軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記 4 「中国社会科学院との会議その2」

 続いて、姚文礼・日本研究所対外関係研究室員が、「中日関係における台湾問題」について意見を述べた。台湾問題の本質は「内政の結果である」と強調、日中関係を構築する柱であるとして、「経済問題」「日中間の政治的安定」「台湾領土の戦い」についてペーパーを「朗読する」形で意見を述べた。それは、5年前の会議で若手研究者が取った方式と一致していたので昨日は相当リハーサルさせられたのだろう、と思った。毎度のことだが、彼らはこと台湾問題になると一歩も譲れないという姿勢を示す。「台湾問題は中国の根本利益に関わるもので退くことはありえない。一日も早く統一したい。これは13億人民の決心である」というのだが、前回も「中国人民の99・9%の意見である」と言ったので、「その数値はどうして求めたのか?」と質問したら答えはなかった。全人民の10%以上が「字もかけない、読めない文盲だ」と彼ら自身が言うのに、である。「反国家分裂法」は、その意思の表れだというのだが、それにしては採決時の不透明さは何だったのだろうか?彼は「台湾関係の安定を維持するための法律」であり、「台湾独立は日本の利益にならない」と言ったが、なにを根拠に言うのか不明である。続いて台湾の「歴史」について滔々と解説したが、私は「聞くまでもなし!」とメモに赤字で書いた。中国の「正史」は伝統的に為政者が作るものだからである。
更に彼のこの問題の解決方法が振るっている。つまり「統一のために日中双方から台湾独立の反対すること」が最も望ましく「TMDで日米軍事同盟を強化することが最も危険な方法」であり、そうなれば中日関係は決定的に不利益になるというのである。そして日本は二枚舌を使うから日中間の摩擦は大きくなり、その可能性は大きいのだという。その「理解しがたい事態の例」として、
a 周辺事態法と2+2での介入。
b 軍事的に台湾に介入する機会が増大している。
c 中国のEUからの武器購入に反対し、台湾が米国から武器を購入するのには賛成。
d 日米台の軍事ネット協力
などがあり、これは危険であるから、これらを正して正しい軌道にもどれ、という。

続いて日本側の吉崎氏が司会し、最初に中国軍事科学院教授の江新風女史が「中日軍事関係」について意見を述べた。5年前、彼女と隣に座っていた若い研究者の2人が、我々に「歴史認識」を改めるように迫ったので、「はっきり申し上げておくが、日本軍は貴国に負けたとは思っていない。アメリカに負けたのである。天皇が『矛を収めよ』と命令されたので、勝っていた岡村将軍率いる日本軍は、負けていた蒋介石軍の武装解除に応じたのである。何ならもう一度戦争して決着をつけるか!」と言ったところ、「そんなことは我国の教科書には書いてない」と言ったので「貴国の教科書のことなんぞ知ったことではない。改めるべきはあなた方のほうである。1930年代の日中関係についてここで論議する時間はないが、日本には言論の自由が保障されているから、どこの本屋にも学術書からエロ本まで並んでいて自由に購入できる。日本に来て歴史書を買いもっと勉強して欲しい」と説教したのだが、今回5年ぶりに彼女に会うと、にこやかに笑みを浮かべて近づいて来たので私のことを覚えていてくれたらしい。前回、彼女は「中佐待遇の軍の教官である」と聞いていたが、5年間で少しは成長したように感じられた。
彼女は開口一番、「日中間の軍事関係が熱かったことはない」として、1995年以降、統幕長が訪中し、軍上層部の相互交流、学術的交流も頻繁になった。民間でも「日本財団」の交流が盛んになったことを強調した。そして、
a  2000年以降、日本の強行的な対応が中国人民を傷つけた例として、小泉首相靖国参拝文部科学省の新しい教科書認可。
b 日米軍事同盟の強化は中国を対象にしている。台湾を共通の戦略目標として中国を名指ししている。2+2会議、日米軍事一体化など、日米で中国を侵略する意図が明らかである。
c 台湾問題、東海(東シナ海)の主権争い、尖閣列島問題などで日台軍事同盟の強化が明白である。
d 日中は大国として長い目で共通利益を求め、問題に理性的に対処すべきである。武力行動は御互いに負ける(損?)。そこで以下のことを提案したい。
靖国神社参拝をやめること。
* 人為的交流を深めること。
* 非侵略的(?)安全領域の協力。
* (日本が中国を)潜在的脅威としていることが健全な発展を阻害している。長い目で見ると日本の国家利益に損である。
そして最後に「米国一辺倒政策に反省するところはないか?」と国内の反米評論家、政治家、マスコミ並みの発言で締めくくった。
続いて川村団長が「軍事問題」全般について意見を述べ、その後に元海軍少将の李春明氏が「中日軍事協力の展望」と題して意見を述べた。
彼は、中日軍事協力の条件、雰囲気が欠如している。必要なのは、
a 日本は「平和憲法」を守ること。
b 中国の内政に干渉しないこと。つまり台湾問題に口出ししないこと。
c 交流の大幅な改善が必要。米中交流には大きな改善がある。
d 日本の外交には自主性が欠如している。
e 日中友好は望む。軍人間の安全協力も望んでいる。しかしある程度の条件が必要。 学術、文化、スポーツから入る手がある。
f 中日関係は重要かつ複雑である。同様に中米関係も重要かつ複雑である。
g 歴史上の「怨念」がある。最近はそれがトラブルになって関係を複雑にしている。
h 政治には忍耐が必要である。互いに相手の立場に立って考えるべきで、単純に判断すべきではない。情緒は禁物である。戦略的、長期的視点に立ち、国益を基準に正しい判断をすべきである。
i 中国の平和的発展は世界にとってプラスである。胡錦濤発言も「平和的発展の道」と言っている。「平和的発展」は本物で偽物ではない。歴史的にも証明される。
李元少将は軍人だけあって指摘が簡潔である。彼の発言内容を如何に解釈するかが問題であろう。そして彼は現代中国が抱える問題点を次のように集約した。
a 平和的に発展しているが国内問題が山積している。
b 各種の問題(?)も山積している。
c 経済の発展に集中している。
d 平和的な環境を必要としている。
そして次のような実に興味ある発言をしたのだが、これは彼の「独断?」なのかどうかはわからない。また、何故「唐突に」言い出したのかも不明である。
「我国は歴史文化に基いた行動をしている。つまり儒教孔子の教えである。『和をもって尊しと為す』『親隣友善』『己の欲せざるところ他に施すなかれ』。わが民族は包容性のある民族である。仏道儒教が共存している。鄭和以来600年、我国は他の国と違って侵略を望んではいない。中国の地名は『共存:』している。(私には意味不明だったが、この発言には中国研究者間に失笑?が出た。何となく「文と武の関係」を垣間見たような気がした)。胡錦濤主席も「隣の国を友達として・・・」といつも言っている」と強調して締めくくった。
私のメモには「軍人の発言は単刀直入」。宗教発言に関しては「では何故靖国参拝が理解できないのか?」。胡錦濤発言には「では何故反日運動が起きるのだ?裏に何がある?」と記している。
続いて金田氏が「海上の安全保障の協力と中国軍事拡張」について発表し討論に入った。
                                 (続く) 

≪御案内≫
修学院NPO法人格取得記念 特別シンポジウム 「闘論・倒論・討論2005」公開録画
 日時    平成17年11月27日(日) 13時から16時30分
 開催場所  新宿区戸山3-20-1  学習院女子大学201教室
 シンポジウム「日本を考える」シリーズ
「あなたにとって国家とは何か。日本の安全保障問題について」
 パネラー  石破茂・元防衛庁長官。松嶋悠佐元陸蒋。佐藤守元空将。古庄幸一元海将。森満元陸蒋補。川村純彦元海将補。松井健元空将補
 コーディネーター  水島総・日本文化チャンネル社長
 主催   修学院(院長・学習院女子大学教授 久保田信之)
      日本文化チャンネル桜(社長・水島総