軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

第2の「チベット」になるな!

チベットから見た中国問題」と題する,ペマ・ギャルポ氏の講演を聞いた.キャルポ氏はチベット人で,1959年にインドに亡命し,65年に来日,日本で中学・高校・大学,大学院などを卒業し,現在は桐蔭横浜大学法学部教授であり,我々平河総研の勉強会にも顔を出す知日派である.
1時間半に渡るチベットの「悲劇」から導かれる彼の日本人に対する警告には、聴講者も息を詰めていたように感じられた.中国が「不透明」な理由について,彼は①中国自身が不透明.②日本のメディアが作り上げた事による,と分析した.
昔はチベットと中国の関係は「寺と檀家」の関係だったが,「反チベット」行動の元には,いわば劣等感の裏返しとしての孫文中華思想があるという。特に第2次世界大戦以降は、周辺諸国が次々に独立した為、中国の人口増大に反比例して南下政策が取れなくなり,その代わりに周辺諸国ウイグルやモンゴル,チベットに”移動”した。つまり南下できなくなったから、資源が豊かで多数の国と国境を接しているチベット占領に目をつけたのである.特に毛沢東は,朝鮮戦争で米国が半島から進攻し,次にチベットから進攻する事を恐れていたので、チベットの「文明開化を進める」と称して彼らの価値観を押し付けた.そして米国の「帝国主義侵略からチベットを守る」と公言したが,その頃チベットには7人の外人しかいなかった.その内2人は日本人であったが,中国はその侵略を「解放」と称した.日本の教科書には,この中国の「侵略行為」を,最初は「中共軍の侵入」と書いたが,やがて「進入」になり,日中友好以後は何故か「解放」と書いている.
中国の戦略の特徴は,「相手の中に入って混乱させ」やがて武力で平定するもので、今の日本を見ていると,例えば中曽根発言,河野議長の行動などは、かってのチベットと同じだと感じる.それに気づいてから武器を取っても遅い!.中国外交の常套手段は「貴方の国にも靖国参拝反対者がいるではないか!」という脅しである.これで日本側の反論は終わりである.
中共軍が侵入した時,チベットでは「なんとかインドに頼もう…」とか,「国連に訴え様…」と行動したが,インドは動かなかったし,国連も3回決議され,国際司法裁判所で侵略と認定されたが,既成事実になっただけであった.そして120万人のチベット人が殺された.
日本人には「絶対的『善』よりも,少しの『悪』が許される.これが国際政治の現実だということをしっかり認識して欲しい.」(チベットの悲劇については「ダライ・ラマ…その知られざる真実.ジル・ヴァン・グラスドルフ著」河出書房が詳しい)
そして「最近の日本には『傲慢な資本主義』が復活したようで,もう一度『共産主義復活』を招きかねないところが見える」と警告した.つまり『形は民主主義』だが,実態は『資本家が広告でメディアを支配しているから』正しい民主主義とは思えない.悪しき資本主義の典型だというのである.確かに対中関係では,進出企業の『利益優先』が日本政治を支配しているところがある.
チベットの今後については「中国はチベットを飲みこんだが,消化し切れていないから,やがて『吐き出す』だろう」というが、日本の現状は、「かって仏教国・チベットでは,指導者である僧侶達が殺生を禁じた教えを優先し,『仏を拝んでいれば平和は保たれる、と主張し抵抗を禁じた』が,その結果敬虔な仏教国・チベットは『地獄』になってしまった.日本人に言いたいことは,『泥棒を中に入れてから鍵をかけてもダメだ』という事である.かってのチベット僧のように、本人は『正義だ』と思いこんでいるから始末が悪い.そんな日本人が沢山いる!。自分でいくら『平和宣言』をしても、他国の縛りにはならないのである.仏教国チベットでは,中共軍の侵略時に『宣戦布告』が出来ないものだから,国民はゲリラとなって苦戦した.その為,驚くべき事に自国民から『賊軍呼ばわり』されたのである.殺生を禁じ,慈悲の心で接すれば,仏に祈れば苦難は去る,と思っていたのである.日本人も学校で『平和を唱えるだけでは何の意味もない.力を持つ事が真の平和維持に貢献する事』を教える必要がある.国際社会の現実を国民一人一人が知れ!」
当たり前の事であるが,国を奪われたチベット人から体験を元に話されると説得力が一段と増す.
講演後,昨年,私が静岡県の『国際海洋高校』という全寮制の学校に留学している8人のチベット亡命少年少女に会った事を伝え,その時一番若い少女が「1ヶ月以上かけてインドに設けられているチベット人キャンプに脱出して来たと語ったが,今でもあんな高地を裸足で脱出する子供達がいるのか?」と尋ねた.
彼は『勿論,年間数千人が脱出しています.その子は運の良い方で,大半は行方不明か事故に会って死亡して,キャンプに辿り着くのは少数です」と言ったから、あの少女がチベットに残った両親との別れ際の思い出を私に語った時,涙を流した意味が今ごろ理解できた.ラサに残った両親は『決死の覚悟』で可愛い娘を送り出したのであろう.自分の不明を恥じたが,今の日本人には決して理解できないに違いない.
ところで,ギャルポ氏が言った『泥棒を中に入れてから鍵をかけてもダメだ』という言葉が妙に頭に残っていたが,産経新聞が8月2日から数回にわたって連載した『歴史の自縛・戦後60年』という記事を見て納得がいった.『侵略謝罪』を実行した『村山談話』作成時の秘話は,村山富市元首相,細川護熙元首相,谷野作太郎元駐中国大使,古川貞次郎元官房副長官松井孝治参院議員,橋本龍太郎元首相等、中国に全面譲歩した靖国参拝問題では,中曽根康弘元首相,後藤田正晴官房長官,北城恪太郎経済同友会代表幹事等が深く関係していたと顔写真入で批判している.
いわば彼らは戦後の日本国民に取っての『A級戦犯』ならぬ,『永久戦犯』ではなかろうか?
1930年代,中共は国民党内に分子を送りこみ,盧溝橋事件を引き起こさせて国共合作を成功させ,対日戦に引き込んで国民党軍の消耗を図り,やがて天下を取った.
ギャルポ氏の言葉通り,中共の戦略は,相手のうち懐に入りこみ,相手を混乱させて勝利するのが常套手段である.我が国内には、既にこれだけのシンパが入りこんでいたのであるし,現在も『教授』や『研究員』の肩書きで相当数が入りこんでいると見られる.まさに我国は『泥棒を中に入れて鍵をかけ様としている状態』であるが,どのくらいの『有権者』がこれに気づいているのであろうか?
9・11の総選挙を前に背筋が寒くなる思いがしたのであった.