軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

気になる「話題」

1、イランの核問題を「日本」は何故傍観するのか?

Newsweek(2月15日号)に、ジェームズ・ワグナー副編集長がこう書いている。
国際原子力機関は2月4日、イランの核問題を国連安全保障理事会に付託する決議を採択した。この一件で、日本の存在感が全くないのはなぜか?フランス、イギリス、ドイツ、ロシアなどが精力的に解決策を模索する中、日本はおかしなほどに沈黙を決め込んでいる。日本にとって、イランは3番目の原油供給国。しかも新たな核兵器保有国が中東に誕生する可能性を考えれば、日本はどの国よりも神経質になっていいはずだ。
小泉政権や外務省が、寝る間も惜しんで解決を働きかけるのが当然だろう。何しろ日本は昨年、安保理常任理事国入りを求めて死に物狂いの作戦を実行したばかり。今回の件はイランとも、アメリカとも親密な日本が、常任理事国にふさわしい姿を世界に示す絶好の機会といえる。勿論、日本がこのパンドラの箱に手を触れたくない気持ちも良く分かる。でしゃばらず、イラン、アメリカ両国と良好な関係を保つほうが国益の面では有利だろう。或いは解決の道が見えない今は、メンツを失うよりも黙ってやり過ごすほうが賢明だと思っているのかもしれない(他の国々は、そんな理由で二の足を踏んだりはしなかったが)。
それでも、世界に存在感をアピールしたいなら、傍観者でいることは許されない。国益を考えて動くのはどの国も同じだが、より広い視野を持ち、積極的な姿勢を見せる国もある。「関与」こそ、常任理事国のとるべき道なのだ。
日本がそうした姿勢を一度だけ見せても、常任理事国に迎えるとは限らない。その後も積極的に国際問題に関与し続けることで、その存在意義が認められていくだろう。だがまずは、世界における日本の役割を、考えることから始めたほうがよさそうだ」
 たまたま16日の産経新聞に「常任理事国入り再挑戦」という見出しで、「外務省は16日から、国連安保理改革の新たな決議案に関する各国への説明を本格化させる」という記事が出ていたから、上記記事を参考までに掲げておくので参考にしてもらいたいと思う。
要するに日本が「関与」出来ない最大の原因は、安保理が「軍事力」の使用を決定する機関であるという自覚が欠如しているのが原因ではないかと思うのだが・・・

2、「中国脅威」本音と建前
 今朝の産経新聞の30面トップに、表記の記事があった。
航空自衛隊那覇基地司令が「地元一部報道機関との勉強会で『軍事力増強を図る中国は沖縄の自衛隊にとって脅威』『空中警戒管制機AWACS)などで情報収集する態勢を取りつつ、下地島空港を使えば前方展開できる』等と発言、地元紙が報道して問題化した」らしい。「守屋次官は『防衛庁としては中国を脅威とみなしているわけではない』『下地島への自衛隊の配備や訓練の一部移転について検討している事実は全くない』と否定。『現実に(司令が)どういう発言をしたのか調査中。それを踏まえて対応したい』と述べ、発言の経緯と真意を明確にする方針を示した」という。
 『報道機関との勉強会』というのが正式な記者会見でない以上、その内容を記事にする方が記者の仁義に悖るのだが、そんな事が通用する現地メディアではない。
多分司令は問われるままに正直に考えを披瀝したのであろう。いわゆる記者の『引っ掛け質問』に対する注意が不十分だったのだろうが、国民は司令の発言をきっと支持するに違いない。確かに日本政府は「脅威」だとは認めていないし、平成17年度版の『防衛白書』も「中国を脅威」とはみなしていない。しかし、「平成17年度の防衛力整備」の項目には、「新たな脅威や多様な事態への実効的対応関連」の項目があり、(1)弾道ミサイル・・・(2)ゲリラ・・・(3)核・生物・・・、の後に(4)島嶼部に対する侵略への対応、の項目が明示されている。つまり、島嶼部(沖縄方面は中心になるのは当然)への侵略は、「新たな脅威」である事を防衛白書は明言しているのである。したがって、沖縄方面の防衛を担当する責任者としては、その趣旨を受けて「中国を脅威」と認識して行動するのは当然であり、「政府の感覚」とはニュアンスが違って当り前である。
問題は下地島の活用について、現地沖縄が反発しているのではないか?
南西方面の航空作戦実施上、下地島は重要な位置にある。石破長官時代だったと思うが、地元町議会から「自衛隊に使用して欲しい」との要請がなされ、防衛庁も「検討する」とした記事が出た筈だ。次官が言うように「配備や訓練の一部移転」など、具体的な検討がなされている事実はないと思われるが、万一中台間紛争が勃発したときには、ここを「空白地帯」にすることは極めて危険である。仮に中国に占拠されたら南西方面の作戦は困難になる。中国が「脅威であるかないか」という問題よりも、防衛庁は「島嶼方面に対する侵略への対応」を基地司令同様、真剣に考えるべきではないか?
そして沖縄の新聞がどう書いたか知らないが、彼らがそれに抵抗するのであれば、彼らこそ「中国のエージェント」だといえよう。

3、「国益を念頭になぜ議論できぬか」
 これはクライン孝子氏の今朝の「正論」欄の副題である。本題は「肝心な問題から目をそらす国会論戦」となっているが、ドイツ政府の「国益を重視した“大人の裁断”」に比べて、日本政府の「嘆かわしく、由々しい問題」、つまり、世界情勢は流動的で、各地に紛争の危機がうまれているとき、日本の国会が「この国の安全保障の根幹に関わる重大問題には目もくれず、昨年より持ち越された耐震強度偽装問題・・・などを“4点セット”として大々的に取り上げ、まるで天地がひっくり返らんばかりの大騒ぎをしている」事を痛烈に批判した論文である。紙数がないので、全文を掲載することが出来ないのが残念だが、クライン女史は「これら一連の国際社会での動きは、日本の能天気な政治の現状と共に微妙に重なり合う。実は日本は、自らが知らぬ間に米中の情報戦争に巻き込まれており、その渦中で一種の代理戦争を国内で演じさせられているのではないか。そんな気すらしてくる」と鋭い指摘をしているのである。外国から日本を見ると真実が見えるのであろう。私がおそれているのもそこにあり全く同感である。ニューヨークタイムズ紙など、米国のリベラル紙が、麻生外相を痛烈に批判したが、これは間違いなく「中国の指図」であろう。
忘れてならないのは、N・Yタイムズ日本支局は朝日新聞社に同居しており、朝日新聞ニューヨーク支局はN・Yタイムズ社に同居しているということである。情報は共有されていると見るのが妥当であろう。
一方、沖縄でも朝日新聞沖縄支局は沖縄タイムズ社に同居していたが、今もそうであろう。
クライン女史が懸念するように、情報戦は始まっている。おそらく「那覇基地司令の発言」もそれに利用されたのであろう。防衛庁の毅然とした対応を望みたい。


* ≪行事御案内≫

1、 2月24日(金) 1830〜  UIゼンセン会館2階大会議室 JR/地下鉄「市ヶ谷駅」すぐ
講演(というよりも作戦会議):「自衛隊による拉致被害者救出のシミュレーション」
参加費:一般¥2000
主催: 戦略情報研究所(03-5684-5096)

2、2月25日(土) 1330〜  九段会館  地下鉄「九段下駅」徒歩2分
  桜林美佐(日本文化チャンネル「桜」キャスター)=「 ひとり語りの会 」
  「日本流行歌(はやりうた)の黎明」
幕末、オランダからやってきた洋楽のテンポに、戸惑う海軍伝習所の武士達の姿から日清、日露そして大東亜戦争までを、国民の愛唱歌と講談で綴る
・・・ピアノ演奏:飯塚彰子
  「信太山靴店
   陰陽師安倍晴明の母、「蔦の葉伝説」の地、大阪・信太山には陸軍野砲兵第4連隊が駐屯していた。大陸で戦う兵士達の前に、信太の狐が現れて・・・。

  ゲスト:元空将 佐藤 守:特別講話「中国空軍誕生秘話」

  御一人様3000円(珈琲または紅茶、お菓子付)
  参加ご希望の方は 090−2735-5528 
またはE−mail:roudokukai_kudan.2665@docomo.ne.jp まで

3、2月26日(日) 1800〜   アルカディア市ヶ谷(私学会館)3階・富士の間
  JR/地下鉄:市ヶ谷駅より徒歩3分

  台湾2・28革命59周年記念大講演会「徹底討論!台湾防衛―軍事的観点から」

  問題提起:台湾の現状分析―対日米中関係・・・・・・永山英樹台湾研究フォーラム会長)
  講演 「航空作戦の様相」・・・・・・佐藤 守(元空将)
     「海上作戦の様相」・・・・・・川村純彦(元海将補)
     「陸上作戦の様相」・・・・・・松村 劭(元陸将補)
  司会  金美齢台湾総督府顧問)。柚原正敬日本李登輝友の会事務局長)・・〔予定〕
  会費:¥1000