軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

戦略的“誤解”関係?

 約10年ぶりとなった今回の胡中国主席の訪日は、当初から予想されていた通り際立った成果はなかったようだ。勿論、それは日本側にとっての話で、世界中から“顰蹙”を買っていて、孤立化しつつある中国政府にとってはそれなりの「聖火」ならぬ“成果”があったといえよう。
 8日の産経新聞は「日中首脳、互恵推進で一致」と一面トップに書いたが、日中安保対話で侃々諤々の討論を続けている我々から見れば、今回の首脳会談は、「戦略的互恵関係」ならぬ「戦略的“誤解”関係」で終わったと評したい。
 日中共同声明骨子(産経)を見ても、漠然たる双方の願望と希望?が混在していて、例えば「平和共存、世代友好、互恵協力、共同発展」の字句を見ても、日中双方が“勝手な夢”を描いているだけに過ぎない気がする。
 チベットウイグル等、少数民族自治権を圧殺している中国政府が考える「平和共存」と、全うな軍備もせず、国民が拉致されても奪還する気力もなく、輸入ギョーザで死にかけた国民が居ても真剣に原因追求しようともせず、“戦後60年間平和を推進した実績”を認められて喜んでいるような日本政府が考えている「平和共存」とが全く同一である筈がない。
「双方は歴史を直視し、未来に向かう」そうだが、例えば靖国参拝問題は、れっきとした日本人の「国内問題」であって、チベット問題に対して「内政干渉だ!」という以上、中国政府はこれに干渉してはならない筈だから、福田首相が8月15日まで健在だったら、是非靖国に参拝して、英霊に心からなる感謝の念を捧げるべきである。そのとき中国政府が「これは日本国の内政問題である」と声明し、中国国内の“反日勢力”を説得し、参拝に干渉しなかったら、今回の共同声明は本物だと信じる価値があるが、そうでない限り、同床異夢、自分勝手な共同声明だということになろう。東シナ海のガス田問題も、毒入りギョーザ事件も、何一つ国民が納得できなかった以上、今回の日中首脳会談は、それぞれが勝手にイメージした「戦略的“誤解”推進で一致」したに過ぎない。
 もともと気が優しくて紛争を嫌う善良な日本国民だから、中国政府としては、国内の少数民族よりも手玉に取りやすいのだろうが、今回の訪日で唯一“成果?”らしいものといえば、実にタイミングよく「死亡」した上野公園のパンダ・りんりんの穴埋めのための「貸与」だろうか?
 しかし、今まではパンダが「日中友好の象徴」だとか、「子供のために」などといっていた大人達だったが、今回、その裏に隠された“不気味な”仕掛けがあることを知って、大方の日本人は反発しているようだ。
 今朝の産経によると、胡錦濤主席がパンダ2頭の貸与を表明したことについて、「東京都に119件の意見が寄せられ、半数以上が受け入れに反対する内容だった」そうで、「上野動物園にも約70件の抗議が寄せられている」というが、「関係者によると、パンダは早ければ今週にも“来日”の運びとなるが、年間1億円といわれる高額な中国へのレンタル料、チベット問題や毒ギョーザ事件などでの不誠実な中国側の対応で、パンダにも逆風が吹いている恰好だ。日本にパンダがお目見えして36年。今度ばかりは、列島を挙げての大歓迎とはいかないようだ」と産経は書いたが、もともとパンダはチベットの生き物、死のうが生きていようが、中国政府にとっては何ら痛痒を感じない「シロモノ」だといってよかろう。
 有識者も「日本が恩義を感じる必要はない。中国は外交のうまい国だから、日本は用心しなければならない。リンリンの死んだタイミングが良すぎることが不可解だ(藤原正彦御茶ノ水大教授)」「動物園で一番の人気者がいなくなって寂しいと思っており、大賛成だったが、高いレンタル料を払ってまで借りる必要はないのでは(海老名香葉子・エッセイスト)」と慎重だが、中には「値段の問題ではなく、かわいいパンダが来るのだから目くじらを立てず、楽しめばいい。子供たちにとっても喜ばしいこと。友好の証しとして歴史に残ることも大切(ムツゴロウこと畑正憲・作家)」という意見もある。
 しかし、週刊文春(5月15日号)によれば、「友好」の美名に隠れたパンダの貸し出しの裏では「四川省などから視察名目で何十人という中国人が(日本に)やってくるのです。そのたびに、旅費から滞在費、更には国際フォーラムの開催費等、中国側の希望する費用を負担する必要がある」というし、パンダ一頭の一日の食費は1万5千円を越えるという。
 動物作家のムツゴロウさんが「目くじら立てず、楽しめばよい」と言うのは、テレビ局の“あご足つき”取材に狎れているからだろうが、税金垂れ流し状態の官公庁関係者ならいざ知らず、不明朗な年金問題や諸物価高騰で「一円」を捻出するのに苦労しているお年寄りにとっては、パンダ一頭にかかる諸経費を知って、その法外な高待遇に驚いたに違いない。
 今回の訪日を通じて感じるのは、孤立無援の中、せめて日本だけにでも「支持されたい」という胡錦濤主席の狙いだが、その裏には、彼を筆頭とする7500万人で構成される「共産党青年団派」と、江沢民前主席を中心にした「上海派」、それに中国共産党の高級幹部の子弟等で特権的地位にいる者たちで構成されている「太子党」の3派による権力争いが、相当深刻な状況にあるのでは?と思われることである。
「相手が嫌がることをも堂々と発言」するのが外交交渉であり、そうしてはじめて「相互理解が進むこと」を頭から否定する福田首相では、日中間での“真の互恵関係樹立”は難しかろう。今回のような短期的な「互恵関係」では、長期的に見れば結局は「“誤解”関係」で終わるような気がするし、相手に利用されるだけである。それも日本側が自分勝手に都合良く解釈した、一方的な「磯のあわび」の関係で・・・

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