軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中国漫遊記14「蘇州会議その3」

昼食を12時45分で切り上げて、ホテルの傍にある「啓園(俗称・席家花園)」と言う康熙帝ゆかりの公園を見学することになった。あいにくの雨模様の中、一行は傘をさして啓園に向かった。ここ東山賓館は、有名な「太湖」に突き出した半島に設けられている広大な高級リゾートホテルで、党の高級幹部が利用するところだという。
入園料は30元、国問研が負担してくれた。午前中の会議の延長場面もあったが、互いに意見を確認しあう絶好のひと時であった。そこで即席で一句!
「我遊蘇州東山宿 太湖冷雨友情温」(我レ蘇州東山ノ宿ニ遊ブ、太湖ハ冷雨友情ハ温マル)
 
30分遅れの14時から川村団長の司会で第2セッション「東アジア情勢と台湾問題」が始まり、楊少将が次のようにレポートした。
1、 台湾問題は中国の内政問題だが、東アジアに重大な影響を及ぼす。中国政府の態度は明確だから省略するが、日本の態度は、a、受身から進んで介入へ。b、曖昧政策から明白な戦略確立へ。c、相撲でいえば幕下から幕内へ、と変化した。そこで質問したい。
  A 台湾の平和的統一を日本は歓迎するか?NOであるならその原因は?
  B 日米同盟が如何に強固になっても中国は「反国家分裂法」で動くが、それを阻止出来るか?
C 海峡地域の安定を保つためにどういう方法があるか?
2、 政治家は国民の意思に従う。しかし、それを利用している。

続いて金田氏が「中国の軍事力増強」について意見を述べ、夏・戦略研究室主任は次のように述べた。
1、 東アジアの安全保障の調整について、大国同士の関係は調整中だが、不安定要素も残っている。
2、 冷戦後、大国同士の協力が見られる。例えば6者協議である。中米関係は安定しているが、日本のマスコミはギクシャクという。しかし発展は大きいと見ている。東アジアの中日関係が問題で不安定である。
3、 東アジアの特徴
A  ホットスポットが悪化する恐れもあるが、コントロール出来る状態にある。
B 台湾海峡問題についても、コントロール出来る状態にある。
4、 東アジアの一体感は進んではいるが、域内国益が一緒になっている感じがする。中韓は日本との貿易が大きい国である。東アジア共同体を推進すべきである。
5、 日中関係について
A 歴史的なチャンスに直面している。チャレンジ?は非理性的ナショナリズムが台頭していること、両国は相手を大国として受け入れるべきである。
B 御互いに敵とみなせば敵になるが、友とみなせば重要な友人となる。
 C 日本は中日関係に対して理性的に賢明な方針を取るべきである。
6、 台湾問題について
 A 東アジアの経済の一体化が進み、台湾の大陸との一体化も進んでいる。
 B 台湾海峡問題は、今年は若干緩和された。しかし悪化の懸念はある。それは陳水篇の独立願望があるからである。
 C 台湾問題について、日中間での不愉快な問題があったが、両国の国益に合致しない。
  
続いて経済専門家の吉崎氏が、「軍人は命令で動かざるを得ないのであって、エコノミストの立場とは違う」という面白い観点から意見を述べた。

4名の意見発表が終わると、コメンテーターがそれぞれ次のように発言した。まず、陳・米国研究室主任は、
A 日本は中台有事に介入するとすれば、主導権は日本ではなくアメリカだろう。中国は理性的責任を果たす必要がある。米国も日本も中国の軍事力近代化について注目しているが、透明度、意図に関心を持っている。中国はもっと透明度確保に努力していくべきである。
B 中国のエネルギー問題は、探索し、安定的供給を図った。今は主なエネルギー政策として「節約」を掲げ節約効果は向上しているが石炭の活用も計るべきである。
  郭・編集室主任は、台湾問題について、東アジアの安定に関する注目すべき問題だがこれは中国の問題である。陳水篇が独立日程を示したから緊張が高まり、中国は「反国家分裂法」を採択したのである。「分裂法」は止むを得ない選択であった。
 明るい話題としては、国民党、親民党との交流が良い雰囲気を醸成したことである。
  両岸問題は、正に分岐点にある。日本は台湾問題の平和的解決を望んでいると言った。台湾独立勢力に間違ったシグナルを出すべきではない。日本の一連の台湾政策には戸惑いを覚える。
 
最後に阿久津氏が「日中間の協力の余地」について、どんな分野でそれが可能か?と夏氏に質問、15分間の休憩に入った。
 
このセッションで興味ある点は、楊少将の台湾問題に関する日本の態度に関する疑問点、ならびに質問であろう。「政治家は国民の意思に従う」とは、果たして中国政府に適用できるか否かは不明だが、少なくとも戦略研究所長としては、台湾侵攻作戦の軍事的「シミュレーション」を終わっていると見た。そして、その際最も肝心な「妨害」、つまり米軍の介入、日本の対応が「ブランク」なのであろう。
又、若い陳・米国研究室長の発言は極めて興味深い。通訳が間違えていなければ、彼の発言は、自国政府にも公正な努力を求めているのであって、特に「軍事力近代化」努力に、「透明度の確保努力が必要」と言ったのには感心した。             (続く)