2005年4月に訪中した町村外相(当時)の提起で始まった「日中歴史共同研究」は、歴史問題を学術的に双方が検討することがその主旨であったが、共通の認識なんぞハナから持てるはずはなかった。少なくとも中国側から一方的な「欺瞞資料」を突きつけられて、“専守防衛的に”その内容の正確度を云々するがごとき日本の“学術研究者”に論破する勇気と実力は期待できなかったが、案の定、紆余曲折を経て31日に公表された「報告書」は、学術研究とは程遠い、政治・外交文書に堕し、お人よしな日本側メンバーの妥協で、国辱的な“敗北”を喫したといっても過言ではなかろう。
せいぜい、中国側の強硬な要求事項に、弱弱しい抵抗を見せて「盧溝橋事件は日本軍の謀略だった」と云う断定を避けたり、「両論併記」の形で逃げた程度であるが、如何に日本人が外交交渉はもとより、国際学術会議が苦手であるかを示したものだといえる。その原因は、日本側研究者の研究不足に在ると私は見ているのだが、例えば大きな問題になっている「南京虐殺」について、日本側の研究者はどの程度調査して臨んだのか甚だ疑わしいからである。
日本側の座長を務めた北岡 伸一東大教授は、「1948年4月20日生まれ、日本の政治学者・歴史学者、東京大学大学院法学政治学研究科教授、元日本政府国連代表部大使。専門は、日本政治外交史」だとある。
活動暦を見ると≪東京大学法学部・同大学院法学政治学研究科博士課程修了。法学博士。立教大学法学部教授などを経て1997年から東京大学教授。1987年、『清沢洌』でサントリー学芸賞を受賞。
陸軍研究からスタートしたが、1980年代終わりから盛んに現代政治に関する論評を行う。日本がいかにすれば国際平和への積極的貢献や政権交代などが可能な「普通の国」になれるかを歴史的な視点から問う、過去のタブーや因習にとらわれないスタイルで知られる。2004年4月から2006年9月まで日本政府国連代表部次席大使としてニューヨークに赴任。
この他にも政府との関わり合いは強く、長期的な外交戦略検討のために設置された小泉純一郎首相の私的諮問機関「対外関係タスクフォース」委員(2001年9月-02年11月)、外務省改革の一環として、過去の外交政策の政策評価を行なうため設置された「外交政策評価パネル」座長(2002年8月-03年8月)、日本版NSC設置検討のために設置された「国家安全保障に関する官邸機能強化会議」委員(2006年11月-07年2月)、日本の集団的自衛権保持の可能性について考える安倍晋三首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」有識者委員(2007年4月-08年8月)、福田康夫首相の私的勉強会「外交政策勉強会」委員(2007年12月-08年9月)などを歴任した。
2009年現在は「日中歴史共同研究委員会」の日本側座長(2006年12月1日-)を務める。また、2008年5月に発足したアフリカ大陸の貧困撲滅・開発の目標を定めた国連ミレニアム開発目標への支援・支持を呼びかける特定非営利活動法人、ミレニアム・プロミス・ジャパンの会長を務めている≫とある。
外交活動に関与した経験が豊富だから座長に選出されたのだろうが、肝心要の日本の近代史については、どの程度理解していたのだろうか?と心配になる。
今朝の産経新聞によれば、中国側の度重なる圧力で日本側は「苦渋の譲歩」をした、とあるが冗談じゃない。歴史共同研究の場で、かっての敵国側の要求に「苦渋の選択で譲歩する」愚かな学術代表団がどこにあろうか?
少なくとも歴史の真実を求める作業、しかも敵と味方の関係で作業をする以上、見解が一致することなんぞ絶対にあり得ない。何故自ら「学術的見解を無視して」譲歩する必要があるのか?研究者たるの誇りと信念を放棄したものであり、外交交渉的手法に慣れ親しんだ弊害が出た、といわれてもしかたあるまい。
戦後、東京裁判の過程で唐突に出された「南京大虐殺」事案は中国側の対日工作であり、連合国側としても、ヒトラーのユダヤ人大虐殺、連合国側の大規模空襲による民間人“大虐殺(原爆投下を含む)”を相殺するのに好都合な案件だったから、ありもしない虚構をでっち上げただけに過ぎない。
もしも、30万人以上もの(ハイチ大地震の犠牲者を上回る)大虐殺が事実だったとしたら、それは国共内戦による国民党軍と共産軍の戦闘の狭間で犠牲になった中国人犠牲者数であろう。当時の中国軍の実態は、蒋介石率いる国民党軍も、毛沢東率いる共産軍も、米・英・日など列強の近代的「軍隊」の水準には到底及ばない軍閥、夜盗集団であった。むしろ近代軍であった日本軍は、戦場の後始末を実施して、これら犠牲者を丁重に埋葬した武士道精神溢れた「人道主義軍隊」であった。
今でも人民解放軍は「共産党の軍隊」なのであり、決して13億の中国人民を守る組織ではない事を想起すべきであろう。チベット騒乱、ウイグル騒乱での徹底した人民弾圧を見るがよい。あれじゃ30万人くらい虐殺するのは容易だろう。
にもかかわらず今の日本人の大半は「中国軍」と言う言葉に惑わされて、「旧日本軍」または「自衛隊」並みの国民のための組織であるかのように考えるところにそもそも間違いが生じるのである。
尤も、私が外務省に出向時代に外郭団体の研究所で「政治と軍事」に関する共同研究会の末席を汚していた時、「外務事務官」たる私が現役自衛官だと思わない一流大学教授たちの軍に関する認識は極めてお粗末で、まるで軍=殺人集団でもあるかのごとき思い込みに驚いたものであった。
「陸上自衛隊は旧陸軍と同様、今でも銃剣(シャモケンと発言していたが)格闘に明け暮れる野蛮な組織」と定義して発言する教授もいて、その時代錯誤に辟易したものだが、誰もそれに反論しなかったからメンバーのほとんどが、軍隊をその程度の認識で捉えていたことは間違いなかった。
たまたまその直後に、MIG-25の函館亡命事件が勃発したので、座長のS東大教授が私の解説を求めたことから私の身分がばれたのだが、その途端、教授たちはなんともバツが悪そうな表情をしたものであった。もちろん、その後何人かの教授たちは熱心な防衛論者に意識転換したようだったが・・・
そんな経験を持つ私だから、何と無くこの研究会の実態も透けて見えるのである。自分の国の軍隊の実情も知らない者が、「想像とデマ」程度の情報を基に討論することほどいかがわしいものはない。
国益を失うだろうことは当初から予想出来ていたことだが、政府も参加者の「苦渋の選択」「両論併記」の報告書が完成した事を持ってよしとする、というのであれば、やはりこの国の先行きは心細いこと限りない。
自国の名誉のために戦った先人たちを、自己の不勉強と、敵国からの圧力に耐えかねて「苦渋の譲歩」とやらでお茶を濁す学術研究者が跋扈するようでは、今年の8月15日には、英霊方から天罰が下ることだろうと思う。
南京事件については、多くの研究書があるからここには「南京事件」:国民党極秘文書から読み解く・・・という東中野修道氏の本の一部を提示するだけに留めるが、せめて後に掲げるものくらいはしっかり読んでおいて欲しいものである。
国民党の「中央宣伝部」は、支那事変が始まるや、外国記者団とのお茶会と記者会見を開始しているが、南京陥落前の12月1日から11ヶ月間に300回の記者会見を開いている。
上の写真は本書から転載したものだが、300回の記者会見・お茶会の中の重慶における一こまである。
国際宣伝処の記録には、≪通常及び臨時会議のほか、外国人記者は民衆文化団体、国民外交協会、反侵略分会、新聞同業者の集会などに参加するよう、毎週平均2回、外事課から外国人記者に通知し外国人記者を指導した。各集会の参加した外国人記者と、外国駐在高官の職員は、毎回平均35人であった。1938年1月から1941年4月までの前後28ヶ月間に、記者会見は合計250回開いた≫とある。
支那事変中にこれだけの外人記者との接触があったにもかかわらず、外国記者が絶好の「大事件」を報じた例はなく、また宣伝部も自分に好都合な絶好のネタを提供した事実がないことは、事実ではなかったことの証明だろう。
少なくとも大東亜戦争終結後の「裁判」で、突如「南京大虐殺」なる罪状が突きつけられたのはなぜか?という素朴な疑問を持ってさえいれば、共同研究会で「苦渋の譲歩」なんぞすることはなかったはずである。
素晴らしい経歴と肩書きを持つわが国の学問の道を進む方々の中にも「戦後特有の知的怠惰」現象が垣間見られたニュースであった。
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