軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

基地司令官が泣いた!

鍋物を見るたびに思い出す事がある。湾岸戦争が始まった三沢基地でのことである。
基地売店会が、「青森の銘酒・利き酒大会」を計画、同時に「寄せ鍋大会(一人前1980円)」も始まり「初日に私に出席してほしい」と言ってきた。
そこで私は米軍の指揮官夫妻を招待することにした。たまたま米軍側では、司令官夫人が中心になって、出征兵士を抱える家族を慰労する会が計画されていたらしく、司令官夫人は最初の一時間だけ、という条件で参加してくれることになった。
司令官・レイサム大佐は、元サンダーバーズのリーダーで名パイロットであり、装備部長のホール大佐夫妻は私のよき友人であった。
基地売店の食堂で、「法被」を着せられた我々は、まず利き酒大会に臨んだ。6種類の銘酒のうち私は二種類しか当てる事ができなかったが、彼らは4種類も当てたから、売店会のメンバーや部下達から「司令はそれでも日本人ですか!」といやみを言われた。
食堂の奥の部屋で「寄せ鍋」を挟んで、4人づつ向かい合って座ったが、気が利いた部下が給養小隊の先任下士官に食材の説明から作り方までを説明させたから、彼らは興味津々であった。(不思議なことに津軽弁が彼らに通じたのである!)
宴もたけなわ、司令官夫人は「私はここに残る」と言いだし、副司令官夫人に電話をして出征兵士の家族に対する行事を任せた。
やがて会食も終わりに近づいたので、私がそっと食堂のほうを観察すると、「利き酒大会初日」とあって会場は隊員達で大賑わい。自由時間だから服装もまちまち、利き酒が効いて、メーターが上がっている隊員もいる!
しかし「玄関」までは、そんな盛り上がっている彼らの中を通過しなければならない。
課業時間外の自由なひと時を楽しんでいる隊員達の前に、突然日米の司令官と夫人達が現れて、その中を掻き分けて通るのだから、彼らに緊張感を与えてはならないし、逆に「戦時下」にある米軍司令官夫妻に失礼があっても困る。そこで幹部を呼び「我々が玄関まで移動するのに気がついた隊員達に拍手だけさせるように」とこっそり指示した。
そうして我々8人は部屋を出たのだが、夫人達が熱気溢れる食堂を見て一瞬驚いたとき、何と、隊員達全員が一斉に立ち上がって拍手をしたのである。勿論酒も「鍋料理」もほったらかしたまま・・・。実は私も驚いた・・・。そして感動した。
レイサム大佐が「これはどうしたことか?」と聞いたので、私は「湾岸戦争で頑張っているわが友軍に対し、精一杯の応援をしているのだろう」と答えると、両大佐は大きく手を振って隊員達の拍手に応えた。夫人達もそれを聞いて笑顔で手を振ったから、拍手は一段と激しくなり、「ガンバレー」という声も上がった。
玄関に辿りつくと、レイサム司令官は直立不動で私に対して敬礼し、「この感激は一生忘れない」と言ったがその目には涙が溢れていた。ホール大佐も泣いていた。レイサム夫人は「会食に参加して本当に良かった」と私の両手を握った。
そして4人は司令官車に乗り込むと、「ウインカー」も点けずに帰って行ったのだが、基地内であり道路交通法は適用外、彼が権限を握っているのだから、「酒気帯び運転」には目をつぶることにしたのであった・・・。
翌日彼から丁寧な手紙が届いた。それには「我々4人を湾岸で戦っている40万人の代表として激励してくれた自衛隊員に心から御礼申し上げる」とあった。
招待した4人分の代金は合計7920円!何と安上がりな「日米友好」であったことか!

ところが戦後、出征した米軍人達が湾岸から帰国することになった時である。
輸送機が不足していたので横田に着いた彼らは、羽田から民間機に乗って三沢に帰還したのだが、私は他用で忙しかったので、副司令を代表に出迎えのため空港に派遣した。以下、副司令の報告要旨。
三沢空港の到着ロビーには米軍の部隊が軍旗を持って家族達と共に出迎えていた。ところが便が到着するや、まず日本人の若いスキーヤー達がアベックで大勢出てきて、整列する米軍の部隊と家族達の前にあふれ出した。そして「アメちゃんたち何してんの、邪魔よ」と言った。すると米軍は「部隊旗」をたたみ列を解散して「日本人観光客たち」のご到着を優先させた。
その後、帰還兵士が現れると、家族達との感動的な場面が展開されたのだが、日本人たちの傲慢無礼な態度には恥ずかしさを通りこして怒りが爆発した。しかも日米とも同じ年頃の青年達である。それが片や戦争、片やスキーではないか!」
激怒した副司令は、空港長になぜ場所を確保して到着行事を優先させないのか、と抗議したそうだが、そんな意識は微塵も感じられなかったという。
これが日米同盟の「隠された真実」の一端である。

* ≪行事御案内≫

1、 2月24日(金) 1830〜  UIゼンセン会館2階大会議室 JR/地下鉄「市ヶ谷駅」すぐ
講演(というよりも作戦会議):「自衛隊による拉致被害者救出のシミュレーション」
参加費:一般¥2000
主催: 戦略情報研究所(03-5684-5096)

2、2月25日(土) 1330〜  九段会館  地下鉄「九段下駅」徒歩2分
  桜林美佐(日本文化チャンネル「桜」キャスター)=「 ひとり語りの会 」
  「日本流行歌(はやりうた)の黎明」
幕末、オランダからやってきた洋楽のテンポに、戸惑う海軍伝習所の武士達の姿から日清、日露そして大東亜戦争までを、国民の愛唱歌と講談で綴る
・・・ピアノ演奏:飯塚彰子
  「信太山靴店
   陰陽師安倍晴明の母、「蔦の葉伝説」の地、大阪・信太山には陸軍野砲兵第4連隊が駐屯していた。大陸で戦う兵士達の前に、信太の狐が現れて・・・。

  ゲスト:元空将 佐藤 守:特別講話「中国空軍誕生秘話」

  御一人様3000円(珈琲または紅茶、お菓子付)
  参加ご希望の方は 090−2735-5528 
またはE−mail:roudokukai_kudan.2665@docomo.ne.jp まで

3、2月26日(日) 1800〜   アルカディア市ヶ谷(私学会館)3階・富士の間
  JR/地下鉄:市ヶ谷駅より徒歩3分

  台湾2・28革命59周年記念大講演会「徹底討論!台湾防衛―軍事的観点から」

  問題提起:台湾の現状分析―対日米中関係・・・・・・永山英樹台湾研究フォーラム会長)
  講演 「航空作戦の様相」・・・・・・佐藤 守(元空将)
     「海上作戦の様相」・・・・・・川村純彦(元海将補)
     「陸上作戦の様相」・・・・・・松村 劭(元陸将補)
  司会  金美齢台湾総督府顧問)。柚原正敬日本李登輝友の会事務局長)・・〔予定〕
  会費:¥1000