軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

入院日記 第2幕「極楽篇(その5)」

 家内と会話中に看護婦さん食堂に来て、「佐藤さんの今日分の点滴は終了です」というと針を抜いてくれた。「明日も続くのですか?」と聞くと、「毎日2本点滴します」とのこと。しばらくは、点滴棒につながれた生活が続くのだろう。明日の点滴は、やはり右腕に変えようと思う。
 部屋に戻るとSさんとYさんの会話が進行中であった。「中支」にいた85歳のAさんとおふくろさんが、その後も病室の外で立ち話しているところへ、83歳のBさんが参加し、女性3人が揃ったのでなかなか賑やかだったのだが、その感想を話しているのである。
 401号室に入室して“先任”のSさんの会話が実に面白く、1人ベッドの中で吹き出していたのだが、これが回復に大きく作用した、と私は感謝している。同時に、一般世情をつぶさに体得できたこともありがたかった。つまり、私が常々社会情勢で感じていることの裏づけが取れたからである。このときの会話は『女性の強さ』であった。
Sさん「Yさんよ、女ってエのはすごいね」
Yさん「どうして?」
Sさん「だってまだ三人でしゃべっているジャン、3人とも80過ぎだぜ、元気すぎるよ、とてもかなわねーよ。男にゃ真似できネー」
Yさん「男は単なる種付けよ。女は違う、とにかく子供産んで育てて、身体もそうだが根っから強いのは元々女のほうじゃない?しかも三人寄るともうだめ・・・」
Sさん「言えるネ〜。俺のお袋見てるとそう思うもん。俺もオヤジもぐうたらの遊び人。でもよ、そんなオヤジにお袋は愚痴ひとつ言わずに仕えたもんな。」
Yさん「そりゃ偉い!親父さん何してたの?」
Sさん「仕事っていう仕事はしてなかったが、若いもんの面倒は良く見ていた。おれもそれ見て育ったから、全然働らかネーで、いつも府中で馬券買って・・・」
Yさん「典型的な遊び人ってとこか」
Sさん「そう、お袋は偉いよ。だからさ、俺が働けなくなったらおふくろに面倒かけることになるじゃん、それだけが怖くてさ、足切られなくてよかったよ」
Yさん「そりゃよかった。早くよくなって孝行するんだな」
Sさん「そう思ってるんだけどさ、なかなか良くならねーんで・・・、もう3ヶ月だぜ、あと一ヶ月はかかるって言うんだもん、どうショーもないよ」
Yさん「そりゃしょうがない、医者の言うとおりにして早くここを出るんだな」
Sさん「そうよ、いつまでもお袋に見舞いにこられてんじゃ、看護婦に馬鹿にされるよ。いい年してって、もう言われてるんじゃネーかな」
Yさん「おふくろさん、本当に元気だね〜しっかりしてる、感心するよ」
Sさん「俺さ、お袋に絶対頭あがんねーのはさ、俺、こんなバカ息子なのに、人様の前で『うちのバカ息子』って絶対にいわねーんだ。嫁も来ない本当のバカ息子なのに・・・これには感謝してる。だから俺もさ、うちのくそ婆、とは口が裂けても言わねーことにしてるんだ。そりゃ面と向かって互いに言い合うよ、併し他人様の前では絶対に言わねえ」
Yさん「あんたも偉い、さすがあのおふくろさんの子供だけある」
Sさん「そういってくれるのはYさんだけだよ」
私「Sさん、聞こえていたから言うが、私もあなたは偉いと認めるよ」
Sさん「エッ佐藤さんも!嬉しいね〜」
私「人間、社会的地位が高いか資産があるかないかの問題ではない、純粋に生きているかどうかの違いだと私は思っているから、今の話は感動した。Sさんは偉い!」
Yさん「全く、そうだと思うな〜」
Sさん「佐藤さんに言われて嬉しくなったよ」
私「Yさんが言ったように、おふくろさんを大事にしてあげなさい」
Sさん「そう思う、早く良くなってここから出て心配かケネー様にと思ってるさ。何せお袋ときたら、雨が降ってても傘さして自転車で見舞いに来るんだから、俺心配で心配で、それだけは止めろって言うんだが、絶対に聞かねーんだ。強情だよおふくろは」
Yさん「傘さして自転車?そりゃ危ないね」
Sさん「そうだろう?デモさ、俺が先に死んだらおふくろ面倒見る者いないし、怪我されても俺こんな状態だから何も出来ネー。だから心配なんだ」

 こんな人間くさい会話を聞いて、久しぶりに人間性を取り戻した気がした。生意気言うようだが、庶民は実に健全だな〜と思う。夕食後の二人の会話も実に面白かったが、これは次回のお楽しみ!        (続く)


 ところで昨日はCNN・TVのライブを見て過ごした。コロンビアでの人質救出作戦である。見事な作戦で感心したが、関係した将軍達と大統領らが、記者団を前に作戦の“詳細”を暴露していたのは気になった。

 その中で将軍が「大統領が軍を信頼して実行許可を出してくれたことが成功の一因だ」と言ったのに複雑な気がした。コロンビアでも(失礼ながら)そうなのに、大国日本の“軍”に対する最高指揮官の信頼度と比べて、情けなく思ったのである。
 民間機に追突されても、遊漁船に体当たりされても、居眠り?漁船に体当たりされても、全て「部下が悪い」と叱責する指揮官の下では、余程のバカか聖人でなければ「馬鹿馬鹿しくて」やる気がしなくなるのではないか?と思ったのである。福田首相は、コロンビア大統領と軍に見習って、拉致被害者救出作戦を実施したらどうか?支持率はぐんと上がり、政権維持も心配しなくて済むだろう・・・
 そう思っていたら、今朝の産経の「野口裕之の安全保障読本」に「『信賞』なき自衛官の名誉」と云う記事が出ていた。紙数がないのでピクチャーを掲載するに留めるが、自衛官たちの心情はまさにこれに尽きると思う。

中国沈没

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