    平成17年11月27日(日) 13時から16時30分
 開催場所  新宿区戸山3-20-1  学習院女子大学201教室
 シンポジウム「日本を考える」シリーズ
「あなたにとって国家とは何か。日本の安全保障問題について」
 パネラー  石破茂・元防衛庁長官。松嶋悠佐元陸蒋。佐藤守元空将。古庄幸一元海将。森満元陸蒋補。川村純彦元海将補。松井健元空将補
 コーディネーター  水島総・日本文化チャンネル社長
 主催   修学院(院長・学習院女子大学教授 久保田信之)
      日本文化チャンネル桜(社長・水島総