軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記17「蘇州会議その6」

 続いて陳・陸軍大佐が次の様に述べた。
1、 新国防白書の変化について
a  1998年から2年毎に白書を発表してきている。
b 2000年には、「台湾独立は戦争である」と明記している。
c 2002年には、中国の国防「安全形勢」
d 2004年には、「4つの変化」を書き、中国の国家安全の最大の関心事項を示した。ここで日本を脅威とはみなしていない。国防は国家の発展と安全に併行している。
2、国防政策のよりどころ
  a 国益と内外政策・・・イデオロギー重視から国益重視へ
  b 安全環境の変化・・・関心は米国のプレゼンスと日本の右傾化
3、国防発展について
4、国防費増加の主原因
  a 国防上の基礎の弱点を補強
  b 主権、安全上必要(対台湾分裂)・・・海空軍の必要性
  c 軍と党との関係・・・軍が党をコントロールすることは不可能である。
(保障国家発展利益的需要)
  d 潜水艦の領海侵犯事例・・・機関の故障である。潜水艦部隊は訓練を必要としている。
  e 今回の事例では、日米台が緊密に協力したと理解。

 続いて鈴木女史が台湾問題について、「中国側指導者は裸の王様である」という論を展開、「日本が何時外交問題で台湾を代弁したか?」「軍人で台湾に駐屯した人がいるか?」「台湾は『何からの独立か?』」など、かなり刺激的な意見を「笑顔」を交えて述べたが、続く李女史は、「日米同盟について」次の様なA新聞切り抜き情報?を述べた。
1、 日米同盟の形態が変化した。
2、 日本は、不安定な弧の中で、戦略的中心基地になる。日米共同で不安定な弧の中で日米空軍は作戦行動を行うことになる。
3、 アジア地域において、日本は唯一の軍事的大国の地位を獲得することになる。
4、 朝鮮半島の核未解決の間に、次期政権では困難なので小泉政権のうちに、日米間の絆を固めようとしている。
5、 日米同盟は憲法に制約されるか?横田の日米共同使用、車力基地のXバンドレーダー。これらは(憲法?)違反だが取り上げられていない。
6、 日米同盟の枠組み修正のときが来ると思う。
7、 日米同盟はアジアの共有財産として受け入れられるか?アジア諸国に受け入れられないと思う。
8、 平和的外交態度を一挙に捨てて、軍事力で威嚇を行う方向に軌道修正したのは“惜しい”と思う。

 張・中央アジア研究室副主任は「上海協力機構は危機に直面しているか」として次の様に発言した。(多分事前に私が提起したペーパーに対する回答だと思われた)
1、 軍事的相互信頼関係を築く事によって良好となる。
2、 対テロ、イスラム原理主義の撲滅にも成果を挙げた。
3、 加盟国は国家間の軍事協力を強化した。経済協力も推進した。
4、 国連との信頼関係の構築
5、 96,97年、中露協定を結び、国境地帯では互いに脅威と認めないこととし、兵力を削減した。
6、 他の国との国境問題も解決した。
7、 2001年6月15日、上海合作組対テロ組織として発足した。
8、 9・11以降、一連の文書調印、反テロ情報交換で成果を挙げた。
9、 2004年、ウズペキスタンに本拠を置き、メンバー国間の軍事協力を強化し、軍事合同演習を実施した。
10 2005年8月、中露は反テロ合同演習を実施した。反テロでは貧困をなくさねばならないと思う。
11 成果(アジア・太平洋地域への影響)
 a もともと中央アジアには中ソの対立があった。.東アジアでは未だに冷戦状態であると思う。冷戦の考えから脱却する必要がある。これが上海精神である。
 b 共同の精神を育んでいく事が必要である。
 c 関連国間の相互信頼が必要である。信頼醸成できた事が成功の原因である。
 d 覇権的態度を取るべきではない。

コメントは、川村氏がまず陳大佐に対して、「軍と党の関係について」「江沢民が潜水艦部隊を訪問したことは領海侵犯を追認したことになる」「朱少将発言は疑問を呼ぶ」などとコメント、郭・編集室主任が私に対して「中日相互信頼醸成を向上させる必要がある。不信感をなくすために、交流強化が望まれる。しかし、ひたすら相手を批判するだけではダメで、相手の立場を考えて始めて達成できる。立場を変えて相手の立場になって考える事が必要である」とコメントしたがこれはそっくり中国側に当てはまる事だから、討議で私は「日本人の立場を中心に述べたのだから、郭先生にも日本人の立場を考えて貰いたい」と言い、ついでに張氏の上海協力機構について「9・11テロ発生によって『民族弾圧』を『テロ対策』に切り替えたので機構は救われたと考えている」と言っておいた。
次に鈴木女史に対して郭氏は「台湾問題は中国の国内問題である。台湾には自分が中国人だという意識がある。調べて欲しい」と言い、李女史に対しては「日米問題は地域的なものへ広がり、グローバルなものを視野に入れた」とコメントした。

引き続いて討議に入ったが、楊副所長が鈴木女史が述べた日本の政治情勢の「小泉チルドレン」などについて、総選挙後の日本の政治情勢に深い関心を示し、陳大佐は川村氏の質問に答えて「人民解放軍は、政治委員による二重指導を受けている。従って党の軍隊に対する指導はしっかりしたものである」「中国の国防白書は国内では公表している」「透明性のプロセスを高めるためには一定の時間が必要である」「潜水艦事件では、台湾の陳水篇が情報を伝えたと言っている」などと補足、最後に李女史が「沖縄戦における日本軍人の県民虐殺事例」を持ち出したので、私は「既にあれは虚報であった事が証明され、A新聞も認めている」と教えておいたが、彼女はまだそこまでは知らなかった様子だった。
こうして午後6時半まで討議を続けたが、最後に司会者の楊少将が、「戦犯の東條を日本人が優れた指導者であると認めているのなら心配である」と発言した。
 
夕食会は討議の興奮を引きずったまま開始されたが、軍人同士の会話には本音の部分が感知され極めて印象的なものとなった。             (続く)