軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

現場は“公海”

 今朝の産経新聞は5面で中国軍関係者が「米空母を追跡した中国潜水艦の行動現場は“公海だ”」と説明したと報じた。
「沖縄近海を航行中の米空母『キティホーク』が中国の潜水艦に追跡された問題で、中国訪問中のラフェッド太平洋艦隊司令官は17日、中国軍当局者から潜水艦の活動は公海上であり、領海侵犯などには当たらないとの説明を受けたことを明らかにした」という。ワシントンタイムズ紙が伝えた「洋上での事態は、中国のソン級潜水艦が航行中の米空母を約8キロの魚雷射程圏内まで追跡するという行動に出たというもので、公海上かどうかは問題となっていなかった。このため、軍当局者の説明の真意や、報道のどの部分を不正確としているのかなど、中国側の意図は依然不明だ」と産経は報じている。
 産経は、中国のハン級原潜が、2004年に石垣島周辺のわが領海を侵犯した事件を念頭に活動海域の合法性を協調した可能性もあるようだ、と分析しているが、これを読んで私は、昨年11月に北京での「第2回・日中安保対話」の席上で、元海軍少将が、海南島沖で米海軍のEP−3偵察機と、中国海軍のF−8戦闘機が接触して、F−8は墜落、操縦士が死亡した事件があったが、このとき操縦困難に陥ったEP-3が緊急事態を宣言して海南島に着陸した事件を取り上げて、「米海軍機は、中国の領空・領土を侵犯した」と大げさに発言したことを思い出す。
 以前ブログにその詳細を書いたはずだが、私は彼に「何時どこでEP-3は貴国の領空を侵犯したか?。公海上を飛行していたEP-3に接近した貴国海軍のF−8が、操縦を誤って接触した事件だと私は認識している」と釘を指したところ、彼はあくまで「領空侵犯した!」と語気を強めて強調したから、「確かに接触後に緊急事態を宣言して貴国の領土に着陸したのは事実だが、接触地点はあくまで公海上であった筈だ」と反論した。
 そのやり取りをそばで聞いていた女性の研究員が、これまた語気を強めて私に向かって「EEZ内だ!」と叫んだから、私は彼女に「EEZは公海ではないか!」とすかさず反論した。司会者の会議進行上、討論はこれで終わったが、質疑応答の時に「領空、領海、公海、EEZの定義について、海軍の指揮を執っている将官が、混乱しているようでは、現場でスクランブルするパイロットたちも混乱しているに違いない。明確な指導をすべきである」と注意した。しかし、よく考えてみると、中国は東シナ海一帯を自国の「領海法」で領海だと定めているのである。その上空で発生した事件だから、居丈高に相手の非を強調するのであろう。
 ところが今回は、ワシントンタイムズがどう報じたかは知らないが、先手を打って「我に非はない」ことを宣伝しておきたかったに違いない。
 しかし、今回の事例も“公海”などの定義があやふやなため、軍当局者の説明は却って米国に不信感を与えただろうと思われる。
 つまり、勘ぐれば、産経が分析したように、国際非難を一身に集める結果になった前回に懲りて「今回の中国潜水艦の行動は“公海上”であり何ら問題にされる筋はない」と強調したかったのだろう。
 そうだとすれば、以前F−8とEP−3が接触した、自国のEEZ内の地点を“領空だ”と強調したことの反省かもしれない。中国海軍は、今まであやふやだった「公海、領海、EEZなどに関する観念」を統一しようとしているのだろうか?
 これらを一歩前進だと見るか、それとも米海軍の強烈なしっぺ返しを受けない前に、手をうっておこうという算段なのか、いずれにせよ、海洋国との忌憚の無い意見交換が必要だという点だけは明白になったといえよう。
 今回の事例について、「ファロン米太平洋軍司令官は14日、『中国の潜水艦が訓練水域の中にまで入っていれば、不測の事態にエスカレートすることもあった』と危険性を指摘していた」と産経は書いている。
 米ソ冷戦時代、このような危機一髪の事例は各方面で多発していたことを想起する必要がある。東アジア周辺での不測事態回避のための「信頼醸成措置」を速やかに構築すべきである。