軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記16「蘇州会議その5」

 16時25分から、第4セッション「冷戦後中日両国安全戦略的調整」が、楊海軍少将の司会で始まり、まず私が「中国の対外政策に関する疑問」と題して意見を述べた。
報告概要はこのシリーズの最初に掲げたが、通訳つきで20分間しかないので、発言は要点のみに留めざるを得ない。そこで、会議で私が発言した部分をテープ起こしをして再現し、会場の雰囲気を紹介してみたい。
楊 「それでは佐藤先生にお願いします」
佐藤「楊少将、どうも有り難うございます。“日中海軍シンポジウム”に、日本空軍を御招き頂いて大変光栄に存じます(笑い)。やっと制空権を与えられましたので、海上自衛隊と中国海軍を今から撃沈したいと思いますが(爆笑)、細部にわたっては、我が方の若手と皆さん方が討議をされましたので、概括的に現在の中国と日本の間にある疑問点、私どもが感じている疑問点について述べたいと思います。
ご承知のように冷戦が終結して、ソ連が少し勢いを失って、超大国アメリカが大きく世界を制覇するようになって来ました。従ってアジアにおいては中国と日本が急に浮上してきたように私は思います。従って今後の日本と中国との関係は、好むと好まざるとに関わらず、世界に大きな影響を与えるのは間違いありません。そこでこの日本と中国との間に、色々な問題があり、感情的になることは御互いに非常に大きな不利な出来事であると私は認識しています。
私は5年前にも北京の日本研究所ではっきり申し上げたのですが、当上海国際問題研究所でも申し上げたことですが、戦争というものは政治家の誤った判断や、或いは軍人の彼我の戦力見積もりの誤りによって生じると考えています。ですからお国でもわが民主国の日本でも、軍人は常に相手国の軍事力を正確に見積もっておりますが、その結果を政治家に伝える時に、オーバーな表現、或いは間違った助言をしてはならないと思います。
つまり我々軍人は、常識的に御互いの能力と軍事力というものを正確にいつも把握しておりますが、それ(軍事力)を動かすか動かさないかはその企図、つまり政治家が判断するものだから特にそれは重要であります。そこで軍人は勿論だが政治家に影響を与えるものとして、色々なものがあるが特に「国民感情」というものがあります。
この会合でも何人かの方が指摘していましたが、最近の日中間の感情的縺れの基本的なものには、お国の反日デモ、或いはそれに伴うわが国の国家的象徴である公館、或いは公使の車に対する破壊的な行為が挙げられます。日本で日本のテレビを見た方は十分理解しておられると思いますが、日本のテレビは執拗に中国人デモ隊の行動を報道しました。
そしてそれは江沢民国家主席反日教育、愛国教育が基本になっているという事が日本国内で定着し始めました。そして1998年11月に来日された江沢民主席の宮中晩餐会における発言を日本国民は思い出すに至ったのであります。
むしろ以前に西安や珠海で起きた日本人留学生などによる寸劇や買春行為といったようなものに対する報道は、日本人の方が恥ずかしいことである、こういうことをやってはいけない、という風に受け止めていたのであります。
しかしながらその後に起きた8月のワールドサッカー大会での、あの競技場での日本人に対する行動、これを見て特に日本の若いスポーツを愛好する青少年が、怒り心頭に発したのであります。そして悪いことに、日本国にいる貴国の不法滞在者である中国人犯罪というものが日本でも大々的に取り上げられ、東京都知事などは断固としてこれを処置すべきだと発言したことと重なったのであります。
ですから私は、何故貴国があの時期にあのような事を許したか、或いは取締りがうまくいかなかったのか、まさかわざとそういう行為をさせたとは思わないのですが、何故ああいう事件が起きたのか、正に胡錦濤主席にとっては苦衷の時期ではなかったのかと推察しております。
次に、北京でもここでも意見が出ましたから一言だけ言いますが、それらと靖国問題とはリンクしているのであります。基本的に靖国問題は日本の国内問題であり、日本人の心の問題であります。私達は不幸にも1930年代にお国と戦争をしましたけれども、その時の相手であった蒋介石総統や毛沢東主席に対して中国の皆さんが如何に尊敬し拝まれても、私達は一切文句は言いません。むしろ貴国民としては当然の行為だと評価しております。そういうところを根本から解決していくのが大事ではないかと思います。
次は簡単に申し上げますが、上海5から発展した上海協力機構の危機性についてであります。劉亜州中将は「パワーを西へ!」と言っていますが、中国が力を西へ向けたことで遂にアメリカの介入を招いたのではないか?それがアジア全体にとってどう出るのか?ということを私は危惧しています。内政干渉になるかもしれませんが、この問題をアジアの不安定要因にしないようにご配慮いただきたいと思います。
3つめは軍事の不透明性などについてであります。軍の近代化を図るのは当然であり、私も最新式の、最強の戦闘機にいつも乗りたいと思ってきました。ですから中国空軍の若きパイロット達が、何時までも旧式のF-7やF-8に我慢する事無く、スホーイに乗って自由に大空を飛び回る事を、私はむしろ勧めたいくらいであります。海軍についてもいろいろ話が出ましたが、古くなったものを新しく、しかも性能の良い物に変えていくのは当然であり、私達はそれに文句を言うことは致しません。ただやはり金田提督も言いましたように、私たち民主主義国家で、シビリアンコントロールというシステムに慣れた者から見れば、一体最高指揮権者は、江沢民氏であるのか、胡錦濤氏であるのか、或いは軍と政治の関係がどうなっているのかが、非常に大きな不安要素であります。1970年代の超大国米ソは、SALT(戦略兵器制限交渉)という窓口を持って危機を回避したと私は理解しています。
是非日中間の、特に軍事に関して海軍のみならず空軍も信頼醸成のための交流を深めるべきだと思います。
最後に結論でありますが、私は過去の日支事変がどうして起きたか、今個人的に研究中であります。(“日支事変”が通訳に通じず、日中戦争と言い直す)今思うと1930年代の中国国民の反日・侮日感情は、現在の反日感情に非常に似ていると私は思います。
核の問題についても、今わが国で「核を持つべきだ」という若手議員の会に呼ばれましたが、そういう意見が沸々と沸いてきていることは、個人としては非常に危機感を覚えます。
普通の国になること」ではなくて、一歩先に行くような「核を保有する軍事大国」になろうとする動きがあるとしたら、之は非常に憂慮すべきことだと思います。つまりこれらのベースにあるのは、お国のメディアは勿論のこと、わが国の朝日新聞に代表されるメディアが、如何に無責任な報道を垂れ流しているかということによるような気がします。
ですから私の結論は、(ここで発言時間切れを知らせるため、楊少将が湯飲み茶碗をペンで「カンカン・・・」と煩く叩く)このような日中間の対話を続けることで誤解を避け、日中間の戦いを喜ぶのはどこの国であるか、という原点に戻るべきだと思います。楊少将が発射したSAM(茶碗を叩く音を例えた)が7発命中しましたので以上で終わります(大爆笑)。

聊か手前味噌になったが、会議場での「メモ中心」の記録では、無味乾燥になりやすいが、発言録から口語体で書くと会場の雰囲気が伝わるだろうと考えて紹介したまでである。
次回からは再び「メモからの引用」を主に続ける。              (続く)