軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

中台紛争に備えよ

早速原稿依頼が来て、表記の題を送稿したばかりである。
昨日、台湾の友人(といっても元大学教授なのだが)から「台湾は大変です。国民党にしてやられました。私たちは“特務”の怖さを忘れていました」といってきた。つまり、国民党の最大の武器である「情報機関」の怖さを忘れていた、というのである。台湾の人々は、李登輝氏に代表されるように、誠実な方々が多い。抑圧されてきた台湾人の代表として、民進党陳水扁氏が総統に就任したことで、「これで二度と“非民主主義政治”には戻れない」と安心したと元教授はいうのである。つまり、自由を獲得した喜びに「浮かれていた」のであろう。
その後、陳水扁氏は確かに民主主義を定着させようと努力したが、政権集団は、いわば“素人集団”だったから、手練手管を駆使した国民党に、再び政権奪取されかかっている、と分析できる。もちろんその背後には大陸の共産政権の“絶大な支援”があることは明白である。
この熾烈な紛争は、中台2国間の戦いに留まらない、ということを、今の日本人が忘れているということが、私には不安でならないのである。
元教授は、「2008年が危ない」と慨嘆した。現地ではそれほどの危機感を持っている人が多いらしい。
そこで私は勝手に想像するのだが、大陸の政権が、各地で頻発している「人権」「貧富の差」「党員の汚職」「自治区独立運動」・・・などに対する、「目くらまし」強権を発動する時が来ないとは限らない、ということである。
その代表的な例として「台湾問題」があると考えている。つまり、「台湾独立」という命題は、これをひとたび認めれば、周辺各地に飛び火して、大陸は収拾がつかなくなる恐れがあるから、共産党政権にとっては絶対に「台湾独立」を認めてはならないのである。
そこで大陸側は、台湾の野党である「国民党」に工作して、“合法的”に“統一”しようとする。その工作がほぼ成功しつつあるという認識が台湾国民の間に広がっているのであろう。選挙という「合法的」手段による政権交代である以上、米国は手出しが出来ない。

ところで2008年の総選挙で、仮に民進党政権の持続が決まった場合にはどう出るか?大陸側は、手をこまねいているだろうか?
現在は静かになったが、以前劉亜州中将や朱成虎少将が、米国に核を撃ち込む・・・などという過激な発言をして物議をかもしたことがあったように、軍部が相当抵抗するに違いない。台湾独立をおめおめと認めては、軍の存在意義がないことになるからである。
胡錦濤政権はそれを押しとどめることが出来るであろうか?
規模は定かでないが、台湾に対する何らかの軍事力行使の公算が高い、と見て、それに備えておくことが必要ではなかろうか?

今回の原稿は、大体そんな程度の内容の文であったのだが、今朝の産経新聞の7面には、「陳政権に野党包囲網」のタイトルで、「醜聞が相次ぎ暴露される台湾の陳水扁総統に対し、野党の辞任圧力が強まっている」が、陳政権は野党の攻勢に対し、「広がる不信感を食い止める策を打ち出せないでいる」という。
他方、第4面には、大塚記者が、「中国の海洋調査問題」を取り上げて、中国は「台湾にらみ情報収集」活動を活発化させている、と書いている。
防衛庁もこの中国の活発な活動が「公海上」であり、「法的に問題ない」から、公表していないらしいが、「台湾有事に備え、米海軍部隊の航路帯で潜水艦運用に必要なデータを収集していると見て、警戒監視を続けている」という。
私は、「台湾の政権」と、「大陸の政権」の、どちらが先に崩壊を始めるか?と興味深々なのだが、当事者にとっては容易ならざる問題であるに違いない。
せめてわが政府は、「警戒監視」行動にとどめず、実効性ある対策を講じておくべきだと思うのだが、先日のNHKの長時間にわたる「討論番組」のような、どこかピントが外れた、防衛問題番組が、平然と放映される国柄である以上、あまり悲観的に物事を捉えても意味がないのかもしれない。
しかし、着実に「台湾海峡危機」は迫っているのである。起きてからでは遅いし、出費も莫大なものになろう。ごまめの歯軋りに過ぎないかもしれないが、今から備えておくべきだと声を大にして言っておきたい。