軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

「慎みある皇位継承論議を・・・」

今朝の産経新聞の「正論」欄に市村真一・京大名誉教授が、「慎みある皇位継承論議を切望する」と題して、世襲君主制が抱える「長所」と「弱点」について見事に分析している。
長所は①君主は国家を象徴的に具現し国民統合を容易にする。②君主制は政治家の権力欲を制御する。③君主制は外交の連続性を保つ。④君主は重要な政治的調整力の役割を果たす。⑤君主制は義務をわきまえた官僚の効率よい行政の優れた基盤となる。⑥君主制下の軍隊は将校団を中心とし自然な団結と忠誠心を保持しやすい。⑦君主は長い歴史と文化的伝統に支えられて国民の情緒と道徳と文化の支柱となる。
そして弱点は「継続を必要とし、皇統の分裂を避けねばならぬこと」であり、「世襲制の下で王位の継承者が無くなることは、何としても克服せねばならない。その際、君主制の長所、特に①と②と⑦の維持には知恵を絞らねばならない」。
そして「わが国の皇位継承問題の克服には、①女帝を仰ぐ用意をする。②女性の皇族に婚姻後も臣籍に降下されず、宮家を創立される道を開く。③終戦時に臣籍降下された皇族復帰の道を開く・・・の三方策について検討しなければならない。政府の『有識者会議』の提言には③についての所見がない。これに対して一部の論者は、『男系の男子』の原則維持を主張される。現状ではそれは③の主張に他ならない。この点を巡って、国の前途を憂える方々の間の意見の相違が対立にならぬよう、政府も拙速に結論を出さず、論者も激越な表現や運動を謹んで、互いに考えを深め一致点を見つけて欲しい」という論旨には全く同感である。更に「皇位継承者が皇族から選ばれねば、日本道徳の根幹である『君臣の別』が立たないことだ。これが道鏡事件の際の和気清麻呂公の考えでもあった」という点に注目したい。これが先日私がブログに書いた「王室が廃止された国に、不思議と独裁者が生まれている」という私の危惧の原点である。
市村教授は、一部の「男系男子の原則」を主張する論者にも、「意見の相違が対立にならぬよう」説いているが、それは「有識者会議のメンバー」が如何にも国民の意思から遊離したメンバー、つまり「偏った思想の持ち主達」で構成されている、という不信感がぬぐえないこととも無関係ではあるまい。もう一つ国民に大きな不信感を与えたのが、「改革に熱心な」小泉首相自身が、「女系と女帝」の区別が全くついていないことを、図らずも記者会見で暴露したことであろう。
先日産経新聞に、首相が皇室の「お祭り」が密室で行われていることに「不信感?」を示し、側近に語った言葉が報道されたが、私は昨年この情報を知り、「まさか!」と思っていた。拙速で「皇室改革」を持ち出した背景に、この様な「単純な思想」があったのだとしたら、後世に禍根を残す「平成の朝敵」になることは間違いない。万一、首相が「郵政改革程度の感覚」で、この問題を進めているとしたら言語道断である。
市村教授が提言したように、まず「皇室会議を中心とする制度整備」を図るべきで、それからでも遅くはあるまい。
それよりも、急変しつつある国際情勢対処の方が、9月に交代を前提としている現政権にとっては最優先である。
最近の政情を見ていると、小泉政権にとって、いよいよ逆風が吹き始めた感がある。過去の首相たちがやり遂げられなかった数々の「改革」を断行した小泉政権の、特に防衛問題に関する「改革」の成果を私は評価してきたのだが、「反対勢力排除」に熱心な余り、ホリエモンの如き「虚業家」を見抜けなかったこと、おそらく政治家と官僚の癒着問題が浮上するであろう耐震設計偽装問題の取り扱い方が不明朗なこと、その上BSE問題をめぐる閣内不一致、防衛施設庁のスキャンダル、ヤマハ発動機陸上自衛隊のミサイル秘文書流出問題などが急浮上してきた。まさか「反対勢力の最後の抵抗」だとは思いたくないが、拉致被害者救助問題でも、誰もなしえなかった「訪朝」を実行し、相手に「拉致の事実を認めさせた」成果をあげたにもかかわらず、国民の「生命を守る」と叫ぶ割には、その後一向にこの問題解決に邁進しない不思議な姿勢が指摘され続けている。
反対勢力排除に一応成功した今日、やるべきことは「本来の保守本流たる自民党」を取り戻し、一刻も早く国内政治を安定させることであろう。たまたま、ライバルとなるべき「野党勢力」が欠落していた幸運はあったが、これからが正念場である。
中近東には、恐ろしい暗雲が漂ってきた。米国はハマス対策、イラン対策のほか、国内問題山積で身動きが取れない。その一方太平洋方面では、いよいよ米中の対決が顕在化して来た。その狭間にわが国があることを決して忘れてはならない。
3月から,健闘して来たサマワ陸上自衛隊が撤退を開始する。中国は、直接、間接にわが国「工作」を進めている。朝鮮半島も激動が予測される。
そんな最中に何を急いで「皇室典範改正」を急ぐ必要があろうか。
今、わが国が抱えている問題の、解決のための優先順位を的確に判断してもらいたいものである。