軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

ブッシュ大統領、2万人増派

 11日に岡山で防衛講話をしてきた。便利になったもので、新幹線で東京から3時間20分、しかし、自宅から往復約10時間、講話は1時間だから費用対効果の点では聊か問題がある。だが新幹線は振動も少なく、その間岡崎研究所の議事録に目を通し、本が読めたから「動く書斎」として活用できた!。
 講演は岡山自衛隊協力本部からの要請で、防衛協会隊友会、父兄会など、いわば「身内の集まり」だったから楽しくお話しすることが出来た。また久々に懐かしい上司や先輩、同期に会えて嬉しかったが、それ以上に現役諸君が、省昇格を冷静に受け止めていたのが頼もしかった。
 いつも思うのだが、自衛隊は勿論、検察庁など国の機関で話すときは、会場が良く整備されていて、プロジェクターなどの手配は小気味良いくらいである。今回も会場が長大な会議室だったから、後ろの方々にはスクリーンの文字が読めないのでは?と心配したのだが、後方にもスクリーンが用意してあったので感心した。さすがわが後輩たち!と嬉しくなった。そこでまたまた10分もオーバーしてしまった・・・
 本部長以下、私のブロクの愛読者が多かったので、この場を借りてお礼申し上げておきたい。

 さて、イラク問題でブッシュ大統領がようやく増派を決断したようである。時既に遅し?の感がないでもないが、ベトナム戦争で「統計の専門家」が国防長官をやり大失敗したことに気がついたようだ。イラクでも、現場からの増派要求を退けて、政治的判断に終始してきた軍事の素人?といわれる国防長官は、作戦間、軍の幹部から評判が悪かった。現場指揮官の最も気がかりなことは、作戦所要見積もりぎりぎりの戦力で闘いを強要され、最愛の部下を危機に晒すことである。「シビリアン」には絶対に理解できないことだろうが、余裕がないのならばいざ知らず、政治的配慮や己の自己満足でプロの作戦計画に口出しされてはたまらない。「シビリアンたち」もやっと現場の意見を聞いたようだが、さて、結果がどうなるか?
 もともと陸戦には「3倍の原則」というものがある。相手が1個師団の場合、これを攻撃して撃破するには最低限3個師団が必要だ、というわけである。過去の実戦経験から積み上げられた原則だが、それでも遥かに3倍以上の戦力で侵攻した中共軍は17回も戦いながら一度も勝てなかった。軍事作戦とはそんなものである。
 過去の大東亜戦争では、日本軍と米軍の師団の火力差は2・5倍以上だった、と大本営参謀が述懐している。人員は1個師団・2万人基準でも、各種火力の総合「弾量」は、日本軍が19,200Kgなのに対して、米軍は48,141Kgであったという。その上、日本軍は「健全師団」つまり帳簿上の完全装備である健全師団で戦ったことは一度もなかった。また、硫黄島や沖縄のような孤島防衛では、戦艦1隻の火力は米陸軍の正規師団火力の5倍と見積もられていたから、これらの島々では、ざっと2個師団弱の規模の日本軍は、約100個師団の「弾量」に匹敵する米陸海空軍を相手にして戦ったということになる。この基本的「差異」を念頭において「硫黄島の映画」を見なければ、情緒に流れるだけであろう。それを揶揄して戦後日本では「B−29に竹槍」といわれたのである。
 翻って今の自衛隊の現状は、一見「最新式装備」を備えていて、旧軍よりは遥かに優れているかのように「シンパ」の皆さんは思っているようだが、予算削減、人員整理の実情は、旧軍以上に酷いものがある。それでも責任は誰も取ってはくれまい。そんな実情を知りもせずに、「自衛官自身の自己責任」だと言われると無性に腹が立つ。陸自イラク派遣でようやく国民は分かっただろうが、3ヶ月間勤務のローテーションを組むために、15万の陸自全体が人員装備のやりくりに苦労しているのである。ある意味、その点では我が国も大東亜戦争の教訓に学んでいないのである。
 当時の米軍師団は、作戦が終わると後方に下がって4ヶ月間休養し、2ヶ月補充訓練して再び戦場に出撃するのを原則とした。戦闘服でも、4ヶ月が耐用限度であったが、日本軍は6,7年、つまり、戦死して初めて故国に帰れたのと同様、死ぬまで着たきりすずめだったのだから、人間の体力気力、つまり「士気」の観点から見ても、その戦力比は実際のところ10:1以上だったといえよう。ある意味でそれは「人間の限界」を超えていたといえるから、私はその点で多くの英霊、戦場体験者に敬服しているのである。イラクに派遣される米軍兵士に「旧日本軍兵士並みの精神力」が備わっていれば、比類なき成果が収められようが、果たしてどうなるか。
 ところでイラクのみならず、イラン周辺が極端に悪化している。米国の思惑通り、イスラエルが行動するかどうか疑問だが、最悪の事態を想定して米国は既にペルシャ湾近辺に空母3隻を集中した。勿論潜水艦も潜んでいることは「接触事故」でばれてしまった。ところで問題は東アジアである。
 6者協議で中国にイニシアティブを与えてみたものの「予想通り」何の成果もなかったばかりか、金さんは2回目の核実験を準備中だとささやかれている。万一の事態に備えて、沖縄に最新鋭のF-22戦闘機が配備され、韓国にはF−117ステルス戦闘機が配備された。国連はご当地出身の事務総長の交代行事で「ご多忙」だろうから、下手をすると国連抜きで一挙に軍事行動が開始されないとも限らない。そのとき国連信奉国・日本はどうするか?
「殺人ばらばら事件列島」の政治家たちはのんきなものである。事務所架空経費問題という次元の低い問題で与野党共に右往左往、よくもこんな卑しい連中が永田町に揃ったものだと思う。わが高校の先輩で寝技が得意な「柔道部出身の政治家」は、何を考えたか北朝鮮に出かけるという支離滅裂なご旅行で顰蹙を買っていて同窓生は母校の不名誉を嘆いている!
 若い安倍総理もこんなノー天気な「先輩・同僚」に囲まれていたのでは、実力発揮が出来まい、と本当にお気の毒になる。気にせず初志を貫徹してもらいたいと思う。
 せっかく岡山講演でいい気分になったのに、なんともやりきれない憂鬱な気分に戻ってしまった。