軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

北京会議こぼれ話・その6

 続いて司会者である蒋所長自ら次のようにコメントした。
「この問題については中国政府は慎重に対応しなければ、中国の危急存亡にかかわる問題である。胡錦濤主席の第17回党大会における発言は『危機管理』を呼びかけている。
 トウ小平時代から、最大の危機は何かと問われてきたが、その一は『腐敗の撲滅』であり、その二は『台湾独立阻止』問題である。これを取り違えれば、政権は即失脚する。ましてや今やインターネット時代である。中国政府はその意思を繰り返し表明してきた。今回のシンガポールで、リ・クワンユー首相は『中国は、台湾問題ではオリンピック開催のため手段が取れない』と恐れているが、中国は重要性を認識し準備している。諸国はこれを真剣に受け止めなければいけない。台湾は、是非耳を貸してほしいと思う。
 佐藤将軍は『武力行使は国際的信用を失墜する』と言ったが同意できない。中国は繰り返し態度を表明してきた。逆に武力行使しなければ、陳水扁の信用が失墜するのではないか?
 ジャーナリストの発言(これは私が「知られざる隣人たちの素顔【後に紹介】」木村明生著の73ページに、満州を案内してくれたK氏=元中日大使館一等書記官・日本学者=が、木村氏の問いに答えて『その通り。中国は満州を侵略した。しかし、日本の関東軍のように武力で侵略したのではない。中国の高い文化の力によって同化したのだ』と語ったエピソードを紹介したもの)の信憑性は低い。万里の長城の歴史の理解が不十分である。
 台湾問題は原点に戻るべきである。それは日本外務省も公開しているが、35年前の日中友好条約締結時の「高嶋条約局長と大平外相の『台湾は中国の一部だ』という共同声明」「台湾独立は支持しない」「中国の内政問題であり、平和的に解決して欲しい」と言う発言が根拠である」
 その後質疑となり、日本側から吉崎氏が上記大平発言について、麻生大臣の国会答弁を引用して詳しく強硬に反論した上で「台湾の国民投票は多分成立するであろう事」などと発言、武貞氏が「軍事費の透明度に関して、例えば海洋問題、衛星破壊問題などで中国は隠すことが多い。台湾に武力行使を辞さないというのであればそのシナリオはあるのか?」などと質問、金田氏が「軍事力の透明性の話では、国防白書だけが透明性を示すものではない。先のシャングリラ会議でもこれに関してブーイングが出た。学術会議の場であるにもかかわらず、中国側が『政府の立場で発言』するからである。
台湾独立を許さないのは、台湾が独立すれば米軍の駐留が復活するからだ、と言う研究者の発表があったが真意はどうか?」続けて川村団長が「台湾武力侵攻の成功の見通しはあるのか?」とかなり“率直な”質問を投げかけた。
 中国側の大佐が「佐藤将軍は論文の中で台湾を『国家』だと2回も表現したが、台湾は国家ではない」とコメントしたが、随分気にしているものである!
 続けて彼女は「中国の政策は平和的解決の強調が示している。台湾問題は中国の“腹一つ”だというが、それは(台湾側の)独立宣言の有無にかかっている」と発言した。
 また、別の上級大佐は「軍事的話題ではあるが、学術的立場からの討議に賛成する。台湾に対する武力侵攻の可能性はまだまだ低い。戦争防止の意味で『現状維持』と言う用語を使うが、台湾の学者、日本側は海峡の平和安定を望んでいる。ところが(中国側の)最新の動向に気がついていない。今の(中国の)政策を分析すれば、変化が読み取れるだろう。(日中)共同して陳水扁の独立を阻止するために努力すべきである。現状破壊を狙っているのは、台湾の独立志向派である。台湾を説得するやり方が問題である。トラブルメーカーは誰か」
 これに対して私は大意次のようにコメントした。
「最初に私が提示したように、来年台湾の総統が交代することによって何が起きるか?というのが私の最大の懸念である。そこで私は二つのシナリオを提示したのだが、どちらの候補が総統になろうと、今の状況では台湾政府は冷静かつ慎重に動くと見ている。したがって、どちらが選ばれても『独立宣言』をするようなことはしないと思う。ただ私が読めないのは、台湾人がそのときのムードでどう動くかということである。例えば馬英九候補が当選した場合には、台湾人が不満を持つ恐れがあり、逆に謝長廷候補が当選した場合は、長年権力を独り占めにしてきた国民党員がどう反応するか、ということである。
 私が以前会った台湾陸軍(国民党)の老将軍は「大陸に帰りたいが既にその縁はない」と言った。現役の陸軍中将(国民党)は「今から大陸に戻っても、生活基盤が異なるので大陸では生活できないだろう。特に子供達は大陸に行ってもなじめないだろう。だから台湾に住む以外にないのだが、台湾に逃げてきた時に台湾人に対して行った虐殺の報復が恐ろしい」と言った。
 そこで私は台湾政府高官との夕食会の席で「あなた方は国民党に対して報復するか?」と聞くと、男性全員が「そのようなことはしない、共に台湾で暮らしたい」と言ったが、ご婦人方の何人かは「あの残虐行為は絶対に許せない」と言った。その言葉を聴いた国民党高官はそっと俯いたのだが、私はこの問題は、学術的な考えなどではなかなか払拭できない大きな問題であると思う。そこを何とか解決しないと、台湾内部の問題はもとより、中台間の問題も解決できない、そこが2008年の動きと重ねて読めないので、何とかして私はこれを解決する方法はないのか、と考えているのである。
 その場で私は『あなた方台湾人がこの問題をどう考えていようと、日本の退役軍人である私は非力であり無関係である。やりたければ大陸とも戦えばよい。われわれとしてはその被害が日本に及ばないように自動的に沖縄のテリトリーを守るだけである』と言ったのだが、同じことは貴国に対しても言える。しかし、それでは愚かな歴史を繰り返すことになるから、何かそこに大陸との関係においても知恵がないのか、ということを言い続けているのである、とコメントした。
 これに対して陸軍少将は「私も同じ軍人である」と前置きして、金田氏の透明性に対する質問に対しては「白書を出したことが一歩前進である。透明性は相対的なもの、信頼醸成が大切」と回答し、私に対しては「中台紛争はあまり遠くない。しかし、遠いとも近いともいえない。(われわれは)平和的解決を模索しているから、遠くないということの裏には、台湾の動向にかかっている。われわれは反国家分裂法でとるべき手段を定めている。
 しかし、紛争発生の根源を根絶する必要がある。引き金をなくすための努力をすることについては大佐と同意見である。是非『現状維持』を台湾側に働きかけて欲しい。『公式的』にいうと、(われわれは)勝てる。国防部長が言ったように、われわれは『決心』『能力』『手段(方法)』を持っている。台湾紛争に対して、米国、つまり外国からの介入に対して心配している。米中国交後、われわれは三つの約束をしているが・・・」とかなり突っ込んだ意見を述べたが、対中紛争にかかわる彼らの図上演習がどんな結果を出しているのか、興味深いものがあった。

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