軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

断固たる「制裁」とは?

 北朝鮮が2回目の核実験?を実施したという。前回のミサイル発射事案で、国連議長から「怒られた」から駄々っ子がついに花火に手を出した、と言う図式だが、6者協議も鼻から「コケ」にしているのだから、今日あることは分かっていた。


 今朝の産経「主張」は、「断固たる制裁発動せよ」と意気盛んだが、さて「国際社会の総意をまとめて速やかに厳しい制裁を発動すべき」というが「制裁」の中身にはどんなものがあるのか?

 早い話、政権末期のブッシュ大統領は、ついに口先だけで「強硬な手段」をとらなかったばかりか、テロ指定解除までして「ご機嫌」」を取った。オバマ大統領は「核なき世界」と打ち上げた平和主義者?、金正日はその鼻先でミサイルを発射して見せたが、6者協議の米代表、ボワーズ特使は北に圧力をかける気がまったくないと公言している。いくら口先で「非難」しても、アノ国は「先軍政治」の国、頼りにしているのは軍事力以外になく、だからこそ怖いのも軍事力による報復以外にない特殊な国である。

 そんな国に対して「行動を改めさせるには、明確で断乎とした制裁措置の実行が不可欠」だとし、「金融制裁とテロ支援国家指定の再発動を真剣に検討すべき」であり、「中露は世界の平和と安全を担う重大な責任を自覚し、義務を果たすよう求めたい」といっても、中露両国に「世界の平和と安定を担っている」という責任の自覚があるとは到底思えない。

 グルジアに侵攻したロシア、第三世界に武器を援助し続けている中国、しかも自分自身は世界の覇権を狙って軍事力増強に励んでいる、そんな国に「世界の平和と安全」を確保する意図があると考えるほうがどうかしている。


 そんなことよりも、北朝鮮に一番身近で、安全を脅かされている日本と韓国が、それ相応の備えをしない限り、世界中から小ばかにされるだけである。しかも両国は「自国民を人質に取られて既に30数年」口先でいくら叫んでも、北方領土は返ってこないし、竹島も返ってはこないではないか。まだ分かっていない!

 他国に(世界に)断乎たる制裁を要求する前に、自分は何をするかはっきり言うべきだろう。
 最も「主張」は最後に「日本の防衛力」や、「日米同盟」のあり方、「そうした外交的対応と同時に、防衛・安全保障のあり方の検討も怠ってはならない」と結んだから、言わんとするところは理解できるが、一自衛官OBとして、いつもの「あり方検討」という言葉には「笑うほかない」。
 この言葉は、安全保障、防衛、憲法問題が騒がしくなるたびに、いつも使われてきた「結びの言葉」でしかなかった。検討のために「有識者懇談会」が設置され、政府はそれの「答申書」をメディアの前で仰々しく「受け取る仕草」を示して“一件落着”、これが過去の「あり方検討」の実態ではなかったか?


 平成2年だったと思うが、北朝鮮がノドンミサイルを改良して配備したニュースが一部に流れた時、九州地区で「防衛講話」をした私は「やがて日本列島全部がこの射程圏に入る。今のところ九州の南は圏外だから、家を建てる方は、福岡ではなく、五家荘付近に建てたほうが良い」といって笑いを誘ったものである。
 平成4年になると「五家荘では駄目、千葉県に移住したが良い」などといっていたものだが、今やどこにも候補地はなくなって久しい!
 あれから既に20年近く、政府は全く手を打つことなく「放置(法治)国家」らしく振舞っていたし、官僚はノーパンしゃぶしゃぶ、国民もバブルに浮かれていた。
 そればかりか、そんな危険が迫っているにもかかわらず、政府は自らの防衛力“削減”に奇妙に熱心だったから、われわれは永田町には既に「敵の手が回っているのではないか?」と疑心暗鬼になったものである。

 例えば防衛力整備の基本となる「防衛大綱」の一覧表を見てみると、76年の大綱では18万人だった陸自定員は、95年には16万人、04年では実に15・5万人に削減され、まだまだ削減は続いている。
 陸自戦車も同様に、1200両→900両→600両と半減し、海自艦艇も60隻→50隻→47隻と削減、ソマリアに派遣されるPー3Cなど海自作戦機も、220機→170機→150機になった。
 空自戦闘機も同様で、350機→300機→260機となり、今や台湾や中国の第4世代戦闘機の330機(平成19年度防衛白書)を大きく下回っている。この事実を見るだけで、いかにわが国政府が、自己防衛、安全保障確立に疎かったかが歴然としているだろう。
 国民的人気が高かった小泉首相でさえも、予算編成に当たって「防衛費も聖域ではない」と明言し、それを受けた大蔵省の女性主計官が大鉈を揮った結果である。しかも予算は一方的に削減されたが、任務は海賊退治も含めて膨らむばかり、今度はまた「策源地攻撃」で無理な任務が賦与されるのではないか?
 その昔、「周辺諸国に脅威を与えない」ため足が短い航空機を整備したばかりか、ファントム導入に当たっては、もともと付いていた空中給油装置と爆撃コンピューターを、お金をかけて取り外した。これらは「利敵行為」以外の何物でもなかったが、制服高官までもそれに抵抗することはなかった。そして今やこの“ざま”である。

 軍事力整備は国家百年の計、うろちょろと時の勢いで交代する政権に左右されるべきものではなかろう。国民の生命財産を守る、と言うのであれば、口先だけでなく実行で示すべきだが、それを放置してきた歴代政府の責任は極めて重大である。


 7面の「正論」欄に、西尾幹二氏が「敵基地調査が必要ではないか」と題して国家防衛の基本を説く論文を書いているが、全く同感!しかし遅きに失した感がある。
 日本政府は、今まで身勝手に「鯨尺」で世界を見て来ていた。世界には通用しないのに、無理にそれを適用としてきた付けが回ってきたのである。西尾氏は「核の再被爆国になっても、何で早く手を打たなかったのかと、他の国の人々は日本の怠惰を哀れむだけだ」と書いたが、「二度と過ちは繰り返しません」などと、犠牲者の気持ちを一方的に解釈した自己欺瞞を平気で続け、いかにも良いことをしたかのような錯覚に陥っている国柄だから、それは当然の報いである。戦場でもそうだったが、被爆した犠牲者の多くが「仇を取ってくれ!」と思っていたかもしれないのに。
拉致被害者経済制裁の手段では取り戻せない、とわかったとき、経済制裁から武力制裁に切り替えるのが他のあらゆる国が普通に考えることである。武力制裁に切り替えないで、経済制裁をただ漫然と続けることは、途轍もなく危ういことなのである」と西尾氏は書いたが、政府は理解できるであろうか?
 アノ国に効果がある「制裁」とはこのことであることを自覚して欲しいと思う。


 さて、今回もまた、出鼻をくじかれたオバマ大統領はどう出るか? キューバ危機のときのような同じ民主党ケネディの勇断が実行できるか否か? 北朝鮮の内部抗争に期待するだけでは、制裁とは言わない。

 アジアの大国を自負してきた中国も今回は間違いなくコケにされた。メンツ丸つぶれの北京政府はどう出るか?日本に接近しつつあるロシアは何を考えているか?

 一番だらしないのが残念ながらわが日本だが、これでもまだ目を覚まさなければ、2020年にはアジアの孤児に落ちぶれているだろう。

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