軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

北京会議・その5

 11月20日(火)、0715に起床して地下の食堂でお粥の朝食、次々に客が入ってきて40人ほどになったが、まだまだ余席はあるというのに、私の卓に集まってくる感じ。
 0840、徒歩で社会科学院に向かう。
 ひとしきり挨拶が済んだ0907から蒋所長の司会で第4セッションが始まった。
蒋所長は「今日は軍人同士の会のようなもので、自分は不要ではないかと思う」と一同を笑わせたが、所長の左隣には、軍事科学院世界軍事研究部副部長(陸軍少将)が着席し、右隣りが元海軍少将であり、その右が陸軍上級大佐、更に女性の陸軍上級大佐もいたから、今日は確かに“軍事会議?”の雰囲気であった。
 最初の意見発表は私だったから『台湾海峡の安定の見通し』という小論文を、かいつまんで30分間発表した。
 内容は、1、中台双方の主張。2、2008年の国際情勢と考えられるシナリオ。3、中国が台湾に対して軍事力を行使した場合。4、提言。5、結び、の5項目であり、要するに『台湾海峡の安定は、いつに中国政府の“腹”にかかっているのだから、アジアの平和と安定のために、中国には“大国らしい自制心と寛容さ”を期待する』というものであった。
これに対して蒋所長は「軍人らしい発言であり、政治的発言ではない」とコメントし、続いて陸軍少将の意見発表に移った。
 彼は「台湾の平和に関心を持っているのは理解する」「中日間の高いレベルの信頼感醸成について、科学的な相互信頼が必要」と前置きして、例えばキッシンジャーが『中国を敵とすれば敵、友とすれば友だ』と言ったことを挙げ、大意次のような発言をした。
「一国の軍事力増強は相手国の脅威では必ずしもないが、相手国に信頼があるかが問題である。われわれは強くなっても覇権国にはならないと一貫して強調してきた。しかし、いくら弁明しても日本側に理解してもらえない。日本は軍事透明度に関心があり、心配していることはよく知っている。二桁増の軍事費にしても、あくまでも中国の主権の象徴であり権利である。国際的には確かに軍事費増であるが、しかし日本は同じことをインドに対しては言っていない。
 国際社会に安心してもらうためには、軍事、国防について説明する努力が必要なことも事実である。そこでわれわれは国防白書を発行し年々透明度を増やそうと努力してきた。軍事費総額ではなく、内訳についても説明できるようにしていきたい。 白書の中で具体的な軍の構成についても議論した。中国の軍事費増について、詳しく説明するように努力してきた。
 中国は、昔はGDPも低かったが今は豊かになった。まず、昔のツケを補うために軍事費を投入しているのである。次に軍事力の立ち遅れを整備しているのである。三つ目は、人件費アップは兵隊達の福利厚生向上のため増加しているのである。四つ目はインフレの要素もある。そのほかに、安保のみではなく、台湾独立の脅威も抱えている。
 軍は主権領土を保全する義務を負う。佐藤将軍の「台湾を巡る情勢を平和的に」と言う意見にある程度賛成する。胡錦濤主席の報告の「最大の誠意を尽くす」という発言も聞いている。胡錦濤主席は17回大会において、二つのアイデアを出したことが新しいところだ。
 つまり、16期大会では「一中の下」と言う表現であったが、17期大会では「一中の“原則”の下」と変化している。ここが新しいポイントである。
 他の新しいポイントは、「運命共同体」を提唱していることである。中華民国中華人民共和国かの二者択一ではない。しかし陳水扁は大陸側の善意に全然応じない。
 2008年の台湾情勢に注意を促す必要はある。APEC胡錦濤主席がブッシュ大統領に「2008年は危険になる」と言ったのは正しい。
 陳水扁は四つのノーと一つのナッシングと言ったが、今は四つの必要と一つのノーと変わっている。国名も「台湾」として国連加盟を推進している。台湾は脱中国の準備中なのである。台湾は軍事的にも具体的な準備を行いつつあり、本島以外で迎え撃つ準備を進めている。武器の購入、増強を図っている。馬祖島にはミサイル(天弓2)を配備し、陳水辺は核開発も指示している。F−16C,Dを購入しているから、われわれもそれに対応処置を取りつつあるが、中国の軍事増強は、どこの国にも脅威にはなっていない」
 更に私に対するコメントとして「台湾の帰属問題」について次のように付け加えた。
「帰属問題は歴史的に決まったものである。台湾が大陸の一部であり、人民も中国国民であることは、カイロ・ポツダム宣言に明らかに定められている。
 台湾は「国」ではない。国の概念と地政学的概念を混同している。例えば沖縄は沖縄の人民に属する。長野は長野に属する、と言うことに賛成できないだろう。
 台湾の自主的選択を尊重するが、それは13億人の意思で決せられるものである。なぜならば、億単位の人口を持つ河南省も自主的選択をするとすれば、中国は直ちに崩壊するのではないか?
 台湾の85%の人口は本省人だというが、74%の台湾人は福建省出身であり、14%が客家、原住民は2%に過ぎない。明時代に台湾へ移動したのである。
 台湾紛争で周辺は一気に緊張すると佐藤将軍は言ったが、中国人民は平和を愛すると断言できる。しかし、戦争を押し付ければ断然立ち向かう。領土と主権の問題については、われわれはいささかも後退しない。言われたように両岸人民は中国系であるのに何故軍事力を行使しなければならないか。一番望まない事態である。
 江沢民前主席は、中国人同士の戦争はしないと約束した。台湾独立分子が強制的に占有しようとするならば、断然武力を行使する。われわれは法的基礎と民意を持っている。
 台湾独立を許したら、中国国民は(政府を)決して認めない。政府は即座に失脚する。台湾を独立させないように(政府は)国民から圧迫を受けている。台湾が独立すれば、新疆ウイグルチベット、モンゴルも同じことをやることが予想される。
 中国は法治国家であり憲法反国家分裂法を持つ。平和的手段を考慮しているが、万一の場合には武力行使を辞さない。是非日本に理解して欲しい」
 実に47分に及ぶ「演説」だったが、内容を十分吟味してみる必要があると思う。特に私が考えていたように、「台湾独立宣言」は、直ちに周辺の少数民族の独立問題に火がつき、収拾がつかなく恐れがあることを憂慮していることが今回の少将の発言で証明されたことは重要である。

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