軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記 3 「中国社会科学院日本研究所との会議」

 11月16日(水)、0700に起床して窓から外を見ると、東の方に昇りかけた太陽がスモッグに霞んでいる。朝食はバイキング方式だが、ヌードルの入ったスープはうまいが、後は実に「質素」、白人客もちらほらだがコーヒーサーヴィスはないので手持ち無沙汰のように見える。このホテルは主に中国人が宿泊しているらしく朝から「活気」がある。
 古い建物が集中している中国社会科学院は隣のエリアなので、歩いて3分の距離なのだが、この日は入り口を入って直ぐに迷ってしまい、我々は少々遠回りしてしまった。
日本側の潮、鈴木両氏は、午後の便で北京に到着するので、午後のセッションから参加することになっているから午前中の日本側は4人である。

 9時から会議室で開幕式が行われ、蒋立峰所長が大意次のように発言した。
「第一回目の会議(2000年)は成果があった。この会合を成立させた小川彰氏が、今日も目前にいるような気がする。彼の努力には今も敬服している。小川氏のような人がいれば、日中関係もうまく行くだろう。現在の日中関係は困難な状況にある。複雑な背景があるが両首脳はAPECでも会談した。中国外交部も靖国参拝に反対している。新幹線導入については独逸が有利にあり、日本は劣勢に立っている。政治問題が徐々に経済に影響を与えつつある。このままでは不利である。如何に局面を打開すべきか、日中友好のため、忌憚ない討論を期待したい。今回は若い学生が参加している。今後は若い彼らに託したい。
次いで川村団長が挨拶し、一同揃って記念写真撮影後、9時40分から討論に入った。

 第1セッションは「中日安全保障と戦略関係」というテーマであり、司会進行は中国側から金熙徳・日本研究所対外関係研究室主任、日本側からは吉崎氏が務め、最初の発言は私が前回紹介した「中国の対外政策」についてレジュメに添って発表した。

次に蒋所長が「日本の対中国政策」について意見を発表したが、私が注目したのは次の点である。(詳細は岡崎研で総括後公表される予定)
1、 小泉首相の「日米同盟と国際協力」についてどう理解するか?どちらが本音か?本音は「米国との協力」である。
2、 対中政策は徐々に強硬的になった。切っ掛けは瀋陽領事館事件だと思うが,これは日本側が作ったもので,日本側はこれを利用して反中国感情を煽った。
3、 靖国参拝を中国側に認めさせる狙いがある。9月17日に私人として参拝するなど形式的変化はあるものの実質的変化はない。参拝は認められない。
4、 中国脅威論について、中国は東海(東シナ海)での戦争に勝ち目は無いのに何故「脅威」というのか?自衛隊の戦力向上が狙いではないのか?
5、 尖閣問題では「右翼が建設した灯台」を受け継ぎ、日本の主権を主張し、問題は存在していないと主張した。
6、 ガス田・台湾問題は、町村外相の発言が本音であろう。対台湾問題に対する中国の態度は不変である。
7、 憲法草案問題では、平和憲法が果たしてきた役割を認めてもらいたい。
8、 駐日米軍問題では、米軍司令部がいくつか日本に移駐するという。日米同盟は強化された。そしてその対象は中国である。そうでなければ「下地島」に興味を持つはずがない。
9、 日本は、アジアで第二の米国になりたいのである。国内の民族主義が大きく躍進した。総選挙後、新民主主義が台頭し、野中氏は「国内に恐ろしいナショナリズムが存在している」と発言したように、民族保守主義が主流となった。
10、 4月9日の読売新聞の世論調査によると、次期首相候補は、石原氏が30・8%、安部氏が28・9%、小泉氏が15・6%だそうだが、誰がなっても対中政策は不変だと思う。
11、 民主党については、政策の選択を間違った。前原代表は、自民党よりも自民党色が強い。対中政策は不変だろうが、意見を聞きたい。


続いて川村団長が「安全保障と台湾、日米関係」について、山本元海将の論文を代読した。以下、日本側の発言はタイトルだけにとどめて、中国側の意見をメモから拾ってみよう。

陳学惠・軍事科学院教授(上級陸軍大佐)は制服姿で出席したが、「中露軍事協力」について次のように発言した。
1、 中露軍事協力と地域の安全について
共通の利益に基いたものであり(共同安全)、民主的なものである。国際関係上の覇権主義に反対、テロ活動等に反対、二重基準を設定することにも反対である。
西欧諸国、米国との距離を縮めること(軍の近代化?)を強調し、経済の発展に基き軍事も発展すべきで、長期的なもの、歴史的教訓(過去の中露軍事協力)に基くものである。
2、 中露軍事関係は新段階に来ている。
 軍事演習は始めてである。三位一体(軍=政・・・最も大事で信頼関係が大切。軍=技術。軍=行動)の協力。
(1) 政治
1997年以降、参謀部の協同について討議されてきており、元首間の相互訪問でも共通議題になっている。
(2) 技術
売り手市場と買い手市場(正直!!)ではデータの公表が大事である。
米国がEUからの武器購入を邪魔しているが、中国はますますハイテク製品を買う。何故買うのかは次の機会に発言したい。日本側の偵察活動は日に数回あると認識している。士官の教育は大事だから、29カ国に約1000名派遣している。ロシアが大部分である。
(3) 地域の安全
二国が「平和的か」「戦争か」どちらが安定か!中露の関係がモデルになることを希望する。日米軍事関係とは違う。なぜならアンバランスではないからである。
上海協力機構中央アジアの安定に繋がる。6カ国+オブザーバーとしてインド、モンゴル、パキスタンなどが国防相会議を終えて参加しているが、中露の協力があって始めて上海協力機構が成立する。
軍事から経済にシフトして軍事行動能力も高めている。上海協力機構はアジアのバランスを図ることが出来る。冷戦終了後も日米同盟は維持強化されているからである。中露の協力関係は、この地域に安定をもたらすものである。

 いつもの事ながら、通訳を通じての会議だから、なかなか全文は掌握しづらい点があるが、私のメモの内容からは上記がめぼしいものであった。
蒋立峰所長は、読売新聞や今では野に下った、かの野中氏の発言などを持ち出して、小泉政権と日本の政情の変化を分析しているが、聊か論拠不十分であろう。
平和憲法が果たした役割を認めよ」という主張は、「憲法9条に反対する運動」を展開している朝日新聞と瓜二つであり興味深いし、民主党に対する評価も面白い。アジアで第2の米国になりたがっているのはむしろ中国のほうであろう。
 陳学惠上級陸軍大佐の中露関係に関する発言は、正直な点が多々あり興味深かった。
1979年2月に、中国陸軍はベトナムに「懲罰を加える」と称して殴りこんだが、1ヶ月で6万人もの死傷者を出して「目的は達したと宣言して退却」、その後訒小平は軍の近代化に取り組むのだが、未だにその流れは軍内に脈々と流れている様である。     (続く)

 

≪御案内≫
修学院NPO法人格取得記念 特別シンポジウム 「闘論・倒論・討論2005」公開録画
 日時    平成17年11月27日(日) 13時から16時30分
 開催場所  新宿区戸山3-20-1  学習院女子大学201教室
 シンポジウム「日本を考える」シリーズ
「あなたにとって国家とは何か。日本の安全保障問題について」
 パネラー  石破茂・元防衛庁長官。松嶋悠佐元陸蒋。佐藤守元空将。古庄幸一元海将。森満元陸蒋補。川村純彦元海将補。松井健元空将補
 コーディネーター  水島総・日本文化チャンネル社長
 主催   修学院(院長・学習院女子大学教授 久保田信之)
      日本文化チャンネル桜(社長・水島総