軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

国家“無”戦略相?

 今朝の産経一面の「くにのあとさき」欄に、「自滅は御免こうむる」と湯浅博記者が書いている。仙石由人という日本の「国家戦略相」が、自国の今年度予算を「こんな予算、戦争末期並みだ」と反省し、「この国は続くのだろうか」とテレビ番組で発言したのだという。


 湯浅記者は、これを盧溝橋事件以降のわが国の国家戦略と比較し、「当時の日本は国力以上に戦線を拡大し、自滅の戦争にのめりこんでいった」と反省しているが、今も昔もこの国に「国家戦略」はないのである。

 かろうじて言えるのは、当時は「共産国ソ連」の南下を防ぐという防共意識は強かったが、だからこれを撃滅するというところまでの国力はなかった。そこで欧州に台頭したドイツ、イタリアと手を組み「三国防共協定」を結んだが、ドイツが「独ソ不可侵条約」を締結すると、時の平沼首相は「複雑怪奇」という言葉を残して総辞職した。弱肉強食、裏の裏を読む複雑怪奇な国際情勢は、日本人には理解不可能だった。

 それでも一部の外交官は、日独伊ソの4国で、米中に圧力をかけようと考え、これに乗った松岡外相が突如「日ソ不可侵条約」を締結、意気揚々と凱旋帰国した。

 昭和16年4月23日のことである。しかしこの頃時を同じくして「日米諒解案」なるものが進行していた。出迎えた大橋次官が「これは昨年の暮れから始まった話で、大臣もご存知のアメリカ側のカトリックのビショップとファザーの僧侶二名、それに郵政長官のウォーカー、日本側は井畔大佐や井川忠雄など主として両国の民間人によって密かに話し合いが進められていたのを、機が熟して両国政府で取り上げることになったものです」と伝えると「怪しからん!」と松岡はふいに唾を飛ばして我鳴り立てた。

「そういう重大な外交交渉を外交の責任者たる外務大臣を通さないでやるとは何事ですか、近衛も近衛ならそれに一も二も無く同意した軍部も軍部だ。軍部は日ごろの強がりをどうしたのか、僕はこの案には大いに不満であり、一体何のために苦労して三国同盟をつくったのか、何のために日ソ中立条約を締結したのか・・・・・・何とも愚かなバカバカしい話です。そんな弱腰で一体これからの日本が救えると思っとるのですか・・・・・・まあ見ていなさい。僕が今度はアメリカを滅茶苦茶にからかってやりますよ」

 松岡はこう言うと、近衛首相以下閣僚が待つ「首相官邸」での歓迎会をすっぽかし、あてつけがましく外務省の歓迎会に出席、早目に現われた外相を迎えて外務省の連中はワッと歓声をあげ、早速シャンパンやビールを抜いて乾杯、「松岡外相万歳!」「日ソ中立条約万歳!」である。松岡は先ほどからのムシャクシャした気分を幾分か直して、ひっきりなしに杯をあげてはガブガブ飲んだ。
 直ぐ目と鼻の先の首相官邸では首相以下閣僚一同は、仲仲外相がやって来ないのでアクビを噛みころしていた。並べてある料理は冷えてしまった。・・・・・・どうしたんだろう。
 やがて外相は今外相官邸で部下の省員達と水入らず乾杯をやって盛んにメートルをあげていることを知る。
「それは順序が間違っておる。こちらが先だ!」と平沼内相がぼやいたが、閣僚の誰も彼もが勿論、誰も彼を注意しようとはしない。陸海両相をも含めた一同は、松岡がつむじを曲げて横紙破りをやっていることを意識して何と無く不安げであったという。
「帰朝早々の松岡の神憑りぶりの要素は松岡自身の意識というよりは、松岡を迎えた日本の指導者階級の中に松岡ノイローゼ意識として存在したのであった。(「野村吉三郎」)」


 政権をとった民主党の内情もこれに良く似ている。みんな「おかしい・・・」と思いつつ“○○ノイローゼ意識”なのである。だから「国家戦略相」たる仙石大臣がTVでぼやくのである。


 そんな中、「新党立ち上げ」が始動した。ある政治評論家に言わせると与謝野氏の自民離党は「いち早く沈む船から脱出した」のだそうだが、もともと郵政民営化に反対して袂を分かった平沼氏とは信念が違うのだから、今回“身の危険を感じて脱出”した与謝野氏とは立場が違うはずである。
 2人に共通するのは「高校の同窓生」ということだけだろう。これでは2人が合体することの意味が良くわからない。国家存亡の危機は国民等しく痛感している。仙石大臣ならずとも、「この国は続くのか?」と不安に思っている。

 新党の政策面では経済成長・財政再建は勿論だが、もっとその根幹に横たわっている国民の不満・・・つまり敗戦意識からの解放こそ急務ではないのか? 自民党時代に、安倍氏が放り出したままの「戦後呪縛からの解放」である。
 党名に「日本」を使うという。ならば「日本再生」こそが「新党」のスローガンであるべきだろう。


 今の民主党政権では間違いなく自滅する。如何に湯浅記者が「御免こうむる」と叫んでも、容赦なく自滅の道に突き進んでいくだろう。仙石(戦国)国家“無”戦略大臣の名前どおりに!


 昭和16年、欧州戦争が始まり、シナ事変は泥沼化していた。起死回生の日米諒解案は、松岡外相の言葉通り滅茶苦茶になり、日米交渉は決裂して真珠湾攻撃になった。当初は意気軒昂だったが、やがて国力は底をつき、将兵は玉砕していき、惨めな敗戦を迎えた。

 血を吐く思いで戦後漸くこの国は復興したものの、今の政府は近衛時代同様、再びその惨禍を国民に味あわせようとしているように見える。今度こそ、平沼氏には祖父の「複雑怪奇」という言葉を吐いて欲しくはない。

 平沼氏は私と同じく昭和14年8月「ノモンハン事変当時」に生を受けた身、しっかりした基本路線を引いてあとは若手に継承する、その任務を着実に果たして欲しいと思うのだが・・・


 今も昔も人間の考えることに大きな変化はないということを、当時の朝日新聞縮刷版から掲示しておくのでご参考までに!





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