軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

災い転じて“福”となせるか?

 この二日間、全てを忘れようとDVDを借りて二日間徹夜した。徹夜といっても、一日目は0500までで就寝し、3時間睡眠。二日目は0600で完結し、3時間睡眠をとったが、おかげで昨日の土曜日は、居眠りばかり、集中力を欠いて新聞には目を通したが読書も不可、結局睡眠不足は体力低下に最も“効果的”で、非効率的な行動であることを検証できた。DVDは「24=シーズン5」全12巻。一時間毎の変化が現実の時間帯と重なると何と無く現実味がある。「AM3〜AM4」を、0300から0400にかけて見るのである。しかし、現役時代は演習でこれぐらいの睡眠不足はなんということもなかったが、やはり「老兵」であることを実感した。得た教訓は、年を考え、今後無理はしないことにすべし、というものだった・・・

 ところで安倍総理辞任劇は大変な反響で、私のブログでも侃々諤諤の“闘論”が続いているが、何と無く感情的で、それだけ“信じられない”出来事だった証拠であろう。
 70件を超える読者各位のやり取りを読んだが、「だから保守派は自滅するのだ」と痛感した。みんな安倍総理に大きな期待を寄せて、信じていたが故に、突然の退任劇に戸惑いを隠せない。そして「仲間内で(勿論意図的に工作してきている読者もいるかもしれないが)不満を叩き合う」。戦後の「保守と革新」の戦いそのままである。
 新しい教科書を作る会も、拉致支援グループも、南京事件百人斬り訴訟”も、敵の回し者が侵入したか否かは別にして、とにかく「仲間割れ」が続いて、「敵の思う壺」に嵌って“自滅”しつつある。
 私に言わせれば「共産主義思想シンパ=以下“左派”と表現」は鉄壁の「団結」を示し、対する「自由主義・民主派=以下“右派”と表現」がやがて空中分解するのは、勿論「工作員による謀略」もあるが、「俺が俺が」という過剰意識が組織の団結を弱体化している、と見ている。つまり両派の違いを簡単に言うと、「左派」は、内部でおぞましいほどの権力闘争を繰り返しているものの、外部に対しては一切これを隠蔽し、一致団結してこれを粉砕する努力を傾注する。そしてその根底には、組織を支配する「恐怖政治」があるのだが、他方、「右派」の方は、自由であることをいいことに、強制的な指導力を発揮するものがいない。発揮しようものなら「全体主義的だ」と非難され、首を挿げ替えられる。自由であるが故に「自己中」で、他人の意見には耳を傾けず、「俺が俺が・・・」で組織を潰す。中には、組織内での亀裂を、外部にリークして自己の権益?を守ろうとする輩もいるという。
 その結果の「敗戦責任」は、左派の場合は、「総括」という「非人道的手段」で償わされるが、右派の場合は、誰も責任を取らないばかりか、相手に押し付けて逃れようとする傾向が強い。これじゃ結果は目に見えている。
 冷戦時の米ソの戦いを挙げるまでもなく、大陸における国民党と共産党の権力争い、戦後日本政治の保守と革新の戦いを見れば歴然としているだろう。

 1932年7月31日、ヒトラー率いるナチスが、ドイツ議会選挙で第1党になり、翌年1月30日、ヒトラーはドイツ首相に就任した。その後の歴史は書くまでもあるまい。一時的熱気に浮かれてヒトラーを担ぎ出したドイツ国民は、その後取り返しのつかない彼の暴挙を黙認する以外になく、甚大な被害を蒙って敗戦国となった。どれほどの国民が「しまった!」と地団太を踏んだことか!しかし時既に遅しであった。
 最後の砦であった精強なドイツ陸軍も、第一次大戦ではたかが「ボヘミアの伍長」にしか過ぎなかったヒトラーが最高指揮官に着任し、名だたる将軍閣下も手が出せず、軍事的素養のない彼が発する合理性に乏しい作戦を遂行せざるを得ず、敗戦間近に「クーデター」を仕掛けたが失敗、ついに連合軍の軍門に下ったのだが、当時誰がこれを阻止できたろうか。ドイツ国民は、ヒトラーを軽蔑していた者もそうでない者も、等しくその責めを負うことになった。

 話は飛ぶが、たまたま安倍総理辞任の報に接した直後、私は元政治部記者のジャーナリストと面談した。彼は辞任を知らなかったが、私から聞くと開口一番「これは号外だ」と言い、ついで「小沢はしまった!と思っているに違いない」と言った。聞くと「小沢代表はマスコミの支援を受けて、調子に乗って安倍総理を追い詰めて得意になっていたが、その後の展開に対する戦略がないと感じていたからだ」と彼は言った。
 つまり彼の安倍内閣攻撃は「単なる近視眼的攻撃」に過ぎず、それは「自分の非を隠す煙幕作戦」に過ぎないと見ていたからだ、と言った。さすがは元政治記者である。彼が言った「号外」が配られるとざっと目を通して「我々ジャーナリストもそうだが、与野党とも青天の霹靂、全く予想もしていなかったに違いない。さて、自民は誰をピンチヒッターに据えるか」というので私が「選挙をしている暇はない。とすれば後継指名は誰がするのか?」と聞くと、「いわゆる首相経験者だが、中曽根はバッジをはずされ、橋本も、小渕も既にない。森が出てくると混乱する。彼が福田を官房長官に、と強調していたのが気にかかる。小泉は絶対に動かないだろう。チルドレンは右往左往、親にはぐれた迷子状態、だからといって麻生を据えると、特措法で失敗したとき、彼の出番はなくなり、戦後改革は挫折する。特に麻生総理を絶対阻止する、という陰の実力者が蠢いているから、麻生は苦戦する。まさかと思うが、前回の総裁選で「私は年だから・・・」と辞退した親中派の福田氏を緊急事態だから、と言って担ぎ出すことが考えられるが、これで自民党内の親中派が息を吹き返し、靖国拉致問題など、とんでもない事態になり、日本政治は10年は逆戻りしかねない・・・。そうなれば政界再編が動き出す」と言ったが福田氏が最有力候補になりつつある。
 安倍総理を「年金問題や特措法反対」で追い詰めて、窮地に追い込んで得意満面だった小沢氏は、軍事戦略の基本を知らなかったのだと私は思う。それは友人の政治ジャーナリストが言ったように「自己の不利益を隠蔽する目的で煙幕を張っていたから」に過ぎないからである。安倍総理を追い詰めて「包囲殲滅戦」を仕掛けた彼は、予想外の突如指揮官交代という展開に戸惑い、打つ手がない様に見える。これが安倍氏の「高等作戦」だったとしたら、見事としか言うほかないが、それは後世の評価に待つ以外になかろう。

 陸軍の代表的な軍事作戦には「包囲・突破・正面攻撃」があるが、「包囲殲滅戦」の典型的な戦例は、第一次大戦での「タンネンベルヒの包囲殲滅戦」に代表される。これとてヒンデングルグとルーデンドルフの作戦意図通りに進行したものではない。たまたま第一軍団長のフランソワ将軍が、状況判断した結果の独断専行で、敵の退路を断ったため、パニックに陥ったロシア軍を殲滅できたに過ぎない。
 日露戦争でも、奉天会戦はその典型であったが、孫子は退路を断つことを戒めている。窮鼠猫を噛むといわれるように、退路を立たれた敵は、死に物狂いの抵抗をするものだから、味方の損害を最小限にして全滅する方がよい、といっている。
 今回の事例がどれに当てはまるか知らないが、少なくとも友人が開口一番発言したように、いまや民主党にはメディアの「お声」はかからず、秋風が吹いている!敵である自民党総裁選に全ての関心が集まり、民主党はお呼びでないのである。“小沢将軍”の心中いかばかりか?しかし、これがまた彼一流の「政界大編成」を狙った大芝居?であったとしたら、大した大戦略家である、ということになる。
 安倍氏も小沢氏も、たまたまそういう行動に出ただけなのか、あるいは「大戦略」だったのか、いずれにせよ、世界の動きは、日本の政治状況の都合など全く気にすることなくどんどん進んでいることを忘れてはならない。

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戦場の名言―指揮官たちの決断

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