22年ぶりに松島基地OB会で講演してきた。120名を超す仲間が集まってくれたが、瞬時にして22年前の現役時代にタイムスリップする感覚が不思議だった。
皆、それぞれに“老化”していたが意気軒昂、当時、独身で若かった隊員がこの秋に定年だと聞いて、自分の歳を改めて悟らされた!
ところで、今や我が国のメディア(特にTV)は金正男暗殺事件で浮き足立っている。
そして北朝鮮の理不尽さと金王朝?のドロドロした人間関係を強調しているが、この事件が今後の半島にどんな影響を及ぼすかについてはほとんど触れていない。
視聴率競争段階にとどまっていて“専門家”とかいう韓国人たちを動員して井戸端会議を続けているが、それが何の足しになるというのか?
朝鮮半島をめぐる相関関係は、北はシナの緩衝地帯であり戦略的要衝である。つまりシナの“核心的利益”に相当する。
韓国にとっては“脅威”であり油断できない存在だが力不足を米軍が補っている。
ロシアのプーチンはそれほど関心を持ってはいまい。今は地中海への出口獲得の方が最優先なのだから。
では日本は?
書くだけ虚しいが、拉致被害者を救う事さえできずオロオロしているだけだ。
と言って半島が赤く染まることは絶対に避けたいから、これも米軍に頼っている。
そこで肝心の北の思惑はどうだろう?
金正恩が自分を倒そうとする可能性がある者を粛正するのは、この国の過去の歴史から見て宿命に近い事実だから、当然金正男を粛正させたのであろうという推測は成り立つ。
しかしそうであれば、今後はその子供も、自分に一番近い血縁の兄も、すべてがその対象者として粛正する必要があろう。
しかし、過去の金日成と金正日の“交代”も暗闘の中の殺し合いで決まっている。
その後、金正恩に権力が移譲されたのは金正日の決定だったとされているが、それにしても危うい決定だった。私はまるで2等空尉がいきなり空幕長になったようなものだ、と当時書いたはずだ。
そしてその弊害は北の国内に渦巻いた。少なくとも高度な判断力と経験を持つ“老兵”にとっては、不満だらけだったに違いない。
養育しようにも、わがままな権力者には通じなかったから、不満は不平に発展し、機会があれば…となる。
半ば孤立気味の正恩にとっては周りの誰もが“敵”に見えてもおかしくはなかった。
気に食わないトリマキを次々に消し始めたが、中でも2014年1月に叔父の張成沢元国防副委員長と、親族の大半を処刑したことは周辺諸国に大きな不信感を与えた。特にシナには…。
叔父を処刑した理由は何だったのか?
それは自分を降ろそうとしたからである。つまり反乱だ。
張成沢が、2012年8月13日に中国を訪問した時、国家主席(当時)胡錦濤と会談したが、会談内容は極秘であり、その場には胡錦濤と張成沢以外には、中国人の通訳が一人いただけだった。このとき張成沢は「金正日の跡継ぎは、金正恩ではなく、中国寄りで改革開放を進めるであろう金正男にさせるべきだ」と話したらしいが、胡錦濤は黙っていて、何も答えなかったという。
ところがこれが北に漏れた。周永康がこの密談内容を全て盗聴して、北朝鮮に密告していたのだ。
事実、周永康は金正日と緊密だったし、2010年に訪朝した際、金正日とは4回も会っていてバルコニーから手を振った間柄だった。そこで後継者は金正恩だと告げられていたらしい。つまり、正恩支持を依頼されていたのである。
そこで周永興は正恩に“ご注進”したというのだが、この説には信憑性がある。
そうでなければ、機関砲で身体を撃ち抜き、さらに火炎放射器で遺骸を焼き尽くし、その上のちに災いになる恐れのある張成沢の親族一家の幼子までを殺し尽くすはずはなかったろう。
更に金正恩は、2015年後半に各種の工作機関などに中国共産党の対朝鮮政策の調査を命じたのだが、その結果「中国は北朝鮮を改革開放に導こうとしており、金正恩政権がそれに従わず核ミサイル開発を続ける場合、正男を使って金正恩政権を倒すことを検討している」という周永興の証言を裏付ける報告が金正恩に上がった。
これで金正恩のシナに対する意思は固まったと思われる。もともと父親の金正日もシナを毛嫌いしていたのだから。
その昔、中ソ友好は盤石だ!と言っていたように、中朝は蜜月だ!と報じていたのは日本のメディアくらいなものだ。尤も大学教授らさえも「シナにはハエ一匹いない」と絶賛していたのだから、メディアだけではなかったが…。
ところでこの事件の奇妙な点だが、金正日と金正恩のシナ無視の姿勢に不快な思いをしているはずのシナが、保護国の“若い”独裁者の独走に耐えている有様は謎であり、わざわざ人民日報がこの事件を「朝鮮半島の安全保障になんらのインパクトもない」と書いたことも腑に落ちない。
しかしその裏で、国境地帯に1000人の兵士を増派しているから、反応はしているのである。
それは 2016年1月に金正恩は中国の制止を振り切って核実験を断行したが、これに習近平は激怒している。
それを伝え聞いた金正恩は「中国が正男を使って自分を倒しに来るなら、北京と上海に一発ずつ核ミサイルを撃ち込む」と語ったといわれているから、シナと北との関係は「冷え込む」などという段階ではなく、一触即発といっても過言ではないといえる。
大紀元日本は、
≪1、香港に本部を置く中国人権民主運動情報センターによると、中国当局は金正男氏が死亡したと伝えられた後、不測に備えて中国と北朝鮮との国境に約1000人の兵力を増員した。
2、2月15日に中国外交部の定例記者会見での質問に対して、外交部の耿爽・報道官は「中国側は事件の動向を密接に注視している」と回答した。記者の金正男氏の妻子は現在マカオにいるかどうかとの質問に対して、耿報道官は「関連情報を把握していない」と答えた。
3、しかし、金氏の妻子に関する質問への報道官の返答は、外交部のプレスリリースに反映されておらず、当局に削除されたと推測される。当局は金正男氏の突然の死に対し、非常に慎重になっているとみられる。
4、中国国内メディア「澎湃新聞」の2月15日の報道によると、北朝鮮から輸入された製鋼用の無煙炭のその中に含まれる水銀が基準値を上回ったため、このほど浙江省温州港から北朝鮮に送り返した。無煙炭の規模は1万6296トンで、総額約95万ドルで、昨年10月、温州港に運ばれたという≫
と報じているから、おそらく、シナ政府はマカオに住む金正男一家の保護に失敗した責任を権力闘争の相手から問われまいとして、混乱しているのだろう。
しかし一説によると金正男が外国へでていくときは保護の対象外にしていたとの説もあるから、金正男は今回のように無防備で、格安航空券、ボディガードも付けないで飛び歩いていたのだろうが、北朝鮮工作員の方は彼の所在を確実に掌握していたのである。
そしてむざむざと暗殺されたのだから、明らかにシナの保護施策のミスであったといえる。
これでシナの息がかかった後継者はほぼ断絶することが確実になった。
“緩衝地帯”を支配するはずのシナの夢は遠のき始めた。そこで、北の保護者であるシナと、南の保護者である米国との確執が始まる。次の後継者選びが加速するのだ。
シナの後継者と目された金正男が暗殺された現在、次の有力者の名前に金日成の次男である金平一の名前が上がっていて、彼をトップとする亡命政権樹立を一部の脱北者が呼びかけているという。
もちろんこれに対しても金正恩は怒り狂っているだろうが、金平一は「英国在住の脱北者団体」などからの支援ではなく、南朝鮮と米国が担ぐ「後継予定者」ではないのか?
だとすれば、アジアの平和と安定を乱している金正恩は近い将来抹殺され、北にはシナではなく米国が押す金平一が就く日が来るのかもしれない。
この思い切った作戦は、オバマではできなかったことだが、北を不快に感じているトランプ新大統領なら実行できるだろう。
北のSLBMが米本土に届くようになる前に、その根を断つ作戦を実行する公算は否定できない。そしてそれは南シナ海を占領してSLBMを配備しようとしているシナに対する“警告”にもなる。
来月から予定されている米韓合同訓練は、時期的にもいろいろな条件を満たすことになるだろうから、状況によってはトランプ大統領は、北の核を根絶する行動に出かねないだろう。
既にF22や、F35などは嘉手納に集結しているし、空母レーガンのほかに、カールビンソン打撃部隊もアジアに進出している。その勢力は膨大なもので、シナの『遼寧号』などは足元にも及ぶまい。
過去の金正日時代の米韓合同演習中、金正日は上空を我が物顔に飛行するステルス爆撃機におびえ、地下深く退避していたといわれている。
恐れを知らない?金正恩が、万一これに対抗しようとして、核実験や、ミサイルを発射した時には、これを口実にトランプは一斉に先制攻撃を命じる恐れなしとはしない。
金正男暗殺で、半島情勢を憂慮するのならば、これくらいのシナリオが描けなくては、フェイクメディアと言われても仕方あるまい。
東北新幹線内で、そんな“妄想”をしつつ帰京したのだが、当たるも八卦、当たらぬもまた八卦ではある。
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