12日づけの産経新聞に、阿比留論説委員兼編集委員の次のような記事が出た。
『君たち、中国に勝てるのか 自衛隊最高幹部が語る日米同盟v中国』(産経新聞出版)の読後感を整理したものなのだろう。
『君たち、中国に勝てるのか 自衛隊最高幹部が語る日米同盟v中国』と、安倍総理が発言した言葉を表題にした、いわば産経新聞出版の新刊書籍の紹介文といえるが、共著者たちである自衛隊高官たちの感想?になんとなく違和感があって、理解に苦しんだ。
尤も本を読んでいないのだから、話にならない(近く購入予定)のだが、今朝の「宮崎正弘の国際情勢解題」の書評欄に出ていたので、それを読んでなんとなく出席者の発言などが想像できた。書評にはこうある。
【軍事評論家が多数出席のテレビ番組に呼ばれ、数年以上は前の話だが、三時間の収録を終えて二次会に移る前に故西部邁氏が自衛官OB諸氏を前に言い放った。
「きょうは何時クーデターをやるかというはなしを期待していた」
そのあと新宿の酒席に場を移し、評者(宮崎)が西部氏に言ったことは、「三島由紀夫さんが生きていたら今日のような座談の場には耐えられず途中退席だったでしょう」。
国防の使命とは国土と国民の生命と財産を守ることであるが、魂を守る,文化を守るという武士道的な規則は掲げられていない。三島の檄文は「魂は死んでも良いのか」だった。
安倍首相は筆者らに問うたという。
「君たち、中国に勝てるのか?」「自衛隊員は何人死ぬのか」
(中略)
さて本書を読んでさすがに防衛のエキスパートの議論だけに、日本防衛の問題点、その脆弱性が精密に把握できる。近代的合理主義に立脚した,緻密な防衛議論だが、読後の感想はと言えば「菊花の香りがしない」である。
さはさりながら現代日本防衛の問題点とは、法律の未整備、省庁間の統合のなさ、最高司令官と自衛隊との倒幕的ネットワークが不在。
そのうえ戦術的なことを言えば武器弾薬不足、国内の中国の代理人への対策が不在、戦争準備段階で、まず行うべきことは「国内の敵」の排除ではないのか。
法律などあとから変えれば良いのであって緊急事態には超法規的な措置を執る必要があり、またそのため訓練が欠かせない。】
‟老兵”は、保守派のシンボル的に評されている安倍元総理の本音は、そこにあったのか!と納得がいった気がした。
旧帝国陸軍のバイブル的存在である「統帥綱領」第一章「将帥」の頭書には「古来軍の勝敗はその軍隊よりも、むしろ将帥に負うところ大なり」とあり、「勝敗は、将帥が勝利を信ずるに始まり、敗戦は、将帥が戦敗を自認するによりて生ず。故に、戦いに最後の判決を与うるものは、実に将帥なり」とあり、解説には【勝利は物質的破壊によって得られるものではなく、敵の戦勝意欲を撃砕することにより、初めて獲得できる】とある。
頭から「君たち、敵に勝てるのか?」との「将帥の発言」は、軍務に携わる将官たちに対して無礼極まりない発言ではないのか?私だったら、「そんな態勢に追い込んだのは、民主主義を標榜する政府自身じゃないのですか?」と。
むしろ自衛隊に理解があるとされた安倍元総理ではなく、総理が自衛隊の最高指揮官であることさえ知らなかった、民主党時代の菅総理の方が、“正直”だったと言えないか?
この発言に対して誰一人として将官たちが“具申”しなかったとは「さすがは物分かりがいい方々」の集まりだと言いたい。全国の部隊で、黙々と「人が嫌がる任務」につかされている隊員たちの面目をつぶしたと言えよう。部下たちに対しては「ことに臨んでは身の危険を省みず」と教育してきた身が、事ここに至って「お母ちゃんが大事だ!」と「同感」する気か!
今やOBだからそうなのかもしれないが、現役だったら下克上に会うかもしれないぞ!次の産経抄を読むがいい。
こんな”雑業ばかり”させられていて、軍事能力が向上するはずはないだろう。
防大生時代、「税金泥棒が歩いているぞ!」などと大企業の組合員たちから罵詈雑言を浴びせられながらも、じっと耐えて軍務に邁進して来た“まじめな”OBの一人としては耐え難い。
ウクライナに攻め込んだロシアのプーチンは、いよいよ打つ手がなくなったらしく“暴発寸前”だが、ウクライナのゼレンスキー大統領は必死になってそれを撃退しようとしているし、国民は黙々と従っている。そんな彼に向って「あんた‼ロシアに勝てるのか?」と聞いてみるがよい。
同じ産経に皮肉にもこんな記事がある。
人は「パンのみにて生きるにあらず!」。ウイグル人たちの苦悩を見るがよい!そんな扱いを受けても構わないという気か!三島由紀夫が市ヶ谷台上で檄を飛ばしたが、今や“現代の指揮官”は部下の命、家族の命の方が惜しいと、戦う前に「命乞いする気か!」
保守派“有識者”に笑われるだろうが、大東亜戦争末期の19年10月20日、特別攻撃隊出撃に当たって、大西海軍中将が出撃隊員に向かって訓示をしたが、このとき大西長官が壇上から「君たち、本気で米国に勝てると思っているのか?」と呼びかけたとしたら、これほど不謹慎な発言はあるまい。
中将はこう言った。【皆はすでに神である。神であるから欲望はないであろう。もしあるとすれば、自分の体当たりが無駄ではなかったかどうか、それを知りたいことであろう。(以下略)】
そして終戦とともに、愛する妻に遺言を書き残して、特攻隊員たちの後を追って、壮烈な自刃を遂げた。これが戦場体験のある「指揮官の姿」である。
しかし、想像すれば、宮崎正弘氏以外、誰もこの問題を取り上げないが「靖国の英霊方」は怒っておられるに違いない。いや最高指揮官の無責任な発言に、三島由紀夫氏も「とうとう来るべきところに来たか!」と絶句しておられるに違いない。何時から“自衛官たち”はこれほど臆病になったのか!と。
語ればきりがないが、肝心な「本」を読んでいないから真相はわからない。それに加えてPCにも不具合が起きて、今日まで更新できなかった。
ウクライナ戦争の成り行きを見ていて、今年は不穏な年になると予感がしているさなかなのだが、それにも増して、この国の将来の方が不安になる。私が「新年おめでとう」と言えない理由である。