軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

流動的国際情勢と農水相の自殺

 情報戦について書いたところ、熱心なコメントが届けられ、関心の高さをうかがわせた。元情報本部長であった太田君(防大剣道部の後輩)の著書は、ご指摘どおり密度の濃いものである。情報機関の最高幹部だった太田元海将の勇気ある出版には敬意を表している。また、2004年7月に出版されたラルフ・タウンゼントの「暗黒大陸・中国の真実」が米国で発禁になったのは、いかにこの本が<真実>を突いていたかを示していると私も思っている。ブログ読者の方々には、是非ご一読願いたい好著であると思う。

 さて、28日正午過ぎに突然松岡利勝農水相が自殺したというニュースが全国を駆け巡った。政界は勿論、各界に<衝撃>が走ったらしいが、死んで責任を取るというのか、証拠隠滅のためなのか、いずれにせよ<不自然>な出来事に変わりは無い。政界の一寸先は闇だとよく言われるが、その闇を作っているのは議員自身であることを忘れてはならないだろう。
 今回自殺した松岡大臣は、色々な<疑惑>で追及されていた本人であり、結末を迎えることなく<幕引き>になるのでは、依然としてこの国の政界に「進歩と浄化」は期待できないといえる。
「『手塩にかけてきた事業や支援いただいた方に迷惑をかけたのが、本人はつらかったのではないか』と松岡氏の妻、初美さんは派閥の長である伊吹文明文科相にそう語ったという」と産経は報じたが、TVのインタビューを受けた伊吹大臣は「死人に口なしということか・・・」と答えていた。なんとも気になる発言だが、「死者に鞭を打たないのは、うるわしい日本文化の一つでもある。それでも、自らの死によって、真実を闇に葬ろうとする行為を認めるわけにはいかない」と産経抄子は書いたが同感である。
「何時まで続く“泥濘ぞ”ならぬ、“政界の闇”か・・・」と情けなくなる。

 わが政界が、松岡大臣の自殺で右往左往している間にも、国際情勢は激動の兆しを見せている。「米国とイランが直接対話を開始した」のも、イラク問題を巡る今後の動きを左右する問題である。そのイラクバグダッドでは、28日も爆弾テロが相次ぎ、23人が死亡、66人が負傷したと伝えられている。武装勢力も“必死”の戦いを挑んでいるのである。同時にブッシュ大統領は、イラク駐留米軍に対し、米国の情報機関が特定したイラン革命防衛隊の秘密部門を掃討するよう命令したという。
 一方、我が国周辺では、北朝鮮情勢が動きを見せ始めている。韓国メディアが「金総書記の健康状態悪化」と伝えたが、糖尿病と心臓病が悪化しており、過去の「情報」に比べて、今回の情報は「信憑性が高い」という。北朝鮮情報筋が「中国から入った情報のようだが、急変するような話ではないと聞いている」と産経新聞に言ったそうだが、否定も肯定もしていないところが興味深い。
 更に連載コラムの『ハロランの眼』には、リチャード・ハロラン氏が、北の「鉄の支配体制」に軋みが見られるとして、「体制に異を唱える動きが広がりつつあるという兆候が北朝鮮から漏れてくる中で、このところ、同国指導者、金正日総書記が朴奉珠首相をクビにし、自身への忠誠心が特に強いと見られている軍の高級将校達を取り立てたと報じられている。朴前首相は、長時間労働の推奨強化策として、労働者の賃金を月給ではなく時給で払うよう唱導したため、解任された。金正日氏が後任に据えたのはあまり知られていない金英逸・陸海運相だ。改造で入閣した将軍達は、軍事上の能力ではなく「金氏に対する政治的な忠誠心ゆえに選ばれた」というところが面白い。
 これが正しいとすると、政権末期現象の最たるものだといえよう。閣僚だって人間、ハニートラップにも引っかかるし、“自殺”だってする。“あまり知られていない金英逸陸・海運相”に不快感を思っている閣僚達もいるに違いない。増してや「実力と信頼度」がものをいう軍事の世界では、“軍事上の能力”ではなく“ゴマすり忠誠心”で昇格した将軍達に対する兵士達の“反感”は見逃せない筈である。部下にとっては、“彼”の命令ひとつで「生きるの死ぬも」紙一重なのだから・・・。
 韓国も大統領選挙を控えている。台湾も立法院選挙に続いて総統選挙が迫っている。中国は、オリンピックを控え、国内の環境問題はより一層深刻さを増し、一人っ子政策反対運動などで国内は緊張してきた。
 参院選のみならず、そんな周辺情勢を控えている我が国としては、松岡大臣には気の毒だが「喪に服している暇」などないに等しい。若い安倍首相には、「任命責任」に拘ることなく、冷静かつ決然とした指導力を発揮される事を期待したい。