北朝鮮の末期現象 - 軍事評論家=佐藤守のブログ日記

　17日午後、中国東北部遼寧省撫順市に、北朝鮮のＭＩＧ21戦闘機が墜落した。
　大紀元時報によると「墜落機は旧ソ連が開発したミグ２１で、炎上していないことから燃料切れが墜落の原因だと専門家は指摘している。
　韓国の聯合ニュースは１８日、戦闘機は、北朝鮮を脱出しロシアへ向かう途中、誤って中国へ入ったとの情報筋の見方を伝えている。しかし、ロシアも中国も北朝鮮の友好国で、脱北ならばまっすぐに韓国を目指すほうが自然であることから、訓練中に誤って中国に入り、燃料切れで墜落した可能性も指摘されている。

　事故現場は北朝鮮の国境都市、空軍拠点のある新義州まで約２００キロの地点で、戦闘機なら１０分余の距離。聯合ニュースによると、北朝鮮戦闘機は近ごろ短距離訓練を中心に行っており、燃料不足のため、燃料を３分の２ほど入れ、約３０分飛べる状態で訓練を行うのが慣例だという。
　なお、中国のインターネットでは、国籍不明機を国境から約１６０キロも侵入させたことに対し、政府の防衛力の乏しさへの批判も飛び交っている」
　

　天安撃沈事件で緊張している韓国に「侵入」を図れば、撃墜されるだろうと考えるのが常識。天安事件で暴露された韓国海軍の緊張感の緩みは、高級幹部更迭となって処理された。

　そんな韓国に侵入すれば、今度は間違いなく撃墜される。

　それよりも警戒がゆるく、士気が弛緩しているロシア、中国東北部（旧満州）のほうが遥かに安全である。
　そんな計画で脱出したとしたら、いよいよ北朝鮮国内では、金正日の統制が末期的な状況に入りつつある証拠だろう。
　国境を警備する兵士も、警官も、生きるのに懸命で、取り締まりを見逃す見返りに金品を巻き上げるのが仕事になっていて、制服を着たごろつきといわれている。ちょうど昔のソ連の官憲に似ている。

　昭和52年春、ジュネーブの軍縮委員会からの帰途、モスクワに立ち寄った私は、交通取り締まりに当たる警官の異常な多さに驚いたものだが、彼らは現金を持っているタクシーを止めては、違反･検挙をちらつかせて運転手から現金を召し上げていた。たまたまその現場を目撃した私は、この国は長くはないと感じたものである。
　北朝鮮もそうなっているようだが直接的なダメージは、デノミネーションの大失敗にあり、モラルの退廃、官憲に対する人民の抵抗現象は、国家崩壊に直接結びつく危険要素である。
　今回の事件はＭＩＧ21を用いた「脱北」だと思われるが、空軍パイロットが亡命するようになってはこの国も先が短いというべきだろう。
　インターネット上では、二人が乗っていて1名は助かっているというが、やがて真相は明らかになるだろう。

この事件から浮かんだ雑感を列記しておきたい。

１、北朝鮮空軍の錬度は、燃料制限できわめて低いが、その原因は、かってのソ連空軍のように、亡命防止策として燃料補給が制限され、限られた科目の訓練しか行っていないことによる。今回、そのことが裏付けられたといえる。
２、今回の乗員の肩書と階級が気にかかる。高官が含まれているのでは？単なる航法ミスではなく、意図的な「亡命」だと思われるが、中国に亡命しても送還されるから、ロシアを目指したのであろう。
　そうだとすると、1971年9月８日の、中国共産党副主席林彪がクーデターに失敗して、13日にソ連に亡命を企てたが失敗、モンゴルに墜落死した事件に酷似している。金正日体制の内部で何かが起きているのかもしれない。
３、この事件に伴って、北朝鮮国内は益々監視体制が高まり、圧制が強化されるだろうから、何が起きるか予断を許さない。日本でも暴発に備えた態勢を準備しておく必要がある。
４、中国空軍の「防空体制」に大穴があることも判明した。およそ想像されていたことだが、それにしてもお粗末である。その点では中国国内に問題が波及し、軍と党（政府）間に軋轢が生じ、不安定になることが予想される。
５、人民解放軍は、名誉挽回？のために、どんな行動をとるか判らないから、これにも備えておく必要があろう。ただでさえも軍高官の強硬な姿勢が目立っているときである。油断できない。
６、軍事的恫喝を繰り返す北と中国が“張子”だったのは興味深いが、我が自衛隊は粛々と備えておいてほしい。たまたまこの夏は、わが自衛隊でも高級幹部の人事異動期である。
　空自の昇任人事は少なかったから、浮ついてはいないだろうが、万一侵入機を見失って、ＭＩＧ25事件の二の舞になってはならない。
７、治にいて乱を忘れず、永田町のバカ騒ぎにつられることなく、粛々と防衛体制を固めていてほしい。