20日は午後いっぱい、史料調査会で勉強してきた。70人を超える方々で会場は満席、椅子が足りなくなるハプニング。講師は元海自の専門家・川村純彦氏で、演題は「ソマリア沖の海賊対策」だったからだろう。
アデン湾及びソマリア周辺海域における海賊発生状況は、2004年に10件だったのに2008年は111件に急増している。乗っ取られた船舶は42隻、人質は815人、2月10日現在7隻・120人以上が拘束されているという。
海賊の行動も多種多様で、武装も相当なものだから、なかなか対応が難しい。
国連の人道支援物資を横取りされ、効果が上がらないので、ついに国連が陸上作戦を含む討伐に乗り出したが、アフガン同様“泥沼”になりたくないから、各国とも敬遠し、どこの国も陸上作戦は展開しない。
米国でさえも「遠慮」するのは、映画『ブラックホーク・ダウン』を見れば良く分かる。あれが戦場の実相の一部である。日本の政治家には想像できまい。戦場の実相は、“漫画”じゃないのである!
ソマリアという国家が空中分解しているから統制できないのであって、問題は、奪われた高額の身代金のかなりの部分が国際テログループに流れている?という情報があることである。
米海軍は、とても各個に護衛できないから、図のようなコリドーを設けて「この水路を通過してほしい」と言っているのだが、各国はそういうわけにも行かない点もあるらしく効果を発揮していない。その上「聯合作戦」の弱点とも言うべき、各国海軍の共同作戦が困難なことも背景にある。そこで各国バラバラで自国船舶の護衛をやれば、とても手が回らないばかりか、海賊にとっても願ったり適ったりだろう。
英国海軍を中心とした「EU艦隊」と、米海軍を中心にした「有志聯合」、それにロシア、中国、イランなどの「その他」の海軍がバラバラに活動するのでは効果が上がるまい。
かといって「国家機密の最たる通信系統」を統合するわけにもいくまい。そんな中、我が海自部隊は、どこに参加するのだろうか?米海軍の指揮下に入って「有志聯合」の一部を形成するのが本筋だが、何しろ「集団的自衛権」は認められていないから、日本独自で「護衛」するのだろうか?
しかし、今や日本船舶のほとんどは、外国籍、そこで「日本関連船舶」という名称になるのだが、いちいちどうして確認するのだろう?現場に「急行」させられた海自隊員は苦労するに違いない。
この海域の作戦行動は、1、兵力不足。2、海賊の識別不可能。3、作戦調整機能が不備。4、情報共有の不備、で相当困難が予想されると川村氏は指摘する。
「作戦調整機能が不備」であるということは、前記に示した3分割?状態の海軍組織を見ると良く理解できる。1、EU専従艦隊。2、米国専従艦隊。3、上海協力機構専従艦隊!だからである。さて日本はどこに入る?
ところで、21日の産経によると、わが国の海賊退治は、インド洋補給艦を活用するという。
「政府内では当初、護衛艦と共に補給艦を日本から派遣することも検討したが、『インド洋の1隻を含め補給艦は5隻しかなく、派遣の余裕はない』〔海自幹部〕として見送られた経緯がある」というのだが、打ち出の小槌じゃあるまいし、無理を現場に押し付けるのはいただけない。
シビリアン・コントロールを標榜する政治家たちが、自国の『戦力』を承知していない証拠だろうが、講演会でも、川村氏の「1、P-3Cの派遣を急げ。2、作戦は長期化する。3、効率化、情報能力の向上が急務」とする結論に対して、現役陸上自衛官が真剣な質問をしていた。
つまり、海賊退治に派遣される予定の海自特殊部隊は限られているから、作戦が長期化する場合、陸上自衛隊の特殊部隊派遣も考えられるか?というのである。
政府は『統合』部隊派遣を検討中だというから、当然3自衛隊共同で対処することになる。ところが、小泉政権時代、防衛力整備も「聖域ではない」との鶴の一声で、当時の大蔵省片山さつき主計官に防衛力整備費用を大幅削減されたツケが今頃効いてきていて、3自衛隊ともやりくりに窮しているのである。
作戦が長期化すれば、護衛艦のみならず、隊員のローテーションもままならない。海上保安官だって、実質12000人しかいないのだから、交代は容易じゃないだろう。そんな現場の苦労を理解しようともしない「シビリアン」たちには「情けなさを通り越して笑うしかない!」
海賊退治にかかりきっている間に、わが国周辺で「周辺事態」が起きたらどうするのか?について片山議員にご解説いただきたいものである。
これを『シビリアン・コントロール』ならぬ、『シビル・アンコントロール』というのである。世界から笑われないようにしてほしいものである。
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