軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

『べこっ』殿へ.ご質問にお答えして

WW2の原因は一言では説明できません.当然の事ですが….
私も昔から『大東亜戦争がなぜ起きたのか?』について疑問に思ってきました.
中村粲教授の『大東亜戦争への道』はよくまとまった著作ですが,他にも広く素材を求める事でしょう.例えば「第2次世界大戦の起源(A・J・P・ティラー=イギリスの歴史学者)」は,この本は『実際に生起した事柄を,又その理由を理解する』為に書いた,といい,『私は戦争が犯罪であるか否かという問題には何の意味も認めない.主権国家の世界では,それぞれの国家は自己の利益のためになしうる最善の事をなすのであって,犯罪のためではなく,せいぜい過誤のために批判されるだけである』と言っていますが,実に興味深い言葉です.そして『大国たらんとする事の目的は大戦争を戦い抜く事にあるが、大国でありつづける唯一の道は大戦争をしない事,しても一定の範囲内で戦う事にある』ともいっています.
更に意味深長なのは,『かってアメリカには、日本と協力すべきか,それとも中国と協力すべきかという現実的問題が問われていた.この問題は主としてアメリカの政策の混乱の為に,今日(1964年出版)現実そのものによって答えられている.日本が極東でのアメリカの唯一の信頼できる友人である事は一般に認められているし,従って対日戦争は誰かの−−−恐らくは勿論日本の側での−−−誤りによるものと思われている』という一節です.
その他,『世紀末から見た大東亜戦争(現代アジア研究会編)』も示唆に富む本です。
最近は『大東亜戦争物』が数多く出版されていますが,全部に目を通すのは不可能ですから,これと思うものを通読すると良いでしょう.私は,一般的に軍人が書いた『記録・所見』は,どうしても『戦闘行動の是非に関する考察』が主体になりやすく,又,日本の歴史学者は,何故か『旧軍人の行動』を,批判的に,いわゆる『軍国主義的』に捉えているので,これまた余り参考にはならないように思っています.しかし,これらの記録,体験談などを広くあたっていますと,点と点が,たまに線に繋がる事があります.
我国がなぜ無謀とも言える対米戦争に踏み切ったのか,これは簡単に結論付けられませんが,ティラーが言うように,『アメリカの政治的混乱』と『日本側の誰かの誤りによるもの』ではないか?と考え,その誰かが,軍人なのか,官僚なのか,時の政治家なのか,はたまた彼ら皆が間違えたのか,と史料をあたっているところです.結論は出ていませんが,ひとつ言える事は当時も今も,日本人は『情報を軽視し,謀略に疎い』とは言えます.私達が立ち上げている『平河総合戦略研究所』で,毎週『メルマガ』を発信していますが,私はここで『大東亜戦争の真実を求めて』と題して,これらの追求をしています.  www.hirakawa-i.org
お尋ねのように「日露戦争で軍部が慢心したから?」などというのは,余り根拠になるとは思えません.大東亜戦争「WW2」は『満州事変にさかのぼる』という方もいますが,それは方手落ち,私は日露戦争までさかのぼる必要はないと思いますが,ティラーが言うように,第1次世界戦争終結時点におけるヨーロッパ,米国,そしてアジアにおける主権と利権を巡る争いは研究してみる事が大切だと思います.取り急ぎ意見を書きましたが,御参考になれば幸いです. 6月28日