軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

マッカーサーか、それとも金日成か?

朝鮮半島、とりわけ北朝鮮問題について非常に関心が高いことは、私のブログの「コメント」欄を見るだけでも納得できるが、昨日の「虎ノ門道場」での「不安定化する朝鮮半島と日本の対応」と題するシンポジウムも盛会であった。これは東京財団の研究プロジェクト・チームによる中間発表なのだが、300人以上の熱心な聴衆が集まった。
配布されたレジュメの表に「マッカーサー金日成」の銅像の写真が印刷してあり、「どちらの銅像が先に倒れるのか」というタイトルがついている。つまり、北朝鮮国内で金体制が崩壊するのが先か、それとも韓国での反米活動が目的を達するのが先か?というわけである。それほど最近の韓国情勢は「危険領域」に入っている。
研究会の提言は、
朝鮮半島では今、北朝鮮と韓国で2つの危機が同時進行している。北では悪魔的な存在である金正日テロ政権が、内外から圧力を受け崩壊へと進みつつある。反面、南では親北左派政権が日米韓三国同盟を離脱し、金正日支援を続けるのに対して、親米保守派が激しい抵抗を展開しており、次期大統領選挙の帰趨が焦点となっている。2つの危機の進展いかんによっては、韓国左派政権が金正日との連邦制統一を強行し、核を持つ反日テロ国家が半島全域を支配する最悪の可能性もゼロではない。この現実を正しく認識し、日本は韓国保守派、米国保守派との連携を強め、日米韓三国同盟を強化し、北朝鮮の自由化=金正日政権打倒を目指すべきだ」
というものであった。写真の「マッカーサー将軍銅像」は、朝鮮戦争の勝利を決定付けた仁川逆上陸の指揮を取った、マッカーサーに感謝して建てられたものだが、今やそれを撤去しようという運動が盛んなのである。

  • いわゆる金大中金正日が会った「金金会談」直後の8月に、私はソウルで韓国の学者達と研究会に参加したが、我々の関心は「会談目的」にあったので詳細な解説を受けた。ところがその席で、金大中大統領の保身上、「ノーベル賞」が目当てなのだといわれて怪訝だったのだが、事実そうであったことが後で判明した。研究会の後、韓国空軍基地を視察し、幹部達と意見交換したが、この会談は「北の謀略」と見ている将官は多かった。しかし、現実に部隊の指揮を取っている幹部達の中には、50年以上も続いている緊張した「停戦状態」に痺れを切らし、自由時間を欲しがるものもいて、軍も内部崩壊する危険を感じていたが、やはりその気配が濃厚になってきたといわざるを得ない。北朝鮮による軍弱体化戦略は成功しつつあると認めざるをえまい。
  • 今朝の産経新聞7面に、ソウル特派員・久保田記者の「親北教授の逮捕・拘束に待ったがかかった」という記事が出ていた。「親北教授」の姜・東国大学教授は、朝鮮戦争北朝鮮指導部が試みた統一戦争だった。「米国が介入しなかったら戦争は一ヶ月以内で終わったはず」「あれだけの殺傷と破壊が米国のせいで起きたことを考えると米国は生命の恩人ではなく生命を奪っていった敵」だと主張するのだから支離滅裂である。マッカーサー始め、戦没した連合軍将兵とその家族達は、怒り心頭に発しているだろう。彼を国家保安法違反で告発し取調べ中だったのだが、検察当局が「逮捕」する方針を固めたところ、法務大臣が指揮権を発動して「待った」をかけたというのである。この一件を見ただけでも、やはり韓国国内では容易ならざる事態が進行中であることが推察できる。近い将来、朝鮮半島では、何らかの騒乱状態が起きることを覚悟しておかねばなるまい。
  • 状況によっては、軍が得意とする「クーデター」を起こしかねない。その結果、韓国国内事態が好転すればよいのだが、それを機に北が何らかの動きをすることは十分考えられる。万一そのような事態が生起すれば、在韓米軍はどう動くか?台湾海峡は?新疆ウイグル地区での「独立運動」は一気に拡大するのではないか?そのとき中国政府はどう動くのか?中央アジアも連動して不安定化する。チェチェン独立運動も激化するだろう。そのときロシアはどう動くか?すでにバルカル共和国で、その予兆は現れており、チェチェン独立派が警察などを襲撃し、市民など70人以上が死亡、プーチン大統領は「国境封鎖、武装勢力殲滅」を命じたという。
  • こう考えると、朝鮮半島の混乱という、我国に最も影響がある周辺事態には自ら対処する以外には無い。その心構えはどうなっているのだろうか? 赤い羽根募金などで「人気取り」している時なのだろうか?という疑問が湧く。事態対処勢力の中心となるべき陸自はその頃5千人の削減で戦力抽出にゆとりはなくなる。空自の戦闘機戦力も低減する一方である。おまけに、国外での「災害派遣」に戦力を差し出すなど、国内戦力の低下は「底なし状態」である。その上安保条約を結んで「守ってもらっている」同盟国・米軍の再編問題では日米関係はぎすぎすしている。万一の事態に、一体誰がこの国を防衛するのだろう?

聊か「悲観的」にならざるを得ない昨今なのだが、そんな私を見て「考えすぎよ」と家内は言うのである・・・。