軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記15「蘇州会議その4」

 引き続いて自由討議が行われた。まず楊少将が次のような「補足」説明をした。
1、 軍事費の透明性について
a 隠れた軍事費とは、開発費のことではないか?
b軍事費の計上の仕方が問題なのであろう。軍事費支出の範囲で大きいのは人件費であり、一人っ子政策のための手当てなどである。
c年平均10%アップの成長率だというが、士官の収入アップ(昇給)が大きい。
 士官の給料は公務員の3分の1しかない。
d他には台湾独立に備え、軍備を導入した。
2、軍事力の問題について日米両国は敏感すぎる。例えばインドは空母を持っているが何も言わない。日本も15000トンの護衛艦を持っている。軍事費増の理由は、
 a  海からの侵略の二の舞を踏まないため。
 b 国家分裂、干渉を防ぐため、躊躇無く反撃する。
 c 中国の戦力は全て防衛的である。金田氏の「真珠理論(不安定な弧の中に中国が確実に拠点作りをしていること)」は理解できない。
 d 中国海軍が発展したら、国際協力に参加したい。
3、日本は中国の統一(台湾統一)は望んではいないのか?
4、EUが中国への武器禁輸を解除してくれたことについては、日本に感謝する。
5、台湾に対する核兵器の使用は「反撃のみ」である。反国家分裂法は戦略的で理性的なものである。

次いで楊・副所長が、金田氏に対して次の様に反論した。
1、 米国防省の「中国の軍事力」は、歴史的、地域的関連から、もっと慎重な態度を取るべきである。
2、 周辺事態のときに,日米が反応すると言い、「真珠理論」は、中国の新植民地と例えているが、日本の方が世界各地へ進出している。中国は大東亜共栄圏とはみなしていない。領海内の問題である。
3、 EUの、対中国武器輸出解除については、日本が米国へ、米国がEUへと努力してきた。

陳・元海軍大佐は「中国の海軍力」について、在勤40年の経験を踏まえて次の様に語った。
1、 日本は中国海軍の増強について敏感すぎる。実情に合っていない。
2、 発展したのは事実であり、一部の武器は日本の水準に達した。しかし、海軍全体が上回ったとはいえない。
3、 吉崎氏の指摘どおり、一部は日本に到達したが、日本の海上自衛隊の戦力は世界の7本の指に入る。中国海軍を過大評価するのは正しくない。勿論、過大評価、過小評価共に正しくないが。
 
沈教授は、「中国に対する評価」として、
1、 人口が多い。一人当たりの水準は低い。改革開放以来、世界の水準に近づいた。いずれ日本に追い付き追い越すこともありうる。
2、 中国海軍力の発展は楊少将の言うとおりである。13億人の国が、世界の大国として貢献し正義を求めるためにも必要である。
3、 中国に対する核廃棄要求は受け入れられない。「攻撃された時しか使わない」と言う理論には組する事が出来ない。国益に脅威を受けた時には核を使う権利がある。対話を求めていく人には絶対に核を使わない。


続いて李女史が、手持ちの紙を読み上げる形で意見を述べた。
1、 自衛隊の装備に疑問を持っている。護衛艦などの呼称がおかしい。例えばDDH,戦力的に不透明である。
2、 中国は隣国とうまく付き合っている。台湾の独立派と日本の一部の人とだけうまく付き合えない。
 
その他、陳・日本研究室員が吉崎氏に質問、金田氏が各種質問に回答したあと、夏氏が阿久津氏に「具体的協力事項」として、次のようなものを上げた。
1、 東アジア共同体について、日中が牽引力となるべきである。
2、 北朝鮮の核については6者協議における協力が必要。
3、 石油に代わる新エネルギー開発が必要。
4、 海上協力では対テロ策が必要。
5、 環境保全協力。市場の潜在力の活用。
6、 非伝統的なものとして、例えば鳥インフルエンザ対策での協力。
 続いて吉崎氏が各種質問に回答、楊少将が「中国の軍事力向上を、日本側が憲法改正の理由にしないこと」と補足発言をして、午後4時に一旦休憩に入った。

この討論では、楊少将はじめ、軍人の発言には極めて「正直」なものがあり、好感が持てた。実際に軍事力を動かした体験があるものにしかわからない、微妙なものが言葉の端々から窺えた。又、それに反して、机上で論理を組み立てる研究者の中には、沈教授の様に「国益に脅威を受けた時には核を使う権利がある」と強硬発言する者がいることは注目される。
 対米核反撃発言をして物議をかもした、朱徳将軍の孫の朱成虎空軍少将のように、彼も「制服組」ではあるが正規の軍人ではないので、平気でそのような発言をするところがある。
 私が口癖のように「政治家の誤判断、軍人の見積もりミスによる強硬発言」が戦争を招くのだ、と彼らに言い続けてきた原点はそこにある。
 16時25分からの第3セッションの冒頭で、私はそのことを彼らに「説得」した。(続く)