軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記21「蘇州会議その10」

 10時50分から呉寄南氏の司会のもと、総合討議が始まった。
まず楊少将が次のように述べた。
1、 金田案とその構想を聞き、日中間の海軍のギャップは乗り越えられると感じた。通信は全く問題ない。
2、 政治関係は、近い内には中々克服できないだろう。
3、 日本は中国を「マハニズム」を追求していると思っているが受け容れられない。
4、 日米同盟は米国が日本を守る面がある事を認識すべきである。
5、 双方の緊張を解いていくことは必須である。しかし両国海軍間のホットラインは実施しにくい。両国首脳間のホットラインがないからであり、首脳、外交の次が軍であろう。しかし、技術面の協力は可能である。
6、 対処療法よりも政治の指導が必要である。
 これに対して金田氏は「中国はもう少し気楽に考えるべきだ。日ロ関係は必ずしも密接ではないが『日ロ間の海上間の偶発事故防止協定』は成立している」と反論した。
 沈教授は「核問題は各国の理想図に過ぎない。安全保障は相互的なもので、6者協議があるなしに関わらず必要である。(個人的意見だがと断りながら)6者協議が成功すれば、地域の発展に貢献するが、失敗すれば、中日両国は責任を持って意見交換の場を持つべきである」。
 潮氏は「日本の“平和憲法”の改定が必須。自衛隊は万一中国が攻撃されても援助できない。双方の民衆を抑えきれなくなる。だから対話継続を希望する」と斬新な意見を述べた。
 李女史は、相変わらず「海上自衛隊のDDH・・・などの艦艇呼称がマヤカシだ」といったので金田氏が“解説”、吉崎氏は、民間人から見た海の認識として、「海賊はさほど怖くない。保険があるからである。海賊に襲われた船会社は保険金の支払いを受け、保険会社は船会社から保険料を取る。海賊がいるから保険会社が潤うのであり保険が成り立つからである。ルートが伸びてもさほど影響はない。せいぜい5%の値上げ程度だろう。ただしハイテク製品の場合は困る。ジャストインタイムに基いているからである。一番恐ろしいのは『不確実性』である。例えば台湾海峡危機のため、保険がかけられなくなることである。保険金は例えば株式で値段が決まる」と明快な「資本主義ルール」を解説したが、共産主義国家の関係者に理解できただろうか?
 陳舟研究員は、「中日関係は厳しい関係にある。両国政府のみならず、国民レベルにも関わっている。歴史問題にかこつけて安保問題に解決は難しい。新指導者(胡錦濤)の合法性、指導性を日本側に是非理解して欲しい。反日デモについては学生たちに日中間の重要性を説明した。軍人、学者は改善の強い願望を持っている。
1、 現状改善を積極的に
2、 辛抱強く(例えば米ソ間のキューバ危機のときのように)
3、 不測事態解決のため、対話メカニズムが必要。合意未達成でも暫定合意でも良い。特に東シナ海でこの分野の拡張を図るべきである」と若いだけあって実に前向きな見解を述べた。
 鈴木女史は「対話から実行へ。米ソ間で出来た事がどうして日中間に出来ないのか。軍事のみならず、他の災害など危険要素はたくさんある。例えば日本には大地震、中国には医療、貧富の差解消、教育などがあるではないか」と具体的な提言をした。
 陳・米国研究室主任は、「二つの質問をしたい。大国間の戦略対話が進められていない。中米戦略対話のおかげで、中国認識が段階的に高まった。相手国の発展の意図について、大きな成果があった。これについて日本はどう思っているのか。米国が日中間対立の調停者を務められると考えられるが日本側はどう考えるのか?」
 張・中央アジア研究所副主任は、「1、政冷経熱について、台湾の学者も今では良好な状態は保てると考えている。しかし、日中両国関係は政治関係改善が重要、いつかは悪影響が出る。中国と米、西欧、韓との関係は政治関係が良くなってから好転した。正式国交樹立間はそれほど盛んではなかった。日中間の関係を何とかよくしなければ・・・と思っている。
2、 マハニズムについて、これは本質的には帝国主義論である。中国は本質的には大陸国である。海を重視してはいるが、コントロールしたいとは考えていない。地政学的に完全なる海洋国にはなり得ない」と、実に進歩的な見解を披露した。
 これらに対して川村団長が代表して概略回答、吉崎氏が「ゼーリック演説は米中間のベストな内容だ。政冷経熱については、例えばEUの例を挙げ、マルキストではないが経済が政治を規定すると思っている」と補足発言し、金田氏は「ブッシュ政権は台中戦略を決めた。中国を取り込むが軍事的には警戒を怠らない」など、ラムズフェルド発言やライス発言を挙げて補足、11時45分から、総括に入った。
 まず川村団長が大意「中日間の考え方の違いを知り、ギャップを埋めるための理解が、ある程度得られたと思う」と述べ、呉寄南氏は「東アジア全般情勢に関する意見を総括、靖国問題、台湾問題などは難しい。各分野には共通の戦略的利益があり、一致しているところもある。例えば、東アジア地域の安全、安定を目指したいこと、半島問題、テロ対策である。具体的分野での協力の余地もある。相互理解のため、互いに受け入れるべき必要がある。対立や歴史的わだかまりもありながら、周恩来は『小異を捨てて大同につく』といった。この会議も5年経った。次の5年を目指して行きたい」と締めくくった。
 全ての計画が滞りなく終了し、昼食会は賑やかであった。急ぎ北京に帰る楊少将との再会を約して分かれた。          (続く)