昨日は生憎の雨模様で、病み上がりの身には応えたが、月一度の約束である「防衛漫談」収録のため、チャンネル桜に出かけた。午後7時ころから収録が始まるので、自宅を5時半に出ると、夕食抜きになり、帰宅後深夜に食べることになる。そんな不規則な生活には現役時代、空幕勤務で慣れていたから何とも思っていなかったのだが、2度目の入院で、先生に厳しく指導され、極力リズムを崩さぬように心がけることにした。とにかく、空幕勤務は40歳代、今やあれから30年経ち老化現象は避けられない!と指導されたからである。
そういえば乗りこなした各種戦闘機なども、経年変化には勝てなかったことを思い出す。
昨日は早めに家を出て、澁谷でゆっくり夕食をとり、体調を整えて収録に臨んだが、なんと、軍事学の大家・松村劭先輩の訃報を知らされた。チャンネル桜の「討論・・・」で、よく同席したものだが、昨年12月5日放映の「討論・・・」では、私は先輩の後ろに何か「鬼気迫るもの」を感じていたし、年が明けて私が入院した5日に、自宅に「次期主力戦闘機」について意見が聞きたいとお電話を頂いた旨、家内から報告があった。
家内が私が入院したことを告げると、松村先輩は病名を聞き、出血性十二指腸潰瘍だと知ると「自分も十二指腸癌で余命数ヶ月と医者から宣告された身である」と告白したという。
私は一昨年の5月に、多量の下血をして8日間緊急入院した際、発見しにくい場所であったにもかかわらず、幸運にも医者が内視鏡で発見し、露出した血管が割れて血液が流れていることを突き止めてくれたから「軽症」で済んだのだが、先輩の場合は発見が遅れたのだという。
入院2日目の1月6日午後、「禁食・禁水」と赤文字で書かれた看板がかかったベッドをこっそり抜け出し、廊下の隅の公衆電話から山中湖の御自宅にかけると、かなり時間が経ってから奥様が電話口に出て「病院に行っていますから夜こちらからお電話します」といわれた。
午後8時に、点滴棒を引き摺りながら再びベッドを抜け出して電話すると先輩が出て、テレホンカード3枚分の会話をしたのだが、まずお見舞いの言葉の後、次期主力戦闘機についての私の意見を聞かれた。
専門的意見交換は実に楽しかったが、最後に体調回復に専念するように助言された後、「自分にはもう時間が無い。気にかかるのは残る家内のことだが、自分の著書の印税が少しでも家内に渡るように出版社に御願いし、一部快く変更手続きをしてもらったから思い残すことはない」といわれた。
私は「何を弱気な・・・」と先輩を諌めたが、「君にはまだまだやってもらいたいことがあるから無理しないで回復して欲しい。君の事は現役時代、朝日の記者との武勇伝は聞いていたものの、会ったのはチャンネル桜だった。
自衛官は、現役は別にしてもOBになっても口をつぐんでいる奴が多く物足りなかった。折角40年近くも“国費で”軍事を学んできた以上、それを国民に還元すべきだろう。その気概が仲間に感じられないのが実にさびしい。しかし、君と田母神君には期待している。私もこれまでの軍事研究の集大成ともいうべき書を書き上げ、軍人としての責任の一部を果たしたとほっとしている。出版されたら是非一冊君に手渡したいのだが、多分間に合わないだろう」と言われた。
話を聞きながら、顔を見れなかったのが残念だったが、私は自決直前の大西中将のことを思い出していた。お子さんがいなかった大西中将は、自決直前、一人この世に残す夫人にこう遺書を書いている。
松村先輩の覚悟を知った私は、何とか藁にもすがる気持ちで、家内に私たちの手作りの「秘薬酒」を届けるようメールしたのだが、その後家内に「貴重なものを・・・」と丁寧な御礼の電話があったと言う。
16日午後に退院した私は、先週「秘薬酒」が口にあったかどうか、よければ追加をお送りしたいと思い何度か電話したがご不在だったので、「百万年の仮寝の床」につかれたな?と感じ取っていた。
チャンネル桜のスタッフから「28日に亡くなられた」と聞いたが、予期していた私には「お見事!」の一語しか浮かばなかった。
今朝の産経15面に、「悔いなき最後迎えるために」「求められる『死の予習』」という題で、≪健康なうちに後悔しない生き方を模索する動きが広がっている≫とあった。
≪核家族化で死が縁遠いものになっているが、悔いのない一生を全うするため死を迎える「予習」が求められている。終末医療の専門家が「人生の最後は右肩下がりの緩やかな曲線を描かない」と指摘するように急に訪れる死≫とリードにある。
緩和医療医である大津秀一氏の「死ぬ時に後悔すること25」という著書には末期患者のさまざまな無念がつづられているそうだが、「▲生前の意志を示さなかった。▲他人に優しくしなかった。▲故郷に帰らなかった。▲会いたい人に会っておかなかった・・・と続き、愛する人に「ありがとう」と伝えなかったこと」と結ばれていると言うが、松村先輩はご夫人に伝えたに違いないと思っている。
ちなみに二週間、一日も欠かさず見舞いに来てくれた家内に対して私は、「この二週間、これから訪れる“未亡人体験”が出来てためになっただろう」と言ったのだが、鬼の居ぬ束の間の自由を味わった家内は「これでお金さえあったらネ〜」と口答えした。
入院当初に幻覚症状を初体験し、川が流れる世界と空腹による餓鬼道の世界を垣間見る羽目になったが、案外簡単に幽冥境を異にすることが出来るのではないかナ〜?と思うに至った。
現世と来世?に差はないように感じたのだが、いずれにせよ死は必ず訪れる。問題は、残った“肉体”の始末である。墓は立ててあるからいつでもOKだが・・・
いや、退院後は、毎朝目が覚めると「まだ生きていたのか」と少々残念に思うことが多くなった。現世の出来事がなんと薄っぺらでつまらないことが多いことか!
尊敬すべき先輩、友人たちが、どんどん向こうの世界に旅立っていき、会いたい方々はあの世のほうが確実に多くなったせいもあるからだろう。そろそろ私も「25項」も後悔しなくて済むように備える必要がある。
このブログも「軍事評論家」などという、この国では無縁な肩書きよりも、「来世評論家」とでも書き変えて、死ぬ時に後悔しなくて済むような評論でも書いていこうか知らん?と思うこのごろだが、現世にしがみついて生き恥をさらしている“幸せな”政治屋さんたちには無関係なことどもだろう・・・
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