軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記13「蘇州会議その2」

 10分間の休憩の後、11時から討議が始まった。ここでは中国側の発言を中心に記録する。
夏・戦略研究室主任は、主として潮氏の発表に対して次のような質問をした。
(1) 東京裁判に異議申し立てするのはいかがなものか?何故ならば第2次世界大戦の力が勝った事例として歴史に既に書き込まれている。
(2) 冷戦後のアジアは民族主義が高揚したが、民主主義には愛国心に基くものと非愛国心のものとがある。4月の反日デモは、非理性的愛国心の部類であり、日本の小泉首相の行為も非理性的民族主義の分野に入る。
(3) A級戦犯は、東南アジア人民のみならず、日本国民にも責任を負うべきである。なぜなら、戦争を策定し戦略を立てて断行し、大虐殺した責任者である。基本的に日本人民とA級戦犯を分けて考えなければならない。合祀するのは日本国民に対しても恥じである。
この意見に対しては日本側から次々に反論の声が上がったが、議長は直接対決させることなく発言権に従って指名した。「教範どおり」の夏氏の発言で注目すべきは、依然として「日本国民も被害者だ」とする発想だが、これが未だに通用するのはそれに応じる日本人がいるからであり実に情けない。速やかに打破すべきである。
次に阿久津氏が朝鮮半島での米朝関係について発言、続いて李秀石女史が潮氏の発表に対して次のように発言した。
(1) (潮氏は)10年も前の状況で現状を分析している。例えば歴代日本首相のお詫びには(中国は)申し立てはしていない。(我々は)小泉首相に対して言っているのである。靖国には内戦の死者は僅か0・46%しか祭られていない。中国に対する侵略時代のものが祭られている。1870年から1945年まで中国は被害を受けた。
(2) これは第三者が干渉する問題ではない。朝日新聞の論評を使っていると言うが他の資料も使っている。東京裁判の異議申し立ては、国際信義に関するもので認められない。
これに対して潮氏は「内戦の死者が少ないのは中国と違って日本は内戦が少ないからである」と反撃するに留めた。
続いて郭・編集室主任が、北朝鮮の核問題について、
(1) 北の戦後の政治体制を変えなければ改善は無い。北の社会体制に注目すると、権益を守るために全力で体制を守る可能性がある。つまり暴発の可能性を想定したほうが良い。
(2) 戦後政治路線に別れを告げさせようとすると、それには米国の対北敵視政策を止めさせることである。中国と日本が米に圧力をかけて進展を図るべきである、と北側を弁護する発言をした。
沈教授は川村氏に対して、北への米国の外科手術(軍事力行使)の可能性について質問し、
(1) 軍の指揮権は大統領にあること。例えば朝鮮戦争では、核使用についてトルーマンマッカーサーの対立を例に上げて、中国は核を持っている。故に北の核を止めさせることは極めて困難である。
(2) 中日米は、連携して北と話し合いを続けるべきで、北の不安を消す努力が必要。
(3) 米が北に核攻撃をすれば、米は確実に核攻撃を受けるだろう。日本のシンクタンクは米側のことを信用しすぎてはならない。さもなくば第2次世界大戦の被害の再現を招くだろう。
(4) 北に軽水炉を提供し、プルトニウムの管理を厳しくする事が大事。
(5) 潮氏の提案は同僚(我々?)に刺激的だった。そのような意見を必要としている。討論も良いが重要なのは態度であろう。立場を変えて考えて欲しい。中国が日本を・・・と考えて欲しい。
聊か核保有国としての奢りを感じたが、米国の実力を軽視してはいないか?靖国問題については、確かに「刺激的」だったろうが、日本側こそ中国共産党の「被害者」であることを忘れてもらっては困る。彼らは「その責任者」を敬って?いるではないか!極めてご都合主義な意見である。
続いて陳・陸軍大佐が阿久津発言に対して質問した。
(1) 日米同盟強化は米韓同盟弱体ではない。2+2は共通の戦略目標に加えられた。米韓同盟は指揮系統の変化であり、再編に伴うものである。
(2) 外科手術的可能性は何時までも残っている。米国の先制攻撃の可能性に韓国は不満を持っている。
(3) 北が核を保有しているか?
吉崎氏は経済専門家らしく、ビジネスマンの観点から実に冷静かつ説得力ある解説を行った。中国側は聞き入っていたが、楊副所長が吉崎氏の「名刺」を取り出して確認していたのが印象的だった。
鈴木女史は北京の「抗日記念館」見学所見を述べ、中国側から見た「日中戦争観」が窺えたことを述べ、フランス留学時にフランス側の対ヒトラー観が、実に公正で示唆に富んでいたことを挙げ、日中間においても「毛沢東は戦後日本軍の功績を認めた」のであるから、どうして中国にフランスのような発想が無いのか?と疑問を呈したのが面白かった。
中国側が誰も発言しなかったのは、フランス人の発想が理解できなかったからか、真っ向から反対であるのか、いずれにせよ、日本側との会合で、このような「提言」が今まで全くなかったのではないか?と思った。ついでだが、鈴木女史が北京で「天安門事件」の事を持ち出したとき、一斉に沈黙が走ったのが印象的だった。きっと教えられていないのか?緘口令が引かれているからだろう。
続いて阿久津氏が質問に回答し、沈教授が、≪鈴木女史の質問に答えて「どうしたら北の核を放棄させられるか」について発言≫(≪≫の部分を1部修正しました)、2002年2月に開発を認めたのに、今は認められないと言う。北の提案を認めてみれば良いではないか、そうしなければ米国も北も共に降りなければならない、という。
最後に潮氏が中国側の質問に纏めて回答した。A,B,C級戦犯の分類から始まり、靖国問題の根源にあるもの、東京裁判の無効性など、ディベートの大家らしく実に「理路整然」としていて、時々「野次?」が飛んだものの、明快に(少なくとも日本人には!)説明したが、「公式」には反日で凝り固まっていなければならない立場にある?彼らには、聊か理解困難だったかもしれない。しかし、良い刺激になったことは確かである。
こうして12時に午前の部は終了した。            (続く)