軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記6「討議その4」

 13時45分から第2セッション「中日経済関係と民間交流」が始まった。司会者は王偉・中国社会科学院日本研究所文化研究室主任と川村団長が勤めた。
まず張進山・副所長が、「中日間の民間交流」について、日中間は「政冷経熱」であるが不信感の解消を希望するとして大意次のように発表した。
1、指導部は中日関係を重視している。歴代指導者は対日重視で人民間の世代友好を目的にしていた。胡錦濤指導部も明らかにその方針を受け継いでいる。ペルーのAPEC胡錦濤主席が、党+3で温家宝首相が、それぞれ小泉首相と会見した。2005年4月にはAAサミットで胡錦濤主席と小泉首相が会っている。その時には小泉首相の完全な賛同を得た。短期間ではあったが高密度で日中首脳会談をした事が日中間の改善を企図したものとして海外も認知した。
2、 歴史を鏡として未来に向かうということは一貫している。日中間の貿易収支の伸びを見れば明らかなように、日本は中国の最大の海外市場である。二国は良好な関係を保っている。
3、 民間交流(友好関係)を広めることに中国政府は努力して大なる成果を挙げた。以下、胡錦濤主席の対日外交の重点を述べたい、として、中国潜水艦による日本領海侵犯事件について縷々述べたが公式声明どおりなので省略する。
次いで劉楠来・中国社会科学院法学研究所教授が「東海(東シナ海)のエネルギー問題」について発表した。まず日中関係はますます緊密になってきたが、日本はエネルギー小国だから関心が高く、中国は近年の高度成長により、エネルギー問題が表面化してきて東海の争いになっていると分析し、
1、尖閣は「帰属」問題、東海は「大陸棚の境界」の問題であること。そして海中は生物(漁業?)、海底は資源問題に分かれる。
2、大陸棚は境界線の線引き問題であり、領海と大陸棚の権限があるのかどうか、中間線か大陸棚の延長線か、どう定めるべきか。
3、国際海洋法上、日本は200海里を主張する理由はある。個人的意見だが、日本側の意見は国際法上通用しないと思う。中国側の自然延長の方が理にかなっている。勿論両国の討論(協議)で決めるべきであるが、近々の一致は困難であろう。
4、中国の共同開発の提案は有意義な提案だと思う。
私は海洋法の専門家ではないので内容は良く分からないが、彼は国際海洋法が専門家だそうで、穏やかそうなご老人であった。
次いで経済専門家の吉崎氏が「2005年の日中経済関係とエネルギー協力」について、パワーポイントを用いて明快な発表をした。開口一番「よき軍人、よきビジネスマンは現実主義者であるべし。しかしビジネスマンが軍人と違うのは、愛国者でなくても良いことである」と言ったので、会場がどっと沸いた。しかも、「東シナ海のガス田の埋蔵量は、日本の現状の一日分の消費量にしか過ぎないと分析されている。この程度のガス田に必死になる中国側の意図がわからない。本当にエネルギーが狙いなのか?それとも他に・・・?」と言ったから中国側研究者達の表情は真剣になり、関心を集めた。
次に張季風・日本研究所経済研究室主任が、「中日経済関係とエネルギー協力」について、1、エネルギー開発は日中協力の分野が多い。合作=協力が必要である。日中協力が順調で
あれば、相互に補完性がある。中国は市場であり、日本は技術である。
2、相互に社会効果がある。双方とも経済依存度が高くなっている。東海ガス田問題は、いくら討論しても困難だから、共同開発が解決の早道である。
つまり中国側は、東シナ海のガス田開発に、日本側の技術協力と資金援助を願望しているのである。やすやすと協力してODAのように逆に「ストローで吸い取られない」事が肝要であろう。
 続いて若い呂耀東・日本研究所対外関係研究室副研究員が「東海(東シナ海)問題」について発表した。司会の川村氏が「東シナ海」と言うと「東海!」と気色ばむ。
1、 2004年の「東海」問題は「敏感」であった。中川大臣が詰問して、「ストロー効果」を持ち出した。データーを要求するなどしたため発展がなかった。
そういうと過去のこの問題に関する経過の概要説明に入った。日本の新聞の切抜きのような経過の「羅列」に終始するので、どこかの学校の研究発表会のようである。
2、春暁は、紛争地帯外であるのにそのデーターを求める日本側の誠意に対する疑いを生じた。下心がある!
3、共同開発は最も良い手段である。国境画定は最も難しく一挙に解決すべきではない。
やはり中国側の希望は「共同開発」であり、日本側の「技術」と「資金」が目当てである事が窺える。
第2セッションは15時15分までの予定であったが、遅れに遅れて、最後の呉万虹・日本研究所対外関係研究室助理研究員の発表が15分から始まった。彼女も若い研究員で,助理と言うのは「助手」のことであろう。「中国の『反日教育』と歴史認識問題」がテーマであった。
1、愛国主義教育は日本向けが意図ではない。
2、小泉首相こそ中国人の愛国主義を煽り立てる最も熱心な教育家である。
3、(中国と言う)近代国家が抗日戦争のプロセスで始めて成り立った。
4、 「反日」は、中国国内における民主化の進化であって気にしないこと。かっての韓国と東南アジアにおいても同じ現象があった。
5、インターネットなどの普及率が大きくなったこともある。経済発達地域のホワイトカラーがその主力である。
6、 日本人は「被害者である我々」の国民感情を理解すること。
結論として、
(ア) 完全に一致する歴史認識はありえない。加害国はより謙虚な姿勢を、被害国はより寛容な姿勢が大切。
(イ) 自国中心の歴史教科書ではなく、共通の教科書の作成が必要
若いだけに支離滅裂な発表であったが、黙認することは出来ないから質問の意思表示(名札を横にするか立てる)をした。時間制限が厳しかったが漸く発言権を得て、私は彼女に次のように質問した(と言うより諭した)。
「あなた自身が完全に一致する歴史認識はありえない、と発言しているのに、共通の教科書が出来るはずがない。中国の近代国家が抗日戦争のプロセスで始めて成り立ったそうだが、私は国共内戦共産党が危機に陥ったのを、国共合作して劉少奇が盧溝橋事件を起こし、日本を戦争に巻き込んで『勝利』した後、再び国共内戦で国民党を破って天下を取ったのだ。その際、一万人もの日本兵が共産軍に参加して共産軍を勝利に導いたことを知っているか?この時貴国の近代国家の基礎が作られた、と私は認識している」。ここまで通訳が訳した途端、発言者はもとより、中国側の抗議の発言(と言うより野次だが)が賑やかになった。
更に「私は軍人だから『負けた、負けた』と強調するのは馴染まない。貴国も、もういい加減被害者意識を捨てたらどうか」と言うと、王女史が「私は歴史研究家だが、日本陸軍は大陸を侵略したがっていたのだ!」と叫んだので、「違う!日本陸軍ソ連には備えていたが、中国を侵略するためのプランは持っていなかった。盧溝橋事件は劉少奇が『自分がやった』と発言している証拠を持っている」と反論すると会場はかなり騒然となった。中国側は各自が勝手に叫ぶので、通訳は訳す事が出来ない。日中双方からの「意見」が交錯したが、司会者が時間だと制したので第2セッションの討論は一応終わった。     (続く)