軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記12「蘇州での会議その1」

 11月19日土曜日、上海国際問題研究所との会議が始まった。中国側の会議出席者は次の通りである。
 楊 毅・中国人民解放軍国防大学戦略研究所長(海軍少将)
 陳光蒞・同 海軍軍事学術研究所高級研究員(退役海軍大佐)
 陳 舟・同 軍事科学院戦略研究部高級研究員(陸軍大佐)
 沈丁立・復旦大学国際問題研究院副院長・教授
 楊沽勉・上海国際問題研究所副所長
 夏立平・同 国際戦略研究室主任
 任 暁・同 亜太(アジア太平洋)研究室主任
 陳東暁・同 米国研究室主任
 張 耀・同 中亜(中央アジア)研究室副主任
 郭隆隆・同 編集室主任
 陳鴇斌・同 編集室副主任
 呉寄南・同 日本研究室主任
 李秀石・同 日本研究室副主任
 陳子雷・同 日本研究室博士
 赴念淪・同 学術公室主任
他に通訳が2人ついた。(中国の漢字は当て字のものがある)
日本側が7名なのに比べると、如何に中国側が力を入れているかが分かるであろう。特に上記3名の軍人達は、わざわざ北京から駆けつけてきたのである。
 9時から呉寄南氏の開会宣言で予定通り会議が開始された。まず楊副所長が立ち、大意、次のように挨拶した。
 「中日両国が対立すれば、アジア諸国も巻き込まれ二者択一を迫られる。国民も大きな被害を受けることになる。『歴史を鑑にして』未来志向で行かなければならない。双方の国益を尊重しなければならない。難問解決のため、着手しやすいところから解決していこう。例えば『津波』『取りインフルエンザ』などで協力し合うべきである。
政治がダメなら経済で。二国間が困難なら多国間で。例えば6者協議、アセアンサミットのように。中米関係が良いヒントを与えてくれる。『トラック2(非政府間協議)』が非常に重要だと認識している。率直な意見交換が可能だからである」
 続いて川村氏が挨拶し、第1セッション「東アジアの安全に及ぼす北朝鮮の核問題」に入った。司会は呉寄南室長で、まず阿久津氏が「朝鮮半島情勢」について意見を発表し、次に沈氏が「北の核と中日米の関係」について発表した。
1、 北は当然核開発の権利を持つ。日本が権利を持ちながら放棄する態度には感心している。しかし、可能性について検討し、メリット、デメリットを比較して開発を放棄したのである。北のスタンスが変わらぬ限り、6者協議は実質的に変化することは無い。
2、 国家の安全はどこから来るか?
a ある国のメカニズムが及ぼすもの(脅威).
b 緊急な事態になったときの安全を守る最後の手段
3、 日本は、日米同盟、外交を通じて守れると思っているが、北朝鮮は6者協議は北の国益を害していると見ている。北が自前のメカニズムを守れると考えない限り進展は無い。
4、 北に核兵器はあるのか? 北は94年の米朝合意に違反してはいない。02年に核危機が再発したが、米国は軽水炉を供給しなかったから違反した。北はパキスタンからウランを入手しようとしたと言うが立証されてはいない。事実ではないかもしれない。北が合意に違反したとはいえない。合意内容に手落ちがあった。だから違反したとは指摘できない。しかしNPTには違反している。
5、 政策の選択に当たっては、最悪の場合を想定しなければならない。2012年にはどういう事が起きるか?中国にとっては中国の昨年のGDP1・65兆$の伸び率を10・5%とすると2010年には3・3兆$になる。実質購買力で計算すると、1・88%アップとみなされている。米国の11・7兆$の伸び率を3%とすると14兆$、7年後に米中のGDPは拮抗する事になる。米中協力して北に対応する事が可能となろう。
日本の核非保有問題に「感心」してくれたが、北の核、中国の核の「脅威」の前に、日本国内でも核武装論が出ていることには関心がないようだ。

続いて潮氏が「竹のカーテン」と題して日中関係の障害について分析結果を発表したが、直裁的な指摘だったので多いに刺激になったようだ。
続いてコメンテーターによるコメントが述べられ、まず川村氏が中国側の発表について中国側の意見が「朝日新聞の論調や資料に基いた発言であるのに驚いた」と言うと笑いが起こった。
楊少将は、3者に次のようにコメントした。
a 阿久津氏に対して
 韓国は北に柔軟な政策を取っているがこれはプラスになる。なぜなら北の孤立感をなくすからである。米韓関係について、日米同盟強化の意図は北に対するものだけか?
b 沈氏に対して
 CIAペンタゴンの報告も基礎にしているが、中国は7〜10年で米国と並べる国ではない。
c 潮氏に対して
 教科書問題では新教科書の採用率は低い。ただ侵略を美化する点は注意すべき。歴史認識では日本の謝罪回数は27回である。独逸の10倍以上だろう。日本も独逸のように動けばこれ以上謝らなくても良くなり徐々に落ち着いていくことだろう。
d MDについては、防衛目的であることは理解できる。しかし、日本上空を飛ばすミサイルも想定しているのは問題。

ここで一時休憩に入り、11時から討論に移った。           (続く)