軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

拉致問題シンポジウム

 昨日は午後7時から、町田市市民ホールで開催された『救出してみせる!』…北朝鮮による拉致シンポジウム…に出席した。ほとんどがボランティアの市民有志による「町田市民の会」主催で、パネリストは民主党衆院議員・松原仁氏、拉致被害者家族連絡協議会事務局長・増元照明氏、それに私の3人、コーディネーターは、拓大教授で特定失踪者問題調査会代表・荒木和博氏であった。ディスカッションは午後7時から8時15分までという限られた時間だったから、存分に意見交換できたわけではないが、3人のパネラーと荒木氏の論点は、要点を衝くもので、連休中日であるにもかかわらず、ホールがほぼ満席になる800人以上もの聴衆に、北朝鮮の極悪非道な行為を理解してもらい、その解決に挙国一致して立ち上がるべし、という主張をご理解いただけたものと思う。
 私は、日比谷公会堂で開かれた拉致被害者家族全国大会の第1回から、この種会合に参加させていただいているが、今回特に感じたのは、あの国が「崩壊の危機」に瀕して内部混乱が生じた際、いかにして“わが同胞である被害者たち”を無事救出するか、という、軍事的強硬手段をも含めたシナリオに「それは当然のこと」という反応が会場全体から感じられたことだ。
 以前、荒木氏が主催する研究会で「自衛隊による救出のシナリオ」を担当させられた私は、個人的見解だとして、軍事的「奪還作戦」のシナリオを提示したことがあるが、結論から言えば、拉致被害者を如何に定点に終結させるか、如何に彼ら彼女らに情報伝達出来るか、という、最大の難問が判定不可能なので「現時点では救出不可能」と結論付けざるを得なかったのだが、その際、聴衆から「国民を守るべき自衛隊の能力」について、かなりの「落胆と怒りと失望」の意見が寄せられた。中には「金正日を消せば解決する!それは出来ないのか」という意見さえあったものだ。
 可能性として私は、米軍が核施設破壊のための軍事活動を行うと決心し、半島で行動に出た場合、その「ドサクサ?」にまぎれて米軍と共同して潜入し、奪還作戦を実行することはありえない話ではない、と言ったのだが、今回、北朝鮮は「核実験宣言」をするという、重大な判断ミスをしてしまった。つまり米国に「軍事的行動の口実」を与えてしまったのである。当然米国は、厳重な警戒態勢を敷いているが、必要とあらば目標に対して直ちに「軍事的行動」をとることになろう。
 金正日としては、「宣言」した以上、何らかの実験?をして見せなければならないはずだが、仮に不可能だったら、小泉元首相に対して「拉致行動について部下が勝手にやった」と発言したように、今回も「部下が勝手に宣言したのだから」として言い逃れることは出来よう。しかし、それでは国内は収まりがつくまい。
 では万一「実施」したらどうなるか?米国は直ちに行動に移るに違いない。その作戦目的は、表向き北の核施設の破壊だが、主目的は次に控える「イランに誤った判断」をさせないためである。巷では、「核保有国に対して米国は一度も阻止行動をしたことがない」という「伝説?」を信じた解説が出回っているが、アングロサクソンの「伝統的行動」を見損なっては判断を誤ることになろう。
 仮にそうなった場合、我が国はどうするか?北朝鮮との間での最大の懸案は、拉致問題であり、安倍首相もその解決を公約として掲げている。結局「実力」で救出する方法が生じるはずだが、主体は自衛隊であるにしても、警察、外務省、海保など、国家機関が総力を挙げて実行する必要がある。
 数年前だったら、こんな話をすれば「軍事オタクの右翼OB」とさげすまれたものだがいまやすっかり情勢は変わった!と感じられた。
 松原議員は、私の仮説に対して「ハードランディングも考慮すべきことは当然だが、ソフトランディングこそ望ましい」といった。そのとおりである。完全無欠な結果を得るべき「ソフトランディング」は、政治家や外交官たちが死力を尽くして推進すべきもので、それが成功するに越したことはない。しかし、元パイロットとして言わせてもらえば「ハードランディング」は、着地がかなり激しく、脚の一部が破損するかもしれない着陸状態だが、「ランディング(着陸)」することには変わりはない。後で脚を点検し、修理すれば済む。問題は「クラッシュランディング」である。接地がハードすぎて脚が折れ、滑走路を飛び出して機体が擱座し、乗員が死亡、負傷しても、“乗客”が無事でなければならない。いや、乗客にも犠牲者が出るかもしれないが、政府が完全無欠主義を採るのであれば、この手段は取れないから、いつまでも拉致問題は解決せず、ご家族はやがて老齢化していく。つまり、この問題は一般的政治問題と同様に「棚上げできる問題ではない」のである。
 その意味で、今回この種会合で始めて「軍事的手段」をも考慮した発言をさせていただいたのだが、後半の第2部で登壇された横田滋・早紀江ご夫妻、飯塚繁雄氏がスピーチされたとき、救出時の「クラッシュランディング」で「万一の事態」が起きても、自分たちは納得すると、切々と発言されたので感動した。めぐみさんの母・早紀江さんは既に70歳である。
 人道を「訴えても」通じる相手でない以上、自国民を30年間も「放置し続けてきた」日本国の責任者は、確固たる覚悟でその解決にまい進すべきであろう。
 現役自衛官にはその覚悟で日々の訓練に精進してほしい、と一“老兵の身”を嘆きつつ、お三方の後ろの舞台上でお話を聞いていた次第。

今夜はまたチャンネル桜の収録である。多分「北朝鮮問題」について、井上キャスターと「防衛漫談」することになろうが、今日の安倍・ノムヒョン会談が気にかかるとこるではある。