軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

上海会議・その6

「中国製餃子で食中毒」というタイトルが「毒入りギョーザ事件」になった。中国紙は「日本は大げさに報道している」と目をむき、ネットでは「中国食品を悪者にするのは中国の発展への嫉妬だ」「小日本を毒殺しろ」と言った感情論が出ているという。だから戦争はなくならない!
兵庫県の事件で「家族3人が食べたギョーザのパッケージやトレイに小さな穴が開いていた」というから、「毒物混入は人為的」と産経は報じた。氾濫する報道から、生産工場で解雇された従業員の何人かが“報復目的”で混入したことが想像されるが、産経が主張したように問われるのは「食の危機管理」である。産経は「中国製食品がなくなったら、日本の食生活が成り立たないのも現実である」と書くが、油が断たれたらこの国は立ち行かないことは、小学生でも知っている。だから中近東で紛争が起きると、なりふり構わず「油乞い」に大臣が出かけるのである。売り手優位だから相手の言いなり、黙って従うほかはない。平等な外交交渉が成り立つわけはない。
1990年8月、フセインに攻め込まれて“瀕死状態”だったクウェートに、正義の旗を掲げた米国を中心にした多国籍軍が介入しクウェートを救ったが、軍事力行使が出来ないわが国は130億$もの税金を使ってこれを支援した。しかしクウェートからは感謝されなかったばかりか、北京オリンピック出場をかけたハンドボールの試合では、「クウェートの笛」によって見事な返り討ちにあった。これが国際関係の現実であり、「四方の海みな同胞・・・」と思うのは日本だけである!
 今回の事件は、多分、中国の工場の雇用関係に不満を持つ一部の労働者が起こした“事件”なのだろうが、我が国が「食糧の安全保障」を考慮していなかった付けはあまりに大きかった。
 近在のスーパーを廻って見たが、中国製冷凍食品はほぼ皆無、同様な製品は半額セールだったが殆ど買い手がいなかった。にんにくも、鰻も売れ残りが目立つ。めがねを出して念入りにラベルを見る主婦が目立ったが、遅まきながら「自衛」を始めたらしい。
 月刊誌「テーミス」2月号には、「天安門事件再発か」「中国から日本企業が撤収する日が来た」「本社には実態を隠しているが進出企業の大半は赤字だ。何故監査役は見抜けないのか」とある。中国での赤字をヴェトナムなどの黒字で補填しているらしいが、今年もまた「偽」が通用するらしい。 中国から日本企業が撤収すれば、雇用されている1000万人が失業する。多少手当ては高かろうと、日本に戻って真面目な青年達に「夢と希望」を与えたらどうか?
「8月には中国の独占禁止法『反壟断法』が 試行される。『国内企業の利益に反する』と、都合よく外資企業を追い出す可能性も出てきた」とテーミスは書いた。今回の“事件”も、かの国は日本が悪いというに違いない。そんな国が主催するオリンピック開会式に、皇太子ご夫妻がご出席なさる?という。お止めになることをお勧めしたい。
 前任者達の「無策のツケ」を一身に払っている舛添厚労相はまことにお気の毒だが、踏ん張って欲しいものである。未だに「南京大虐殺」の看板を下ろさない中国が簡単に謝罪する筈はないが、在北京日本大使館の宮本大使よ、オリンピック参加を始め、かの国にある工場の整理をちらつかせたらどうだ?その前に福田総理の決心やいかに?

さて、今日も長くなるが、昨日に続いて上海会議を続けよう。

 K研究員は『人民解放軍の透明性』について、「最近透明度は上がってきている。果たしてどれぐらいが透明なのか?周りの安全環境に心配があれば、ガラス張りの家は建てないだろう。中国の透明性が進む環境を周辺国も作って欲しい。米国は透明性が高いが、それは抑止力としているからである。中国は自信を持てないから、弱点を隠したいというところもある。中国は宇宙戦争阻止の狙いがあり努力してきた。この実験は台湾独立阻止に対するもので、一つの抑止力になり、戦争のリスクを減らすものになる。米国の宇宙平和利用を真剣に考えるよう促す意図もあった」と述べた。
 T氏は「軍事費の増大について、歴史的角度から見るべきで、中国は過去に遅れを取っていた。80〜90年代には、中国の女性は軍人の嫁にはなりたがらなかったし、青年も軍人になりたがらなかった。兵隊の食事に一日卵を一つづつ増やし、昨年給料を大幅アップした。制服も改良したがこれに60億元要した。再び軍人の給料が大幅に上がる予定で、これは過去の空白を埋めているのである」と興味ある発言をした。
 確かに一昨年の6月ごろ、軍人の給与が一斉に倍増したそうで、今後も上がるとすれば、官僚や民間との摩擦も起きかねないだろう。要注目!である。
 吉崎氏が、指摘された経済問題について答え、潮氏が中国のハッカー問題、上海空港の空域制限問題など、未だに透明性に欠けることを指摘、武貞氏が透明性について、中国は「武器輸出分野では、例えばパキスタンミャンマー(レーダー施設輸出)、北朝鮮への雄ミサイル協力など、国際的に非協力的であること。それに対して日本は武器輸出三原則で厳格に守っていること」を述べた。
 金田氏も透明性について「東アジアの軍事力バランスをいうと、日本は悪い軍事力、中国は良い軍事力的発言が多い」と指摘、鈴木女史も「衛星破壊事件は宇宙ごみを大量に発生させたが、これは環境破壊の最たるもの。中国の産業スパイの活動も問題だ」と指摘した。
 K氏が[中国軍の近代化の必要性は一に台湾問題にあり、これはハイリスクに当たる。中国は軍事的備えをする。米国は台湾防衛にプラスであるから、そこでそれに対しても勘案する。日本は米国に協力しないほうが良い]と言った。
 台湾問題は彼らのアキレス腱、日米が台湾に“加勢”すると公言したらどうする気だろう?最もわが政府にそんな勇気はなかろうが。
 最後にY女史が、私の質問に答える形で次のように発言した。
「民主主義と社会主義は対立的観念ではない。社会主義であっても民主主義を発展させることは出来るしその方策を探っている。中国の国情に合った職能もはっきりしてきた。
 中央と地方の問題だが、地方の自治権がますます増大している。これは民主化に繋がるから良いことでもある。50の省設立案も出たことがある。検討したが、地方自治にはなっても、連邦制にはならない。しかし、自治権は確実に強化されるだろう。
 台湾に対する軍事力強化は必要だろう。ピースキーピングも含めて、近代化軍は必要である。インドシナ津波に貢献できなかった反省から、中国も軍艦を増強する」
 Y女史の発言には意味慎重なものがあると思われる。国家体制のあり方についての迷い?が感じられる。巨大な人口と多民族国家の持つ共通の悩みであろうが、北京で私の台湾問題発言に答えた現役の陸軍少将が「台湾独立は、ウイグルチベット、モンゴルに混乱を招く」と思わず本音?を強調したことに見られるように、来年3月に迫った台湾総統選と、8月のオリンピックを控え、軍事力行使を含めた対応に党は勿論、軍部も対策に追われていると考えられる。そこで、我日本国がアジアの安定にどんな協力が出来るのか?国内政治を見ている限りでは全く頼りにならないことが残念である。
 時間を超過したが、有益な会議であった。日本側から川村団長が「本音のトークが出来たこと。『核心問題』は台湾問題であろう事。是非平和裏に解決して欲しい」と総括し、中国側からはL室長が「資料とパワーポイントに不具合があったことをお詫びする。相互の軍艦訪問(深セン号)も実現した。大変良いことである。中日間には経済問題もはらんでいる。中日には米国が強力なパートナーである。東シナ海問題では互いに抑えている気持ちがある。中国に早く結論を出せと言うが、主権問題があり難しい。エネルギー協力も重要である。台湾問題については、台湾の国連加入という心配はある。また武力行使も心配している。少し不満はあるが、中国が日本にもっと働きかけをすべきで、日本が中国に平和的解決を求めているのは大きな成果だと思う。
 半島問題では、北の核放棄については、中国は楽観視、日本は悲観視している。放棄させるよう意見を一致すべき。六者協議は米朝関係改善に関心があるが、日中は協力すべき。
 中日間の政治・経済問題では、中日は環境、防衛、経済などで運命共同体である。日本は先進国として、中国は発展途上国だから、協力して共同の利益があることを理解して欲しい。
 激しいディスカッションもあったが、過去7回の会議で一番成果があったと思う。共に平和的発展を求めていきたい」と所感を述べた。
 そして最後にY海軍少将が、中国空母建造は、日本の自衛隊OBとの共同体で、明るい未来が生じた、と昨夜の歓迎夕食会で爆笑を誘った「中国空母建造秘話?」を紹介し、一同笑い声のうちに会議を終了した。

 昼食会も終了し、それぞれ来年の日本での再開を約束して解散したが、午後は、上海市内見学、夜は黄浦江の遊覧観光夕食会が設定されていた。

戦争の歴史・日本と中国―こんなに違う、日中の戦争観!

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月刊 日本 2008年 02月号 [雑誌]

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