軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記9「討議その7」

最後に呉懐中・同じく「助理」が「東アジア共同体・・・中国とのかかわりを中心に」と題して、次のような「研究発表」をした。
(1) 日中は「ダブルエンジン」の働きをする事が出来るか?日本側の戦略が不明瞭で、躊躇している様に見える。
(2) 日本は本気で共同体構想に取り組んでいるのか?中国との指導権争いと言う心の病を抱えている。
(3) アジア重視よりも日米重視である。米国のグローバル戦略と組み合わせて地域の主導権をとろうとしているのではないか?
(4) ネオコンに配慮し、異端者を排除しようとしている(?)

 計画より10分遅れで討論に入ったが、主な中国側の質疑事項は次のようなものであった。
(1) 蒋立峰所長
日米同盟は二国間の同盟である。他国に口を出してはならない(?)。アジア太平洋間の問題に口を出すと色々な問題が生じる。特に日本政界に考えてもらいたい。米国とさえ仲良くすれば・・・と言う考えは改めて欲しい。日米同盟を拡大解釈して、多国間の協力体制を作っていくべきである。
(2) 王屏女史
日米同盟は地域安保の基礎と言うが実態はそうではない。安全の邪魔になっている。日米同盟が存在していることは、日本がアジアから阻害される。
(3) 彭光謙少将
NATOは冷戦の産物であった。今や全て終了すべきである。NATOが解体されなかったからと言え、日米安保があっていいのではない。排他的なものから、地域安保へ変化すべきである。
(4) 金熙徳氏
歴史問題について、我々は収束のために努力しているが、相当な困難がある。中国国内には、国民感情という内のハードルがある。再燃したとき、政治決着、外交交渉で決着できる問題ではない。歴史事実を確かめて、知識を十分持ってきて話して欲しい。
靖国問題にしても、長い共同研究が必要である。これを解決しない限り、日中の国益にはならない。
(5) 呂耀東女史
新しい教科書について、「我慢にも限界がある」ことを恐れる。中国は「謝ってくれ」と言っていない。求めているのは共同声明時の取り決め、それよりも後戻りをしないことと言っているのである。靖国問題はその原点である。
(6) 孫伶伶女史
極東裁判の合法性に疑問を呈するのはおかしい。

 これで中国側の意見が「日米安保破棄」要望であり、東アジア共同体のイニシアティブをとることにあることは明白であろう。「共同声明時の取り決め」を守り、内政干渉すべきでないのは中国側のほうであることは完全に無視している。この様な態度が「中華思想」だと言われるのだが、ご本人達は、骨の髄までしみこんでいることだから、全く気づいていないのである。我々の方が、機会あるごとに「注意して差し上げる」べきことなのである。
 歴史認識についても、我々の方から「正しい歴史」を教育してやる事が大切だと思う。中国には共産党政権が作った「歴史教科書」しかなく、自由な「正史」はないのである。そのことに思いを致すならば、金熙徳氏が重ねて強調したように、訪中する日本側の議員や評論家達が、自国の歴史認識不十分のまま、中国側と討議しても全く無意味である。「勉強してきて欲しい」と言う示唆を私はこのように受け止めた。
特に次代を担う中国の若手研究者たちが、教条的な「戦後史観」に囚われているのは問題である。彼らに、「正しい歴史認識」を教授するくらいの知識と実力が日本人側になくては、日中協議の意味がない。
更に中国側から蒋所長が、
(1) 中国指導者の誰が日本を「軍国主義だ」と言ったか?
(2) 何時までも相手を脅威とみなしてはならない。たとえ自衛隊を「軍」と改めても、同様に中国を「脅威」とみなさないで欲しい。
(3) 協力の意欲を持ち、相手を敵とみなさないことが大切。経済協力+軍事協力がベストである。と発言したが、鈴木女史が、「では中国は核軍縮をすべきである」と応酬した。
金熙徳氏は「マスコミ政治の時代に入った。テレビに良いニュースが流れるようになることを期待したい。軍人同志の交流が大切である。脱政治家!日本人には戦略がなく「戦術」だけである。これでは我々は不信感を持たざるを得ない。もっと戦略を論じ合いたい、と付け加えたが私も全く同感である。
張季風氏は、国際会議はテレビでは見ていたが、今日は実際に「実物」を見た。アジア経済圏は事実上進行中であると思うと所感を述べ、彭少将は「率直な交流が出来た。日本の官民ともに、歴史の影から抜け出したいか分かった。ただし、過去にどのような形で別れるのか?『否認するのか変えるのか?』。歴史を正しく見ることから教訓が得られる。事実は事実として認める事が大事である」と発言したが、彭将軍の発言は意味深長である。彼は軍人だから、軍学校時代に学んだ「戦史教育」で、盧溝橋事件の「犯人」が誰であったかを教育されていると思われる。我々に対して言った「歴史認識発言」は、実は彼自身の自問自答ではないのか?もしそうだとしたら、今後の会合には期待が持てると思う。是非「歴史を歴史として正しく」見て、勇気ある発言をして欲しいものである。中国の歴史(正史)は歴代王朝が都合の良いように書き換えることで成り立っていると言う。「歴史を否認するのか、変えるのか」と言う発言は、いかにも中国人らしいが、「事実は事実」であることを知らしめる必要があろう。
蒋所長は鈴木女史の発言に対して「日本も2007年には核動力推進空母を持つだろう」と言ったが、これは「二ミッツ」のことであろう。
張副所長は中国の核は「防衛目的」だといつもの発言を繰り返した。
こうして予定を30分もオーバーして、12時半に川村団長が挨拶し、続いて蒋所長が次の様に締めくくった。
* 率直な意見交換が出来、大いに成果があった事がうれしい。今日の会議の模様を日本国内に伝えて欲しい。時間がかかる問題もあるが・・・
* 岡崎所長がお見えにならなかったのが残念である。
*中国には、「山が好きな人は仁義を重んじ、海が好きな人は知徳を重んじる」という諺がある、と言った。
そこで私はメモ帳に、「山や海もいいが、『空』はないのか?」、では私(空)が作って差し上げよう。「空が好きな人は『勇気』を重んじる!」と書いた。
今や「空軍の時代」、中国の諺は一世紀遅れている!と思った次第。
こうして、討議の時の熱弁?は忘れて「反省会」をしつつ再び弁当をつつきあい、固い握手を交わしてホテルに戻った。              (続く)