軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

豚インフルと大型連休

 メキシコで発生した豚インフルが大流行の兆しを見せているので、WHOが警戒を呼びかけた。昨日、成田空港で陽性患者が見つかり大騒ぎのようだが担当する厚労省は大忙し、舛添大臣には年金問題はじめ業務多忙で、大型連休にもかかわらず、休む暇もなさそうでお気の毒である。


 私は、29日の昭和の日、好天につられて家内と青梅・奥多摩湖周辺をドライブしたが、中央道とは対照的にがらがらでのんびり初夏の一日を楽しんだ。
 吉川英治記念館を初めて尋ねたが、昭和19年3月に赤坂から西多摩村吉野町疎開した吉川英治は、「新書太閤記」を執筆中だったが、終戦とともに筆を絶ったという。3年後の昭和23年9月から「高山右近」を、続いて「新・太平記」を起稿、この場所に10年間住んだという。

 梅園に囲まれた2000坪の敷地に建つ邸跡と記念館は、当時のままであり古き良き時代の日本の姿を思い起こさせてくれる。中でも書斎のそばに聳える「夫婦椎」の大木は、親筆中の吉川英治の姿はもとより、戦前・戦中・戦後の日本の激動する姿を見つめて来たに違いない。

書斎

夫婦椎

 吉川英治は、昭和12年支那事変勃発とともに、毎日新聞特派員として北支に従軍しているが、翌13年には佐藤春夫菊池寛吉屋信子らと共に南京、漢口に従軍している。展示された貴重な写真には「大陸の風土に接し歴史の悠久さに烈しく搏たれる」と解説してある。多分、毎日新聞の「百人斬り」や、「南京大虐殺」の虚実についても熟知していたに違いない。いや、虚報だったからこそ、彼の作品などには、一切これらが出てこないのだろう。吉川英治はじめ、前線を取材した文豪達は、間違いなく“現場”を見ていただろうからである。

 展示館入り口には(財)吉川英治国民文化振興会がつぎのような「ごあいさつ」を掲げている。
吉川英治が苦難の少年期を経て、大正初期に文壇に登場してから、昭和37年、その筆を絶つまでの生涯は、真に大衆の中に生き哀楽を共にしたものでした。その50余年にわたる文業は、その座右銘であった『大衆即大知識』『吾以外皆我師』に貫かれ、自らも含めて衆生の幸福を追求する熱い情熱と理想で支えられていました。・・・・・・記念館はその偉業をしのび、加えて永久に続く新しい世代に吉川文学を語り継ぐ大河の源泉となることを祈念して、英治の愛してやまなかったこの地に建てられました。ここには英治の著書、遺稿、遺墨、そして全人格と骨肉の愛を語る資料等を全て収録して、吉川文学の理解、研究の資に供してまいります。吉川英治記念館は、ここを訪れる皆様、そして全ての日本人の文化財・心の糧として、受け継ぎ語り継いでいただきたいと存じます」

 記念館の裏に広がる愛宕神社の見事なつつじを紹介してくれた展示館の女子職員に聞くと、最近は来館者数がめっきり減り、特に若者の姿は殆ど見られないという。

一面のつつじの群生

 裏山の杉林を、花粉症対策で切り開き、つつじの苗をボランティアが植樹しているのだが、ハイカーの中にはその苗を掘り起こしてリュックに入れて持ち帰るものがいるという。どんな神経をしているのか?と悲しくなるが、「大衆即大知識」「吾以外皆我師」を座右の銘にした吉川英治も嘆いていることだろう。戦後はモラルも文学も“退廃?”した。
 吉川文学に親しんだのは、はるか防大時代であったから、これを機に、改めて読み返してみようと思った。


 多摩川上流の岸辺に建つ「澤之井櫛かんざし美術館」も立派な設備であった。
 展示内容とは“全く縁がない”私だったが、世界的に有名な岡崎智予さんの40年かけて収集した4000点のうち、常時500点が展示された美術館で、江戸から昭和期にいたる「女性のヘアーファッション史」が凝縮している。
 私は、女性の「おしゃれ」の原点を見たような気がして、一見皆同じかと思われた「日本髪」にも、さまざまな工夫が凝らされていることを知った。澁谷や原宿で見かける現代の若い女性たちの、一見“奇妙な髪型”や色も、昔の女性が髪型に気を使ったことと同じ「おしゃれ」感覚なのだろう。

「技術の粋を集めたこれらの工芸品は、わが国の風土の美しさ、日本人の精神的豊かさと合わせて、先人たちの類まれな器用さを端的に示すものとして、瞠目に値します。この貴重な文化遺産を末永く伝え、一人でも多くの皆様に、日本の美を再認識していただければと願って当館は設立されました」と書かれていたが、銘酒「澤の井」の蔵元が所有する個人美術館である。お金の使い方はこうであって欲しいもの。
 多摩川上流の渓谷を見下ろす周辺の景色もさることながら、珍しい山野草が一面に植えられた手入れが行き届いた庭園も見事であった。上流の小河内ダムにかけての青梅街道には、ひなびた温泉宿や日帰り温泉施設もあり、紅葉のころにはにぎわうという。新緑の季節も空気は澄んでいて、秘境の姿が楽しめる。

多摩川の源流

原風景が残る「沢井」集落

 世の中、不況風や奇妙な風邪が蔓延しているが、ETC1000円!につられて高速道を走るだけでは味気ない。たまには日本の原風景に接することも良いのではないか。忘れていた何かを思い出す切っ掛けになるだろう。
 読者の皆様方は、大型連休をどうお過ごしだろうかか?是非英気を養って、豚インフルや不況などの息苦しいニュースを忘れて、この連休間だけでも元気を取り戻されんことを!