軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

バック、ツー、ベーシック(基本に戻れ)

飛行教育では、学生の進度が止まったり、成果が挙がらなくなると、教官は『バック、ツー、ベーシック』と指導する。つまり、もう一度基本からやり直せ、という意味である。初期の学生が一番苦労するのが「着陸」なのだが、生まれて初めて地面から飛びあがる前に、基本教範を読み、操縦教範を熟読し、そのうえで教官からの指導を受けて、懸命に「頭の中」に、その場面を描き出す。いわゆる「イメージトレーニング」である。
操縦席の高さから見た地面の浮きあがり方をイメージする為に、地上に並んでいる機体のコックピットに入って、その『状景』を目に焼き付ける。勿論操縦桿や、計器類の操作についても色々と『想像』する。しかし、一番大切なのは、いかにコンピューターが発達していても、最後は自分の目で確かめる事になるのだから、目から入る情報が一番頼りになるのである。
こうして教官のデモンストレーションを経て、自分の力で着陸を試みる。何回も何回も繰り返して、教官が『合格』と判定して、はじめて「ソロ(単独飛行)」に出発する。
初めて大空に浮かび上がった快感は例え様がない。私も駿河湾上空で『万歳!』と叫んだものである。
こうして自信がついて、難なく訓練を続ける事になるのだが、航空自衛隊パイロットは、離着陸が出来るだけではものになったとは言えないから、編隊飛行や、空中戦へと訓練は進んでいく。やがて空中射撃が始まると、標的上の弾痕から自分の成績は一目瞭然となるから、成績が悪いと焦りが出てくる。そうなると、つい他の事がおろそかになるから、最も基本的な着陸操作が『乱れて』危険になる。そんな時、教官は『基本に戻れ!』と指導するのである。そこで学生は、最初に苦労した『着陸操作』の教範を改めて読み返し、再び勘を取り戻して復帰する。

 さて、日米首脳会談の日程が6月29日に決まったようである。産経新聞によると『内外に良好関係アピール』というが、日米共に大きな課題を抱えている時期である。二国間のみならず、世界中、特に共産圏のロシアと中国は注目しているであろう。
中国は、台湾問題で軍事力の整備を急いでいるが、一番気になっているのが、日米軍事協力、つまり、「米軍再編計画と、それに伴う自衛隊の改変問題」であろう。この問題がどう進むかは、ひとり「周辺諸国」のみならず、我国にとって重要な問題である事を忘れてはなるまい。
日米安全保障条約は、過去1度だけ改定されたが、その後は微修正で済んできた。しかしこれからはそうは行くまい。21世紀の大変化を見通した日米間の軍事協力体制が始まる、と理解すべきであろう。そこで気になる事は、もう一度我々は「バック、ツー、ベーシック」、要するに、占領下を離れて、主権を回復した、サンフランシスコ条約締結時の『精神』に立ちかえって、今後の日米関係のあり方について見直してみる必要があるのではなかろうか?
「屋上屋を重ね」つづけて来た弊害が、ヘドロのようにこびりついている様に思えなくもない。
あの不名誉な「占領状態」から、1日も早く自由になり、日本人としての誇りを取り戻そうと努力した、先人達の心意気を学ぶのは決して無駄ではないと思うのだが…。
このあたりで、静かに『基本に戻って』見ると、案外、将来の進路が開けてくるかもしれない。