軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

領土保全は防衛の第一歩

 昨日はCNNでパキスタンムシャラフ大統領の辞任会見を見ていた。1時間半に及ぶ長い会見で(途中寝てしまったが)苦渋の決断だったのだろう。
 外国メディアは特番を組んでいるのに、日本は五輪一色、見解の相違と関心の程度が良くわかる。最も、わがメディアは「地球の裏側だから・・・」と対岸の火事視しているのだろうが、インド洋では海自部隊が、クウェートでは空自輸送部隊が活動している「不安定の弧」の先端部分であり、その先には、アフガン、イラン、イラク、トルコ、アゼルバイジャン、そしてグルジアが続いている。パキスタンとインドに接して、中華人民共和国の「ウイグル自治区」があること、及びパキスタンもインドも「核保有国」、イランは準備中?であることを忘れているのではなかろうか?
 そんな「中心地」にあるパキスタンの離脱は、ブッシュが進めている今後のテロとの戦いに重大な影響を及ぼすこと必至であるが、ただでさえも不安定な「中東の火薬庫」は、引火爆発する危険性を秘めてきた。イランも「模擬衛星」を搭載した人工衛星発射実験に成功したし、欧米諸国は五輪どころの騒ぎではないだろう。
 ところで、会見中のムシャラフ氏の表情は暗かったが、提案した要求を全て否定された彼は、今後どこに住むのだろうか? 暗殺される危険性が高い以上、どこか安全な国に亡命するのだろうが、米国はどこまで責任を持つのか?大いに関心がある。

 他方グルジア問題だが、ロシアは「作戦を完了し撤退を開始した」とは言うものの、西側諸国は確認していないから、まだまだ交渉は難航するだろう。こんな時に決まって「国連」が関与しないことを、日本の「国連信奉主義者達」はどう思っているのだろうか?
 それにしてもグルジア警察が「ピケ」を張った阻止線を、ロシア軍の装甲車が強行突破するシーンは迫力があったが、欧米諸国に悪印象を与えたことは間違いない。ソ連時代もそうだったが、最前線には質の悪い兵士(囚人部隊や少数民族)を送り、凶暴な略奪行為をするロシア軍の伝統は受け継がれているらしく、グルジアの避難民はこぞって恐怖と敵意を持っている。こんな規律が低い軍隊を、命令どおりに動かす力がロシア政府にあるのかどうか見ものである。
 47歳の教師が、「ロシア人は敵だ。ロシア人は、グルジア人が親米だから滅ぼそうとしているのだろうが、強いグルジア人は絶対に屈しない」と産経の記者に語っているが、いくら口で叫んでも備えが無ければ滅ぼされるだけであることは歴史が証明している。

 メドベージェフ大統領は「ロシア国民を殺害して、罰せられずに逃げられるなどと考えるものは、決して許さない。再びこうした試みがなされたら、破壊的な応酬を受けるだろう」というメッセージを発したそうだが、流石に“強いロシア”を目指す大統領だけのことはあり「うらやましい」。
 日本で「日本国民を拉致し、領土を不法に占領して、罰せられずに逃げられるなどと考えるものは、決して許さない。再び日本国民に危害を加える試みがなされたら、破壊的な応酬を受けるだろう!」というメッセージを発した首相は独りもいないし、これからもいそうにない。バックになる「力」が無いからである。いや、かなり精強な組織があっても使い方も知らず、使う意思がないからであり、何かの一つ覚えのように「話し合いで解決できる」と無理に信じようとしているからである。勿論、本気で信じているとすれば私は異常だと思うのだが、そうしないとメディアや進歩的文化人に“嫌われる”と思っているからだろう。

 今朝の「正論」欄に平松茂雄氏が「防衛戦略を領域重視に転換を」として、防衛省の防衛計画の大綱見直しで、陸自部隊の改変が予定されていることに鑑み、「陸上自衛隊が戦車や装甲車で国土を防衛するような事態があってはならない防衛体制を整えることだ」として、「本土決戦思想」を改め、「日本の海」を守る基本に戻るべきと提案している。
 大東亜戦争の敗因は、大まかに言えば「航空戦力」と「海軍戦力」の喪失により、制空、制海権を失ったからであり、その結果沖縄はじめ島嶼防衛の任についていた陸軍は玉砕を強いられた、といっても過言ではない。
「日本防衛の基本は『日本の海』を守ることにあり、それには海域を守るだけでなく、その上空、何よりも世界第6位の海域の根拠となる島嶼、簡単に言えば離れ島の防衛である」
陸上部隊の数を大幅に減らし、北海道中心の部隊配置を改めて、陸上部隊を離島に配備するとともに、小規模でも海上・航空の部隊と統合作戦出来る機動力のある部隊を編成する必要がある。何よりも隣国に気兼ねすることなく、周辺海域とその上空を防衛する海上戦力と防空戦力の思い切った拡充を断行する決断が日本政府の喫緊の課題である。敵が上陸してきた時では遅いのだ」と平松氏は力説した。

 グルジアは陸続きだったから、ロシア軍の戦車が侵攻してきてグルジア国土を蹂躙した。島国・日本の場合は、国内に潜伏する「外国勢力」の一斉蜂起や、それに賛同する親○○派などは、警察と陸軍部隊の対象であろうが、国土を侵略してくる戦力は、平松氏が言うとおり、空軍力と海軍力であろう。台湾防衛に関して台湾高官と侃々諤々の討論を重ねたのもそこにあった。
 沖縄勤務時代、各種の図上演習や実動演習を実施したが、「沖縄本島を除いて、それらの島嶼自衛隊の実働部隊は駐屯していない(平松氏)」ので、戦力運用に苦労したものだが、島嶼防衛上戦力を発揮すべき空軍・海軍力の基盤の防衛には、やはり陸軍は必要である。
 平松氏は「陸上部隊の数を大幅に減らして」と書いたがそれは無用で、むしろ空自と海自の戦力を増強すべきである。現役、予備役を含めた総兵力と総人口の比率は、ロシアが14・8%、韓国が10・6%、中国、インドが0・2%、米国は0・8%だが、我が国は”中国並み”の0・2%にも満たない人的戦力である。平和国家日本では「軍拡」が不可能であるというのならば、少なくとも、陸自部隊を削減した分を海・空自に転用する、つまり、その昔陸自のナイキ部隊が空自に編成替えになったように、茶色の制服を「黒か空色に」着替えるほうが良い。ただでさえ、24万の制服組だけでこの国を守ることは困難なのだから・・・。防衛大綱見直しに当たって、新進気鋭の新防衛大臣には、領土保全は防衛の第一歩であるという認識を持って欲しいものである。

大東亜戦争の総括

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第二次世界大戦全作戦図と戦況 (1975年)

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軍事学入門

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航空自衛隊の戦力 (学研M文庫)

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