24日に八丈島近海で8人が乗ったまま消息を絶った佐賀県の漁船「第一幸福丸」が発見され、船内から3人が救出された。台風通過と重なる悪条件下であったが、海上保安官達の活動は賞賛されるべきであろう。
救出された3人はいずれも甲板員で、転覆した船室内に閉じ込められたまま救出を待っていたという。海保の捜索を信じていたのである。
たまたま船は完全に転覆し、しかも船底に損傷を受けていなかったから空気が保たれたのだろうが、それにしても大波に翻弄されながら、暗闇の中で救出を待っていた三人の精神力は大したものである。
遭難から4日、天井と床が逆転した、空気が残る船内の居住室で救援を待っていた三人は「食事はなく、水だけを飲んでいた。水も少ししかなかった」と話したそうだが、「暗闇の中、いつ救助の手が差し延べられるか分からない状態。そのままで息絶える不安と戦いながら、3人は耐え続けた」と産経は書いたが、並大抵の精神力では耐えられなかっただろう。救助された3人の年齢は、57、38、33歳だそうだが、たぶん、年長者が士気を鼓舞していたに違いない。生き抜く希望を捨てないように・・・
池田良穂・大阪府立大教授は「強い波でも船体が破損せず空気が抜けなかったことや、4日分の空気が持つ広い空間があったことなど、いくつかの幸運が重なって生存につながった。閉鎖空間で沈没や窒息の恐怖と闘いながら、救助を信じ続けた乗組員の精神力には頭が下がる」と話しているが同感である。
【産経新聞から】
明治43年4月15日午前9時30分、 母艦歴山丸を離れた国産第一号第六潜水艇は訓練中に事故を起こし浮上できなくなり、福井県出身の海軍大尉佐久間勉を艇長とする乗組員14名全員が殉職した。その際、乗員は持ち場を離れず死亡しており、持ち場以外にいた者も潜水艇の修繕にあたっていた。佐久間艇長自身はガスが充満し死期が迫る中、明治天皇に対する潜水艇の喪失と部下の死を謝罪し、次にこの事故が潜水艇発展の妨げにならないことを願い、事故原因の分析を記した後、次のような遺言を書いた。
【謹ンデ陛下ニ白ス。我部下ノ遺族ヲシテ窮スルモノ無カラシメ給ハラン事ヲ。我念頭ニ懸ルモノ之レアルノミ】
その後、「左ノ諸君ニ宜敷」と斎藤実海軍大臣ら当時の上級幹部・知人の名を記し、12時30分現在の自身の状態を記録、そして最後に「12時40分ナリ」と記して絶命した。享年30歳、克明に記された遺書は39ページにも及んでいた。
この事例、特に若き佐久間艇長の遺書は当時国内外で大きな反響を呼んだが、それは主に欧州などの“軍事先進国”では、同様の潜水艇事故の折、脱出しようとした乗員が出入り口に殺到して、最悪の場合互いに殺し合う等悲惨な事態が発生していたからでもあった。パニックである。
だからこそ佐久間及び乗員の姿は大きな感銘を与え、各国から多数の弔電が届いたのであったが、当時、日露戦争に勝利した頃の日本国にあっては何も特別な“偉業”でもなかったに違いない様に思われる。当時の日本人は「大人」であった! しかし、それが国内で長らく修身の教科書に「沈勇」と題し掲載されていた理由は、今回の事故と同様、「閉鎖空間で沈没や窒息の恐怖と闘い」という、常人が体験できないような環境であったからだろうと思う。
今日でも佐久間艇長の命日には、出身地である福井県で遺徳顕彰祭が行われ、海上自衛隊音楽隊による演奏の他、イギリス大使館付武官によるスピーチが行われているというが、その原点は「そこ」にあるような気がする。
佐久間記念館には「艇長の命を支えたであろう時計」が陳列されているという。「持ち主が死してもなお時を刻んでいたのであろう」とある先輩がつぶやいたが、佐久間艇長の崇高な最期が偲ばれる。
われわれ空自のパイロットも、夏・冬には「サバイバル訓練」が義務付けられている。佐久間艇長や今回の漁船事故ほどの緊迫度はないものの、洋上漂流や、傘体離脱訓練では、夏場とはいえかじかんだ指がいうことを聞かないことを体験する。水を含んだ飛行服が実に重く、泳ぐことなど不可能であることを知る。
冬場の山岳地帯での行動も同様、言うは易く行うは難いことを身を持って体得する。如何に事態に冷静に対処し、パニックにならないようにするか、そこを支配するのはいつに「精神力」であることも知る。
いずれにせよ救助されたのは8人中3人だけであったが、船名同様“幸運”だった。そして台風の影響下にもかかわらず「身をもって救助を続行した」海保隊員たちのご苦労に感謝したい。
ちなみに、自衛官は約24万人、警察官も約25万人、それに比べて海上保安官はわずか12300人に過ぎないことも書いておきたい。子供手当てよりも、海国日本の広大な海域を担当する海上保安官の増員こそ急務ではないのか?
ところで、韓国貨物船と「くらま」の衝突事故は次第に概要が判明してきた。調査結果を注目したいが、軍事軽視の現政権については、今朝の産経6面下に、カメラマンの宮嶋茂樹氏が“ずばり”自衛官たちの本音を衝いているので紹介しておくことにする。
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