軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

上海会議の総括

 上海国際問題研究所との安保対話は、2000年の予備会議を加えると既に6回目になる。
今回は、北京での中国社会科学院日本研究所との会議が、5年ぶりに再開されたので、双方を比較する事が出来たのは有益であった。
 会議の内容は、毎年検討されている範囲であり、さほど目ぼしい物はなかったが、会議に、2年前に引き続いて、中国人民解放軍国防大学戦略研究所所長の楊毅海軍少将がわざわざ北京から駆けつけたことと、海軍OBで中国人民解放軍海軍軍事学術研究所高級研究員の陳光蒞大佐、同じく軍事科学院戦略研究部高級研究員の陳舟陸軍大佐が参加したのが目を引いた。
 いつものことながら、双方の連絡を担当する呉寄南・日本研究室長が十分な準備をしてくれているので、配布資料はじめ、会議全般の流れは、いつものように時間不足以外は万全であった。
 会議内容や、各人の発言は省略し、全体的な感想を箇条書き的に記録しておきたい。

1、 軍人達は一般的に「現実主義」のところがあり、表現には「画一的な点」があるが、内容はかなり現実的な思考が強い様に感じられた。例えば楊少将は、時間外ではあったが積極的にわが海上自衛隊OBの金田氏と、将来の軍事交流などについて意見を交わしたし、陳大佐も個人的と断りながらも私に「現実的見解」を示す事が多かった。
2、 「歴史認識」については、双方でこのような場を通じて積極的に意見交換する必要がある。今回は「東京裁判」について、中国側から「異議申し立てするのはいかがなものか?」と言う反論があったが、彼らはわが国のスタンスをよく理解していない。「独逸のような謝罪方式」を求める意見が出たが、これなどはわが国の「左翼主義者」の意見と同一である。今後「論破」していく必要がある。
3、 MDについては、石破元長官が「純然たる自衛目的だ」と一蹴したこともあってか、以前のような激しい反応は見られず、「日本上空を通過するミサイルも想定している」と言う非現実的意見が出た程度であった。論拠ある「反論」は有効であることの証明であろう。
4、 4月の「反日デモ」については、打ち消す方向で思想統一されているように見受けられた。例えば「あのデモは非理性的愛国心の部類に入る」と言うのである。「A級戦犯」についても、十分吟味しているようには思われず、日本の新聞の「受け売り的発言」が目立った。相変わらず「A級戦犯を合祀するのは日本国民に対しても恥じである」と言う主張があったが、日本国民を「被害者」にする論理は、打破する必要がある。
5、 「北の核」については、自国の核保有と同じく、論理的に筋が通らない段階に来ているように思う。「日本も同じ理由で核を保有する」という反論には抵抗できないように見えた。国内で「核武装論」を盛んにする必要があると思った。
6、 北への「外科手術(武力侵攻)」については、シビリアンコントロールの原理が理解できていない中国の研究者には解説が難しい。共産主義理論で成り立つ国に、資本主義を導入すれば、経済が混乱して「株は必ず儲かるもの」と錯覚するが如きである。民主主義政権下の軍隊と、彼らの軍隊の違いを、特に研究者達に懇切に説明する事が必要であろう。
7、 2+2や、日米同盟の強化については相当な誤解があるようだが、いずれにせよ台湾問題に日米が意思を明確にしたことに対して、相当危惧しているように思われる。
しかし、台湾国内の最近の動きから、特に国民党を抱きこんだという自信が見え隠れしていて、いずれ「熟柿」のように手に入ると踏んでいるように思える。
8、 台湾問題について、楊少将が、「あくまで中国の内政問題だが、東アジアに重大な影響を及ぼす。中国政府の態度は明確だが、日本の態度が①受身から進んで介入へ、②曖昧から明白な戦略へ、③相撲で言えば幕下から幕内へと変化した。
そこで①台湾の平和的統一を日本は歓迎するか?②日米同盟が如何に強固になっても「反国家分裂法」で中国が動くのを阻止できるか?③海峡地域の安定を保つためにどういう方法があるか?と質問したが、これは中台間の問題に対する「日米の対応振り」に最大の関心を払っている事の証明であろう。
9、 東アジア共同体構想について、相当な「圧力」を加えつつあるが、これは米国の孤立化を狙ったものであることは明白である。その反面、中国と米国との間の協調を希望していることも明白である。したがって、この構想は、日本の孤立化を狙ったものであり、中国の本音は米国と強調しつつ「覇権」を狙うことにあると思われる。
10、 若手の米国研究者から「中国の軍事力整備とエネルギー政策はもっと透明度を増すように努力していくべきだ」という発言があった。例えばエネルギーについて、「過去においては資源を探査し、安定的供給を図ったが、今は節約と効率向上を心がけているが石炭をもっと活用すべきだ」というのだが注目に値する。
11、 楊少将や、陳大佐の「中国の軍事力」に関する発言は「正直」であるような気がした。当然のことながら彼らは装備の近代化を熱望している。それを「軍事力増強」と言われることに違和感を覚えているように思う。陳陸軍大佐は、中国の国防白書について解説したが、海空軍の必要性を強調した。又、党と軍の関係については、軍が党をコントロールすることは不可能であり、潜水艦の領海侵犯事例についても、機械的故障が原因であり、海軍は訓練を必要としている、と強調した。
12、 上海協力機構についても解説があったが、9・11テロ以後の「対テロ戦争に協力」と言うのが主張内容であった。しかし、それ以前に「中央アジア・取り分けウイグルの反乱防止」が主眼で設立されたのが、9・11テロが発生したため「米国から御墨付き?」が貰えたのではなかったか?と言う私の質問には回答がなかった。ウイグル問題は中国のアキレス腱だと思われる。
13、 今回の日本の総選挙結果について、かなりの関心が寄せられている。特に小泉以後の政権については、最大の関心が払われていると感じた。中国は日本国内の左翼メディアを使って、今後強力なキャンペーンを張る事が予想される。
14、 陳大佐が、「海峡の安全について」軍人らしく単純明快に解説したが、どのような信頼醸成メカニズムを構築するかが今後の問題であろう。発言の中で、「中日間のギクシャクした関係は次の点に絞られる」として、①歴史認識②日米同盟③領土紛争(尖閣?)④海洋の権益(東シナ海問題)⑤台湾問題(中国にとっては中核的国益問題)を挙げたが同感である。日中間の「パーセプションギャップ」をどう埋めていくか?
  今後の課題であろう。                    終り