軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

「テポドン如きでうろたえるな」        

≪態勢は敷かれていた≫
七月五日午前三時過ぎから夕方にかけて、北朝鮮日本海北部海域に向けてミサイル七発を発射したが、その兆候が明らかになって以来、日米両軍は厳戒態勢を敷いてきた。
七月一日付の産経新聞が、「テポドン発射を検証する記事」を掲げて、「米国に照準」した場合、「日本に着弾」した場合について書いているが、メディアも関心を持って北の動きを見守っていたのである。北朝鮮のミサイルは「液体燃料」を使用しているから、これをミサイル本体に注入した時点で発射は確実になる。万一中止する場合は、高価なミサイルを破棄する以外にない。だから、燃料注入が確認された時点で日米両軍は、秒読みに入ったと思われる。そのことが理解できない一部のマスコミは、いつものように「日本政府うろたえ大騒動」などと見出しに書いたが、それは自分たちがうろたえたに過ぎない。
確かに八年前にテポドン一号が三陸沖に着弾したときは、防衛庁はじめ政府関係機関はうろたえた。しかし今回はそうではなかった。厳戒態勢は敷かれていたのである。

≪孤立した北朝鮮
友邦である中国からも「自制」を求められていたにもかかわらず、あえて北朝鮮が無通告で実行した意図は何か? 金体制は米国から金融制裁を受けて身動きが取れない。拉致問題ではシナリオが見抜かれて韓国からさえも非難された。勿論日本からの反応も大きく、この芝居は彼らの予想を裏切る国際的な汚点になってしまった。全く打つ手を失った彼らに唯一残された手段は、「軍事力の行使」以外にはない。それが「怖いから」と言う理由で、日本政府要人たちは北とは及び腰の交渉を続けてきたのだろうが、一体彼らが頼りにしている「軍事力」をどこに向けて行使するというのだろうか?射程の範囲内で考えても目標はロシアではあるまい。撃てば自国が壊滅する。中国も生命線を握られつつも一応「友好国」だし、第一武力ではかなわない。韓国は攻撃するより脅かしたほうが得る物が多い。日本は反撃力もなく及び腰だから、韓国よりも脅かすには手ごろだが在日米軍が控えている。その米国に経済制裁を解いてほしいという時に、脅かしは効く?かもしれないが実力行使は論外である。せいぜいミサイルを近海に発射して、強気の姿勢を見せなければ、世界の笑いもの、国内の統制も取れない。振り上げた拳の落とし所が「日本海」だったのだろう。しかし、結果は最悪だった。中国からさえも「不快感」を示され、国連はじめサンクトペテルブルグ・サミットでも非難されてしまった。その上遅れて駆けつけた「親分」の胡錦濤主席が、「宿敵」ブッシュとにこやかに握手したのである。北朝鮮の読みは完全に外れた。世界から孤立したのである。

≪日本はこれからどうするのか?≫   
さて、今回のミサイル事案は、日米の強固な連係プレーが功を奏して、国連安保理の場でも一応の成功を収めたが、これで終わったわけではない。国民は、この種の「脅威」に対して有効な体制を敷いてほしいと願っている。ミサイル防衛はまだ先のこと、北が「日本を名指しで」脅迫してきたときに、わが国に取れる手段には一体何があるのか?国民はそれを知りたがっている。
そこで額賀防衛庁長官は「敵基地攻撃」を示唆する発言をしたが、防衛に責任を持つ担当者として当然の発言であり、それをいかにも過激だとして非難するマスコミのほうが無責任というものであろう。鳩山内閣時代の昭和三一年二月二九日、衆院内閣委員会で、時の船田防衛庁長官は「わが国に対して、急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしと言うのが憲法の趣旨とするところだと考えられない。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむをえない必要最小限度の措置をとることは、たとえば、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であると言うべきもの」と答えている。
しかし、その手段を全く整備してこなかったのが政府の怠慢であった。マスコミはそこを突くべきで、「先制攻撃」の言葉尻を捉えて非難するのは、言いがかりに過ぎない。
航空自衛隊の戦闘機部隊では、不十分な装備をものともせず、一朝有事の際には「お役に立つべく」密かな闘志を燃やしているという。その実力を一番知っているのが金正日で、知らないのが日本の政治家であるということがまさに皮肉である。


 上記は、某紙に依頼されて急遽書いたものである。ここ数日、原稿が溜まって身動き取れない?から、今日はこれで「ごまかす?」ことをお許しいただきたいと思う。
なお、明日はチャンネル桜で≪防衛漫談≫をする予定。

また、航空ファン誌の「世界の傑作機シリーズ・・・三菱F−1」に体験談を書いた。私の部下たちの詳細な体験談も掲載されているので、ご一読いただけると幸いである。