軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

困難時期過ぎた?日中関係

 先日、台湾から来日した高官と昼食をともにして台湾情勢を伺う機会があった。2008年の総統選挙を控えて民進党は予断を許さない状況にあるが、相手の国民党にもそれなりに弱点があるようだ。陳水篇総統夫人の“公金流用”問題を追及すればするほど、それよりひどい国民党の内情がばれるのだから、国民党も痛し痒しに違いない。
 ところで今朝の産経新聞5面に「日中関係で王氏困難時期過ぎた」と言うベタ記事が出ていた。王氏とは「中国共産党中央対外連絡部長の王家瑞」氏で、「交流協議機構」という菅直人氏が会長を務める組織の初会合に招待されてきたそうで、ついでに?民主党本部で講演したようだが、氏は日中関係について「国交正常化以来、最も困難な時期は過ぎた。安倍晋三首相が訪中し互恵関係を打ち立てた。正常な道に歩みだしている」と述べたそうだが、「くれぐれも台湾独立といった誤った情報を発信することのないようにしてほしい」と注文をつけたという。
靖国問題」という、かの国にとってはどうでもいいことで今まで日中間がギクシャクしていたが、漸く実務的な関係になったことに満足しているのだろう。
 短い記事なので詳細は分からないが、敢えて勘ぐれば、2008年の北京オリンピックを前に、それを阻害するような事案が起こらないように、中国政府は懸命になっていると思われなくもない。「台湾独立問題」を民主党本部であえて強調したことがそれをうかがわせる。
 4月には温家宝首相が来日し、秋には胡錦濤主席も訪日する予定だという。温家宝首相は、胡錦濤主席訪日の「露払い」で、日本側に何かを提案するのだろうが、多分、オリンピック成功のために日本側から「大きなお土産」を引き出すつもりなのだろう。かっての、江沢民氏の来日は“大失敗だった”との認識が党にはあるので、江沢民氏と対立する胡錦濤氏にとっては今度は“大成功”だとの印象を引き出すつもりであろう。その代償に何が計画されているのか?まさかオリンピック成功のために、天皇をご招待する気ではなかろうが…
 日本側としてはいい機会だから、中国国内はもとより、世界中に広めている南京虐殺という“虚構(プロパガンダ)”を一切排除するように苦言を呈するべきである。 勿論、ジャーナリストの桜井よしこさんが自民党本部で強調したように、安倍首相は靖国神社参拝を中止してはならない。これらの問題が自然に氷解されて始めて「日中間の困難時期」は過ぎたといえるのである。

 ところで台湾の「独立」問題は日本は勿論、米国でも誤解されている。台湾は「中華民国蒋介石亡命政権)」の頚木から解き放たれたい、と思っているに過ぎない。台湾は台湾であり、大陸に一度も支配されたことがない以上、大陸からの独立など不要なのである。勿論、大東亜戦争終結後に、日本の統治に代わって、国民党軍が支配したのは事実であるが、中共軍の支配は一度もない。だから、台湾人が「国民党支配」から脱却しようというだけなのであって、大陸政府の大陸統一未達成問題とはには無関係な問題なのである。
 この問題の行方は日本にとっても重大な意味合いを持っている。私は機会あるごとに2008年危機説を説いてきたが、その真意はつまりこうである。
 2008年に台湾総統に誰が選ばれようとも、紛争事態回避は困難となろう。国民党から選ばれると、台湾人は「平和的統一」を恐れて黙ってはいるまい。逆に台湾人から選ばれると、今度は国民党が黙ってはいないし、独立を恐れる中国政府は、前回のわれわれとの会議で公言したように「武力発動」してまで介入してくるかもしれないからである。問題はそうなった時の米国の対応である。
 国民党から選ばれた総統が「平和的に」台湾を共産化(統一)した場合、これは「合法」だから米国には手出しが出来ない。
 民進党総統が誕生した場合は、中国の武力的干渉に対しては、米国は何らかの軍事的行動が取れるだろうが、米国で民主党から大統領が選出された場合にはその行動に疑問符がつく。つまり、この問題で、米国は自分が育ててきた模範的な「自由民主主義国家」である台湾を見捨てることになりかねないのである。
 一方で、アリババと40人の盗賊に代表されるような砂漠の国に自分たちと同じ価値観を持つ「民主主義国家」を建設しようとして苦しんでいるのに、アジアでは自由・民主主義が確立した国家を米国が失いかねないことを、老婆心ながら私は心配しているのである。万一そうなれば、次は我が国で「反米主義者達」がそれ見たことか!とて騒ぎ出すだろう。そうなればマスコミが「日米安保の信憑性に疑問」「自前の核武装を急げ」「アジアはアジア、中国との関係改善を図れ」などと、一斉に見出しを掲げるのが見えるようだ。台湾の民主国家からの離脱は米国の国益に反することなのだが、イラクで手一杯の米国には先が読めていないように思える。
 台湾の現憲法が「モンゴルを領土にしている」事を知ったライス米国務長官が『信じられない』と発言したことからもわかるように、米国政府指導者たちにアジアの実態なんぞ分かる筈がない。世界を動かす彼らにとって見れば当然ながら限界があるのである。近々、安倍首相が初訪米するという。限られた時間ではあろうが、この問題を米国首脳陣に良く理解させてきてほしいと思う。