軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

「2008年の国難」黄文雄著

 我が国内外を取り巻く情勢について我が国のメディアは、6カ国協議の成果?に期待したり、総連施設の売却問題、公安調査庁問題で持ちきりである。確かに我が国の「対工作機関」の長ともあろう者の裏切り行為は、今後メスが入れられ解明されなければならない問題である。どんな立派な情報機関を作っても、所詮それを運用するのは人間なのだから、人材育成と確保こそ急務であろう。
 社保庁問題も、漸く「彼らのサボタージュ」だったことが表面化しつつある。紛失されたとする原簿を写したマイクロフィルムも、聞くところによれば「原簿」さえも残っているそうだが、国会で“破棄したこと”になってしまったから取り扱いに苦慮しているのだ、という情報さえある。役人としては今更「ありました!」とは言えないからだろう。友人の経済専門家によると、マイクロフィルムから転記するのに「何兆円」もかかるそうで、真偽のほどは分からないが、“年金不足”なのにそんな予算は支出できないから、政府も困っているのだ、というから何をかいわんやである。とにかく、これらの諸問題を貫くものは「無責任」の一言に尽きる。そんな過去のばかげた「ツケ」を、安倍政権が払わされているのだから、気の毒の一語に尽きる。「政府の責任」とはいっても限界があろう。この問題を「無責任にも放置」してきた歴代関係者を処断するべきである。メディアの解説はその点で不十分である。

 ところで今日は、表記の黄文雄氏の著書を読み終えて感じたことを書いておきたい。
 私が「2008年危機」をバカの一つ覚えのように繰り返していることは先にも書いたが、スケジュール表を書いてみれば自明であろう。

2007年7月29日・・・日本:参院選
    12月   ・・・台湾:立法院(国会議員)選挙
    12月19日・・・韓国:大統領選挙
  (後半に豪州でも総選挙が予定されている)
2008年3月   ・・・台湾:総統選挙
     4月   ・・・韓国:総選挙
     5月   ・・・台湾:総統就任式
     5月   ・・・ロシア:大統領選挙
     8月8日 ・・・中国:北京オリンピック
    11月   ・・・米国:大統領選挙
と、重要行事が目白押しであり、更に2010年に上海万博、2012年に台湾侵攻?(江沢民発言)が予定されている。
「2008年の国難・・・日本の敵は?味方は?」と題するこの著書を読むと、我が国が直面している情勢が良く分かる。私はよく講演で、2008年の総統選挙で「国民党」が政権を奪還した場合、国民党と北京政府主導による「台湾の平和的統一がありうるが、そのとき台湾国内は?米国は?日本は?」
 他方、「民進党」が政権を維持した場合、「独立宣言はありうるが、その時国民党と北京政府はどう出るか?そのとき米国は?日本は?」と問いかけてきた。
 ところが最近の国際情勢と中国国内情勢を分析していて「北京オリンピックが開催不可能」になった場合に、北京政府がどう出るか?その時世界各国は?日本は?を付け加えるべきではないか?と考えるようになっていたのだが、この本を読んでますます現実味を帯びてきた。
 中国国内の「人権無視」「炭鉱始め産業界の奴隷?制度」「一人っ子政策の矛盾」「貧富の差、公務員(党員)の汚職問題」「環境破壊の凄まじさ」「これらに不満を持つ民衆の暴動件数の増加」・・・などは、インターネット社会では既に相当以前から指摘されていたことだが、一般メディアでも大々的に報じられる様になってきたから、中国国内情勢は既に「予断を許さない状況下」にあるのではないか、と思うのである。オリンピックを成功させなければ胡錦濤政権が崩壊するのは明らかである。
 日中安保対話で、私が「台湾侵攻を止めるように助言」したとき、中国高官は「台湾問題は中国の核心問題」であり、「中国の指導者は直接的軍事力行使を躊躇わない」「躊躇えば中国にいられなくなる」といった。
「台湾侵攻」を「北京五輪」に置き換えてみると、「北京五輪胡錦濤政権の核心問題」であり、「断じて実行あるのみ」「もし中止になれば中国にいられなくなる」ということになる。
 それで我が国の政治家達が、懸命に「成功させる会」を作って支援し、温家宝首相は「天皇の政治利用」までも提案してきたのであろう。
 我が国は、絶対にその手に乗ってはならないが、今の情勢から見れば、五輪の開催率は50%程度に思われる。

 93歳の元特務機関員の門脇翁も否定的な分析をしていたが、「私は開催されても国内に大きな問題を引き起こし、国内騒乱の目になると思う」と予測した。その根拠は、国民が“五輪開催”で生活が極端に制限されている上、一部特権階級以外には何のメリットもないことに不満を抱いていて、それは日に日に膨らんでいるからだという。
 特に「水不足問題」は深刻で、日々の飲料水確保にさえ不自由している彼らが、世界各国から集まった肌の色が千差万別の「選手達」が、貴重な水をシャワーで気ままに使い放題であることを知れば、中華思想が蔓延する彼らは「なぜ彼らは使い放題で、我々は制限されるのか!」と暴動に発展する可能性さえある、と分析していた。万一そうなった場合、北京政府はその不満の捌け口をどこに求める気か?
 こう見てくるとこの夏の参院選挙は、まさにこの国の将来を左右する極めて重要な選挙になることが明白になる。戦後レジームからの脱却が出来るのか?そのまま、アジアの「キリギリス」として生ける屍を晒すのか?
 まさに我が国には、今「国難」が迫っているのだ!と強調すると、またペシミスティックだといわれそうだが、是非とも一度この本を読まれることをお勧めする。(ビジネス社刊:¥1500+税)