軍事評論家=佐藤守のブログ日記

軍事を語らずして日本を語る勿れ

北が日米に秋波?

 昨日は都心で史料調査会主催の研究会に出た。講師は李鐘元・立教大学教授で、「北朝鮮と6者協議の行方」という絶妙なタイミングの演題だった。
 李教授は2007年の半島情勢を「選挙と五輪の国際政治学」と題して、中国は五輪の国威発揚/「和平崛起」/経済成長重視。米国は大統領選挙/イラク・イラン・中東優先。韓国は与党の苦戦/南北首脳会談の政治効果?と指摘したが、なぜか日本が抜けていたのが“御愛嬌”だった。1時間半の講演のあと質疑が続き、2時間たっぷり話が聞けたのだが、私は話を聞きながら、次のようなことを漠然と考えていた。
 北朝鮮と中国は、朝鮮戦争のいきさつ上からも、まだまだしこりが残っている。中国は北を信用してはいない。むしろ何をしでかすか分からない存在と認識している。しかし、これをむざむざと自由主義側に渡すことは出来ない。北朝鮮も、朝鮮戦争で中国「義勇軍」の介入がなければ今の存在はなかったのだから、それなりの姿勢を保っているが、心底中国を信頼しているわけではない。
 ひ弱な韓国は、北の残虐さ、恐ろしさを身にしみて味わったから、脅威であることに変わりはないが、一般国民は何と無く「血族」であるかのように感じている。ましてや今「統一」されると、経済的負担は計り知れない。北は韓国を統一して支配下に置きたいが、在韓米軍が邪魔である。
 北とロシアは、過去の経緯から「ほどほど」の関係で、適度に武器が調達できれば双方ともに良い。更にロシアはこれを中国牽制の材料にしたい。
 さて、北にとっての米国と日本だが、米国は世界唯一の大国であり、これに抵抗しても歯が立たないのは自明である。何とか宥めて「友好関係」を保ち、出来たら子分?になってもいい。その材料としては、未だに「休戦状態」にある半島情勢をドラスティックに変更して「半島の戦争状態を終結」させ、ブッシュ大統領に「ノーベル平和賞」授与の機会を与えてもいい。そうすれば、米国は北の行為を“大目に”見てくれるだろうし、経済的にも制裁が緩和される。何よりも在韓米軍は撤退する!既にノーベル平和賞は、クリントンでは失敗したが金大中でその前例は確立している!
一番厄介なのは日本である。小泉首相を何とか「篭絡する」一歩前までいったが、拉致問題で犯行を認めるという大失敗をしてしまった。そのほとぼりを冷ますためには、何とか日本国民を懐柔しなければならないのだが、悪いことに拉致に真剣に取り組む安倍首相が誕生してしまった。拉致被害者を帰国させなければ、日本国民は納得しない。5人返して「解決済み」としたが、日本国民の前に事実関係を証明するというこれまた大失敗をしてしまった。経済支援は貰いたいが、拉致問題解決が進展しなければ無理だろう。そこでありとあらゆる手段を講じて、日本人に工作活動をしたいのだが、在日組織は次々に手入れが始まった。これをどう解決するか?それには強固な日米関係に楔を打ち込むことであり、まずブッシュ大統領と日本の緊密さを切り離すことであろう。それには「ノーベル平和賞」つまり、半島の戦争終結宣言と和平協定締結をちらつかせる。これには誰も反対できまい。そうなると日本人の特に政治家やマスコミは「バスに乗り遅れるな!」と大騒ぎし、拉致問題の早期「妥協論」が出てくるだろう。日本人の「バスに遅れたくない」という感情は、大東亜戦争時代にこれまた証明済みである。
 このように勝手に想像してみると、これから開かれる日朝間の「作業部会」で北側は相当な「秋波」を日本側に送ってくるのではないか?
 金正日首領様は、ことのほか日本に関心が高いが、ある旧軍の情報参謀から聞いたところによると、彼は戦争中に日本軍の「残置諜者」と深い関係にあるという。
真意のほどは定かではないが、北が日本と米国を手玉に取る、というよりは、李教授が言ったように「バランサー」として活用しつつ経済支援を獲得しようとしていることは頷ける。
 今後60日間に北朝鮮は所定の事項を進めなければならないが、放棄するとされた「寧辺の核施設」は時代遅れの廃屋らしいから、稼動の停止と封印は実行するだろう。問題は日朝間が平壌宣言に基づいて「不幸な過去を清算し」「国交を正常化するための措置」を検討する作業部会である。外務省の真骨頂が試されるが、それに影響を与える政府の姿勢とマスコミの報道姿勢から国民は目を逸らしてはならない!