軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

国連、海賊制圧許可!

 16日、国連安保理事会は、ソマリア沖での海賊行為を制圧するため、ソマリア国内での追跡などを含む、陸上での軍事作戦を可能にする決議案を全会一致で可決した。
 決議は「ソマリア国内で必要とされるあらゆる措置をとることが出来る」とされていて韓国や欧米など6カ国が共同提出したものだが、日本は「何が出来るか検討中」だという。
 韓国は、4000トンクラスの駆逐艦を派遣する予定だったが、現在延期になっている。その代わりといってはなんだが、中国が艦艇を派遣することを検討中だという。

ソマリア沖海賊退治】

ソマリアへ向かうNATO艦隊】

「中国の船舶、乗組員に対する海賊の襲撃が拡大している」と云うのがその理由だそうだが、海軍にとってはまたとない「外洋作戦」の実験でもある。

 産経(6面)によると「今年6隻の中国関連船舶がソマリア沖で海賊に襲撃され、今も1隻、17人の中国人が釈放されていない」。中国の研究員は「責任大国として正常な行動だ」と述べ、テレビの論説委員も「中国の世界に対する義務」だと主張しているという。

 中国誌「環球時報」は、「軍事力で自国の会場利益を守り、同海域での海上航行とシーレーンを守れる意思と能力を示す」と意義を強調しているようだが、これは明らかに中国海軍の制海権獲得のための実験行為であろう。中国のシーレーンは、勿論わが国のシーレーンと一致しているから、間接的に護衛してくれる?ということか。

【中国のシーレーン(中国誌より)】


 他方わが国は、海賊に襲われた船舶を保護、護衛しようという動きは見られないばかりか、テロリスト達の行動監視を含む哨戒のためのP−3C派遣についても棚上げのままである。業を煮やした?欧州は独自に哨戒機派遣を進めている。
 そんな中、イラクから空自の輸送部隊が撤収した。5年間にわたる戦地での活動を終えて帰国する部隊には心からご苦労様といいたいが、米空軍のポール副司令官が「自衛隊の活動がイラクの治安安定に貢献した」とするペトレイアス中央軍司令官の言葉を引用して謝辞を述べたという。

【空自撤退(産経)】


 こうなると、現地で活動しているのは海自の給油部隊だけということになるが、韓国、中国艦艇がこの海域に出動した場合には、彼らにも給油することになるのだろうか?共通のシーレーンを守ってくれる国に対しては、油ぐらい供給しなければなるまい?!
 今後、欧米や湾岸諸国に対するアジアの3国間の“存在感”が大きく変わるような気がしてならない。
 とまれ、イラク撤収の空自部隊は、整斉と任務を終了して帰国する。この行為こそ「シビリアン・コントロール」が健全に作用していることを示す、厳然たる事実だと思うのだが、どうも国会議員の方々の認識は異なっているようで、先日も統幕学校を大挙して“視察?”した先生方がいたらしく、「思想統制も甚だしい!」と数人から怒りの電話があった。私は地上波TVをあまり見ていないので事実関係は知らないが、社会党の村山首相が最高指揮官だったときも自衛隊は「平然と」その指揮を受けたのだから、もっと議員諸侯には現実を見て欲しいものである。
 それとも「制服」が怖く、そんなに「コントロール」に自信がないのだろうか?


 ところで今日の産経【紙面批評】欄に、木村洋二・関西大教授が「田母神論文 メディアは多角的議論を」と題して次のように書いている。
「常識の欠落といえば、一番大切な常識を欠いているのは、日本のメディアではないだろうか。何しろ、この国は良い国だ、誇りをもって守りにつこう、と主張した『航空幕僚長』、他国なら『空軍司令官』に相当する人物が解任されても、平気というより当然という顔をしている。これは世界から見ると、非常識である。国会も、意見を表明してはならない場になった。
 内容の紹介を含めて、いろいろな角度からこの問題を論じたのは産経のみである。特に、11月11日の紙面には、問題の『懸賞論文』(田母神俊雄『日本は侵略国家であったのか』)の全文が『意見広告』として掲載された。
 空軍の司令官が、300万円の懸賞金つきの論文に応募する、というのは少し常識が欠如している様に思うが、しかし、この全紙大の『広告』によって、国会も封印しようとした『意見』が国民の目に触れた意義は大きい。言論の自由と広告の機能を考えさせる大きな決断である」
「空軍司令官」とか、「300万円の懸賞金つき論文に応募」という箇所はご愛嬌で、田母神氏は当初から賞金を受領する気はなかったろう。事実表彰式では賞状と盾は受領したものの賞金は辞退している。
 正論大賞の副賞金が100万円だからというわけでもなかろうが、金の話になると目をむく方々が多いが、そんな次元の問題ではない。
 問題は、木村教授が指摘したように「この国は良い国だ」と言った空幕長が、理由もなく解任された点にある。仮に『侵略国』だとして『謝罪』した過去の村山談話に抵触するというのであれば、防衛大臣と最高指揮官である首相が十分意見を交わして意図を確認すべきであったろう。その点でむしろ私としては上司の方の『シビリアン・コントロール』に対する認識が不足していたように思う。


 2008年も残すところあと2週間をきった。年内も何が起きるかまだまだ予断を許さないが、来年はどうなることか?
 急激に変化する世界情勢と、各地で頻発する『騒乱』からは目が逸らせない。人類の「憤懣」は、異常なほど高まっているように感じられる。
 わが国内でも、解雇、解雇と不況風が凄まじい?が、年末にかけて、職を失った自国民や外国の臨時雇用労働者?を抱えているから、他人事ではないような気がするが・・・
 この不況報道に関しても、木村教授が言うようにメディアは常識を持って、国や企業が悪者であるかのように“煽る報道”は自重してほしいものである。

“劇場政治”の因果―戦争を禁止された“国家”の悲劇

“劇場政治”の因果―戦争を禁止された“国家”の悲劇

日本には日本の生き方がある―歴史にまなぶ

日本には日本の生き方がある―歴史にまなぶ

自らの身は顧みず

自らの身は顧みず

正論 2009年 01月号 [雑誌]

正論 2009年 01月号 [雑誌]

国際軍事関係論―戦闘機パイロットの見つづけた日本の安全

国際軍事関係論―戦闘機パイロットの見つづけた日本の安全